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Chapter.2「透の反抗期は私が思う以上に酷く、乗り越えられるか不安になった。」
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反抗期が始まってから数日後。
「おかえり」
私の挨拶を無視して、無言で家に入って来る透。
「学校どうだった?」
「…いつも通りだけど、何か?」
「そう」
苛ついた声でそう返答する透。
私はそのまま機嫌が悪い日なのだと、それ以上は言わずただその背中を見守る。
その頃は、その悪態にも慣れたようで、透に当たり障りなく対応できているような気がした。
そして、透の態度も最初と比べて落ち着いて来たように見えた。
でも、その時は本当にそう思った、だけだったーー。
その日の夜。
「透、貴方、ずっとマンガ読んでるけど、宿題はしたの?」
「…ちっ、マジでうるせぇな。あんなのゴミだろ。やっても時間の無駄なんだからさ」
「…っ!」
宿題をやってないどころかこの言いよう。
その傲慢さにカチンと来て、そして。
「ゴミって…学校から配られたものをゴミだなんて言うことはないでしょう!それに遊ぶのはやるべきことしてからっていつも言ってるよね!?」
あまりの態度の悪さについ声を荒げてしまった。
「最近こっちの言ったことに対して文句ばっかり言って!家族だからって何してもいいだなんて思ってない!?」
反抗期の相手に絶対にやってはいけないのは、感情的になることを知ってるのに。
今まで抑え込んでたものが針を刺された風船のように爆発させてしまった。
だけど。
「…っち、俺のことでいちいち口出しすんなよ。俺、今更気づいたけど親ガチャ外したな」
「なっ…!!」
毒親。
子供にとって有害な行動を取る親としてよく話を聞くが、自分の気持ちを優先していたり、そもそも子供のことを愛してなかったり…。
そんな人たちのことだと思ってた。
なのに、まさかこんなところで透の口から言われるだなんて。
故意的に傷つけようだなんて思ったこともないのに。
夫がいない中でも不安にさせないようにして来たのに。
「…っ、それが親に対して聞く口なのっ…!?いい加減にしなさいっ…」
私はショックで眼に涙を湧き上がらせながら声を絞り出す。
が。
「…うわ、泣くなよ。泣いて同情を誘おうと言う魂胆がみえみえなんだけど。気持ちわりーな」
「そんなっ…あっ…」
返ってきた答えがこれである。
リビングのドアを叩きつけるように閉め、そのまま自分の部屋へ行く透。
朱莉に反抗期が来たのだから、透にも来ることは覚悟していた。
でも、ここまでひどくなるとは正直思わなかった。
正直、どこかで育て方を間違えたのだろうか、と思った。
そもそも、どうしてここまで酷くなったのか、分からない。
事情をわかってるといえども、一度でも愛情を向けてきた人にあれほどの苛烈な罵詈雑言を浴びせられたのは本当に悲しかった。
最後まで対応していくと決めたのに、現時点でこの先もあの状態の透と向き合わなければならないと思うと心が折れそうだった。
「…っひくっ…」
私は一人、リビングで泣いていた。
それから5分くらい、ソファに座ってぼんやりしていた。
(お父さんに相談できたらな…)
うちは夫が7年前から単身赴任をしていて、ほぼワンオペで二人を見ていた。
けれど、二ヶ月に一回のペースでメールで近況報告をしていた。
しかし、去年の秋から、
「今忙しいから、連絡は控えてくれ」
と言われるようになり、今では1年に一回のメールすら無視されている状態に。
(…今頃何をしてるのかしらね)
だから、今は夫とは仕送り以外ほぼ接触ができず、頼れない状態にあるのだ。
何もする気にならず、テーブルの面をぼんやりと眺めていると、
「…お母さん」
朱莉がリビングに入ってくる。
「…朱莉」
そして、私の隣に座る。
「…さっきのを聞いてたけどさ、甘えてるにしてもやりすぎだよね。正直さ、私も透があそこまでひどくなるとは思わなかったんだよね」
「…」
朱莉が慰めるように言う。
「…本当はお父さんに相談できたらいいんだけど、お父さん最近こっちからの連絡嫌がるからなぁ。なんで嫌がるようになったかな」
「…透、本当にいつか落ち着くのよね?あの状態がこのままずっと続く気がして怖いの」
思わず弱音を漏らす。
頼れる人がいなくて、一人で向き合わなければならない。
ずっと続くわけじゃないとわかってるとはいえ、その終わりがいつなのかがわからない。
そう思うと、不安が増していく。
これが、限界というやつだろうか。
「…すごくしんどそうだね」
朱莉がそんな気持ちを見抜いたかのようにそう呟く。
「…ええ」
誤魔化してもしょうがないので、正直に頷く。
「…まぁ、そうだよね。あそこまでひどいとそういう時期だとわかっててもきついよね。…あ、そうだ。お母さん、あのさ…」
「…何?」
「…お母さんさ、前、小学校の前のカフェに行ってみたいと行ってたじゃない?」
「…それがどうしたの?」
「…そこでお茶してみるのはどう?」
朱莉が突拍子もないことを言い出した。
透とどう向き合えばいいかを言うかと思えば、カフェに行くことを勧めてくるなんて、どういうつもりなのかしら。
「…どうして?」
「お母さんさ、透があんなのになってからずっと透のこと考えてない?」
「…それは、そうね」
「辛いことをずっと考えているとさ、どんどん気が重くなる感じがして、やる気がなくなってこない?」
「…あ…」
朱莉の言う通り、ここ最近、家にいても、仕事をしていても、透のことばかり考えていた。
そして考えれば考えるほど憂鬱な気持ちが膨らんでいき、作業が手がつかなくなることがあった。
だから、朱莉の意図はおそらく…。
「…だからさ、一度気分を切り替えるためにさ、その辛いことを一切考えずに、目の前の楽しみを思いっきり楽しむ時間を作ったほうがいいよ。そしたら、終わった時によし、またやるぞって気になると思うんだ」
「…そう、ありがとう」
私は少しだけ表情を緩ませてそう言う。
つい最近まで反抗期だった朱莉が落ち着いた途端にここまで大人になるなんてね。
「…ふふっ」
まさか娘にこんな時に助けられる日が来るなんてね。
思わず笑ってしまう。
「…あれ?お母さん、何か言った?」
「…いいえ?」
透も反抗期が終わればこうなるのかしらね。
それはそうと、子供の成長はいつだって親を驚かせるものだわ。
そう思うと、透が落ち着く日が楽しみになった。
その日を信じて、また前に進もう。
そう思ったのだった。
「おかえり」
私の挨拶を無視して、無言で家に入って来る透。
「学校どうだった?」
「…いつも通りだけど、何か?」
「そう」
苛ついた声でそう返答する透。
私はそのまま機嫌が悪い日なのだと、それ以上は言わずただその背中を見守る。
その頃は、その悪態にも慣れたようで、透に当たり障りなく対応できているような気がした。
そして、透の態度も最初と比べて落ち着いて来たように見えた。
でも、その時は本当にそう思った、だけだったーー。
その日の夜。
「透、貴方、ずっとマンガ読んでるけど、宿題はしたの?」
「…ちっ、マジでうるせぇな。あんなのゴミだろ。やっても時間の無駄なんだからさ」
「…っ!」
宿題をやってないどころかこの言いよう。
その傲慢さにカチンと来て、そして。
「ゴミって…学校から配られたものをゴミだなんて言うことはないでしょう!それに遊ぶのはやるべきことしてからっていつも言ってるよね!?」
あまりの態度の悪さについ声を荒げてしまった。
「最近こっちの言ったことに対して文句ばっかり言って!家族だからって何してもいいだなんて思ってない!?」
反抗期の相手に絶対にやってはいけないのは、感情的になることを知ってるのに。
今まで抑え込んでたものが針を刺された風船のように爆発させてしまった。
だけど。
「…っち、俺のことでいちいち口出しすんなよ。俺、今更気づいたけど親ガチャ外したな」
「なっ…!!」
毒親。
子供にとって有害な行動を取る親としてよく話を聞くが、自分の気持ちを優先していたり、そもそも子供のことを愛してなかったり…。
そんな人たちのことだと思ってた。
なのに、まさかこんなところで透の口から言われるだなんて。
故意的に傷つけようだなんて思ったこともないのに。
夫がいない中でも不安にさせないようにして来たのに。
「…っ、それが親に対して聞く口なのっ…!?いい加減にしなさいっ…」
私はショックで眼に涙を湧き上がらせながら声を絞り出す。
が。
「…うわ、泣くなよ。泣いて同情を誘おうと言う魂胆がみえみえなんだけど。気持ちわりーな」
「そんなっ…あっ…」
返ってきた答えがこれである。
リビングのドアを叩きつけるように閉め、そのまま自分の部屋へ行く透。
朱莉に反抗期が来たのだから、透にも来ることは覚悟していた。
でも、ここまでひどくなるとは正直思わなかった。
正直、どこかで育て方を間違えたのだろうか、と思った。
そもそも、どうしてここまで酷くなったのか、分からない。
事情をわかってるといえども、一度でも愛情を向けてきた人にあれほどの苛烈な罵詈雑言を浴びせられたのは本当に悲しかった。
最後まで対応していくと決めたのに、現時点でこの先もあの状態の透と向き合わなければならないと思うと心が折れそうだった。
「…っひくっ…」
私は一人、リビングで泣いていた。
それから5分くらい、ソファに座ってぼんやりしていた。
(お父さんに相談できたらな…)
うちは夫が7年前から単身赴任をしていて、ほぼワンオペで二人を見ていた。
けれど、二ヶ月に一回のペースでメールで近況報告をしていた。
しかし、去年の秋から、
「今忙しいから、連絡は控えてくれ」
と言われるようになり、今では1年に一回のメールすら無視されている状態に。
(…今頃何をしてるのかしらね)
だから、今は夫とは仕送り以外ほぼ接触ができず、頼れない状態にあるのだ。
何もする気にならず、テーブルの面をぼんやりと眺めていると、
「…お母さん」
朱莉がリビングに入ってくる。
「…朱莉」
そして、私の隣に座る。
「…さっきのを聞いてたけどさ、甘えてるにしてもやりすぎだよね。正直さ、私も透があそこまでひどくなるとは思わなかったんだよね」
「…」
朱莉が慰めるように言う。
「…本当はお父さんに相談できたらいいんだけど、お父さん最近こっちからの連絡嫌がるからなぁ。なんで嫌がるようになったかな」
「…透、本当にいつか落ち着くのよね?あの状態がこのままずっと続く気がして怖いの」
思わず弱音を漏らす。
頼れる人がいなくて、一人で向き合わなければならない。
ずっと続くわけじゃないとわかってるとはいえ、その終わりがいつなのかがわからない。
そう思うと、不安が増していく。
これが、限界というやつだろうか。
「…すごくしんどそうだね」
朱莉がそんな気持ちを見抜いたかのようにそう呟く。
「…ええ」
誤魔化してもしょうがないので、正直に頷く。
「…まぁ、そうだよね。あそこまでひどいとそういう時期だとわかっててもきついよね。…あ、そうだ。お母さん、あのさ…」
「…何?」
「…お母さんさ、前、小学校の前のカフェに行ってみたいと行ってたじゃない?」
「…それがどうしたの?」
「…そこでお茶してみるのはどう?」
朱莉が突拍子もないことを言い出した。
透とどう向き合えばいいかを言うかと思えば、カフェに行くことを勧めてくるなんて、どういうつもりなのかしら。
「…どうして?」
「お母さんさ、透があんなのになってからずっと透のこと考えてない?」
「…それは、そうね」
「辛いことをずっと考えているとさ、どんどん気が重くなる感じがして、やる気がなくなってこない?」
「…あ…」
朱莉の言う通り、ここ最近、家にいても、仕事をしていても、透のことばかり考えていた。
そして考えれば考えるほど憂鬱な気持ちが膨らんでいき、作業が手がつかなくなることがあった。
だから、朱莉の意図はおそらく…。
「…だからさ、一度気分を切り替えるためにさ、その辛いことを一切考えずに、目の前の楽しみを思いっきり楽しむ時間を作ったほうがいいよ。そしたら、終わった時によし、またやるぞって気になると思うんだ」
「…そう、ありがとう」
私は少しだけ表情を緩ませてそう言う。
つい最近まで反抗期だった朱莉が落ち着いた途端にここまで大人になるなんてね。
「…ふふっ」
まさか娘にこんな時に助けられる日が来るなんてね。
思わず笑ってしまう。
「…あれ?お母さん、何か言った?」
「…いいえ?」
透も反抗期が終わればこうなるのかしらね。
それはそうと、子供の成長はいつだって親を驚かせるものだわ。
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その日を信じて、また前に進もう。
そう思ったのだった。
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