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朧月夜の章
朧月夜の章⑧
しおりを挟む名残惜しかったが別れの時間が来てしまった。玻璃は少し怒っているようだが何も言わなかった。一度だけディアゴが振り返ると、朧月夜と目が合った。
朧月夜は恥ずかしそうに目を伏せた。
余裕たっぷりで男をコロコロ転がす彼女が見せる恥じらいの表情。
ディアゴは絶対に忘れまいと記憶に刻み付けた。鏡の池から出ると、再び視線を感じた。白鳥のプリンス、オーランドだろう。チラッと視線を送ればスッと物陰に消えていく。これが王なら引きずり出す所だろうが、自分はしない。重種に立ち向かえないような小鳥に朧月夜は相応しくない。
そのまま立ち去ろうとしたが、オーランドは顔だけ出して叫んだ。
「ま、負けないからな!!」
驚いて見ると、オーランドは再び隠れてしまった。呆気にとられたが、宣戦布告は受け取らないと。それにこういうタイプは嫌いではない。
「ああ。俺も負けない」
少なくとも蒼淳よりは分かりやすくて好感が持てた。オーランドはディアゴの姿が完全に見えなくなったのを確認し、ビクビクしながら鏡の池に通じる扉を開いた。
「・・・オーランド様、お加減が悪いようでしたら医者を呼びますが」
「け、結構だ!これは僕が男を見せた、言わば勲章のようなものだから!」
「随分可愛らしい勲章ね」
「朧月夜さん!」
先程の恐ろしい虎と違い、何と美しいのか。後光が差して見える。オーランドは瞳を輝かせた。
「こ、これを」
オーランドは薔薇の花束を差し出した。大きな花束を朧月夜は嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。とても綺麗ね」
「朧月夜さんの方が綺麗です!!」
「あら。嬉しいわ」
色気のある華やかな美女にオーランドは夢中だ。
鳥族の女性は美しいオーランドに群がり、愛を得ようとするがそれは最初だけ。ビビリな性格に気付くと冷めて去って行ってしまう。
『頼りない男』は競争の激しい世界では生きていけないと何度笑われただろう。軽い女性不信に陥っていたオーランドは親の圧力に耐えかねて今回の見合いに参加したが、彼はここで理想の女性に巡り会った。
臆病な性格を瞬時に見抜かれたが笑わなかった。
貴方はとても優しい人、貴方は貴方の戦い方を模索すれば良いと導いてくれた女神。
何としても彼女と結婚したいと熱望したオーランドはあの手この手でアピールし、最終候補の座を勝ち取った。
「き、今日は勇気を出してみたんです。喧嘩となったら絶っ対勝てないですが、朧月夜さんを思う気持ちは負けません!」
朝顔との見合いをオーランドは思い出した。拳法使いのアイドル風美少女に秒でKOされ、高見から嘲笑われたトラウマは未だ消えずに残っている。
美少女ですら呆気なく倒せた自分があの虎に体力勝負で勝てるわけがない。ならばオーランドは気持ちの強さで戦おうと決めた。
今日の宣戦布告はその第一歩だ。
「勇気のある男性は好きよ。貴方は臆病なんかじゃない。人一倍優しいだけ」
「朧月夜さん・・・!!」
オーランドは思わず朧月夜の手を握った。お触り厳禁が頭を過ぎったが、朧月夜は微笑んで首を横に振った。
「これ位なら大丈夫」
「あ、ありがとうございます!」
女神の手を握っている、それだけでオーランドは天にも昇る心地になった。
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