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番外編(パラレル) 『もし、悪役令嬢ではなく“聖女”に選ばれていたなら』
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夜空に、星が落ちた。
それはまるで、誰かの運命に火を灯すかのように。
その日、王国に“聖女”が選ばれた。
天より光を授かり、人々を癒し、未来を導く存在――
その名は、リアーナ・セファール。
---
かつて、彼女は貴族社会の中で「気位の高い令嬢」と囁かれていた。
冷たく、完璧で、笑わず、近寄りがたい。
だが、それはただの仮面だった。
誰もが勝手に期待し、勝手に怯え、勝手に崇める。
その中で彼女はただ、黙って立ち続けていた。
聖女に選ばれたときも、リアーナは笑わなかった。
「選ばれたからには、果たすだけですわ。
その務めが、国のためになるというのなら」
そう言って、彼女は淡く微笑んだ。
その笑みは、人々を安心させ、同時に距離を置かせた。
彼女は、完璧だった。
優しく、聡明で、凛として、誰にも寄りかからなかった。
けれど――
夜、たった一人の時、リアーナは時折、空を見上げてこう呟いた。
「……誰かに“選ばれる”より、“私自身”で在りたかった」
---
ある晩、謁見の間で、彼女は“次期国王”の名を告げられた。
「聖女殿。これほど人心を掴み、民に尊敬される方は他におられません。
次の王にふさわしいのは、あなたです」
そのとき、リアーナははじめて声を上げて笑った。
美しく、どこか哀しい響きを持った笑いだった。
「……そうやって、また“私”を選ぶのですね」
「リアーナ殿?」
「私は、“私”でいたいだけなのですわ。
けれど、きっと誰も、それを望んではくれませんのね」
そして、王冠の前から一歩下がり、ゆっくりと頭を下げた。
「私は、聖女であり、リアーナです。
誰かの象徴にはなれませんわ。
――これ以上、私の名を奪わないでくださいませ」
---
それから数年後。
王都の片隅に、小さな診療院がある。
そこには“元聖女様”と呼ばれる女性がいて、
静かに人々に寄り添い、笑って生きているという。
ある日、旅の青年がその診療院を訪れた。
「あなたが、リアーナ・セファール殿……いや、今は名を隠されていると聞きましたが」
「いえ、“リアーナ”で合っていますわ。――あなたは?」
「王太子、リセル=オルヴィス=アルヴェルトと申します」
一瞬の沈黙のあと、リアーナは微笑んだ。
「……変わった方ですのね。
私のような“過去の人間”に、今さら何の用でしょう?」
「あなたに、お尋ねしたかったのです。
――もし、あの時“選ばれなかった”としたら、あなたは、どう生きていたと思いますか?」
リアーナは、ほんの少し目を伏せた。
「たぶん、悪役令嬢として、舞踏会の片隅で微笑んでいたと思いますわ。
そして、誰かの手を取って――」
彼女はそこで言葉を止める。
「でも、どんな人生でも、きっと私は“リアーナ”で在ったと思います。
聖女でも、悪役でも、“私自身”として生きたかった。
……今は、それが叶っているのですもの。これで、いいのです」
リセルは、何も言わず、その手に一輪の白い花を渡した。
「あなたが何者であれ、あなたが“選ばれた”人生に、祝福を」
リアーナはそっと笑った。
「“選ばれた”のではなく、“私が選んだ”人生ですのよ。
……でも、祝福はありがたく頂いておきますわ」
そして彼女は、花を抱えて空を見上げる。
星が、再び落ちた。
その光は、もう誰かの“運命”ではなく、
彼女の“意志”を照らすものだった。
---
― 完 ―
夜空に、星が落ちた。
それはまるで、誰かの運命に火を灯すかのように。
その日、王国に“聖女”が選ばれた。
天より光を授かり、人々を癒し、未来を導く存在――
その名は、リアーナ・セファール。
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かつて、彼女は貴族社会の中で「気位の高い令嬢」と囁かれていた。
冷たく、完璧で、笑わず、近寄りがたい。
だが、それはただの仮面だった。
誰もが勝手に期待し、勝手に怯え、勝手に崇める。
その中で彼女はただ、黙って立ち続けていた。
聖女に選ばれたときも、リアーナは笑わなかった。
「選ばれたからには、果たすだけですわ。
その務めが、国のためになるというのなら」
そう言って、彼女は淡く微笑んだ。
その笑みは、人々を安心させ、同時に距離を置かせた。
彼女は、完璧だった。
優しく、聡明で、凛として、誰にも寄りかからなかった。
けれど――
夜、たった一人の時、リアーナは時折、空を見上げてこう呟いた。
「……誰かに“選ばれる”より、“私自身”で在りたかった」
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ある晩、謁見の間で、彼女は“次期国王”の名を告げられた。
「聖女殿。これほど人心を掴み、民に尊敬される方は他におられません。
次の王にふさわしいのは、あなたです」
そのとき、リアーナははじめて声を上げて笑った。
美しく、どこか哀しい響きを持った笑いだった。
「……そうやって、また“私”を選ぶのですね」
「リアーナ殿?」
「私は、“私”でいたいだけなのですわ。
けれど、きっと誰も、それを望んではくれませんのね」
そして、王冠の前から一歩下がり、ゆっくりと頭を下げた。
「私は、聖女であり、リアーナです。
誰かの象徴にはなれませんわ。
――これ以上、私の名を奪わないでくださいませ」
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それから数年後。
王都の片隅に、小さな診療院がある。
そこには“元聖女様”と呼ばれる女性がいて、
静かに人々に寄り添い、笑って生きているという。
ある日、旅の青年がその診療院を訪れた。
「あなたが、リアーナ・セファール殿……いや、今は名を隠されていると聞きましたが」
「いえ、“リアーナ”で合っていますわ。――あなたは?」
「王太子、リセル=オルヴィス=アルヴェルトと申します」
一瞬の沈黙のあと、リアーナは微笑んだ。
「……変わった方ですのね。
私のような“過去の人間”に、今さら何の用でしょう?」
「あなたに、お尋ねしたかったのです。
――もし、あの時“選ばれなかった”としたら、あなたは、どう生きていたと思いますか?」
リアーナは、ほんの少し目を伏せた。
「たぶん、悪役令嬢として、舞踏会の片隅で微笑んでいたと思いますわ。
そして、誰かの手を取って――」
彼女はそこで言葉を止める。
「でも、どんな人生でも、きっと私は“リアーナ”で在ったと思います。
聖女でも、悪役でも、“私自身”として生きたかった。
……今は、それが叶っているのですもの。これで、いいのです」
リセルは、何も言わず、その手に一輪の白い花を渡した。
「あなたが何者であれ、あなたが“選ばれた”人生に、祝福を」
リアーナはそっと笑った。
「“選ばれた”のではなく、“私が選んだ”人生ですのよ。
……でも、祝福はありがたく頂いておきますわ」
そして彼女は、花を抱えて空を見上げる。
星が、再び落ちた。
その光は、もう誰かの“運命”ではなく、
彼女の“意志”を照らすものだった。
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― 完 ―
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