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朧月夜の章
朧月夜の章㉚
しおりを挟む朧月夜が連れて行かれた先は、フォルクバング共同墓所。
その最奥に、ディアゴの父と母が眠っていた。
「・・・俺の父親は弱くて駄目な男で、心底軽蔑していた。死んだ後もどうしても許せなくて、一度も墓参りに行かなかった」
薄情な息子だ。それでも父は息子の力になろうと夢で会いに来てくれた。
例え笑われても、あれは本物の父だと信じている。
「・・・やっと、許せた。だから君を一緒に連れて来た。父さん、母さん。俺の妻だ。美しいだろう。俺には勿体ない女性だ」
「前にも言ったけど、逆じゃない?」
「いいや。君は最高の女だ。君に選ばれた俺は世界一の幸せ者だ」
「・・・もう、馬鹿ね」
美しい顔は真っ赤に染まった。
一緒にいて初めて気付いたが、朧月夜は意外と照れ屋だ。
自分達はお見合い結婚。交際期間はない。一緒に暮らしていくうちに互いの良い面も悪い面も当然出てくるだろう。
衝突する日も来るだろうが、全部乗り越えて『家族』になる。両親には見守って欲しかった。
花を買いに行く時間はなかったので、ディアゴは式場から持って来た菓子を両親の墓に供えた。
婚礼の時にしか出さない、フォルクバング伝統の焼き菓子だ。
ディアゴと朧月夜が手を合わせた瞬間、温かな風が二人の横を通り過ぎた。
懐かしい匂いがした。きっと、父と母が祝福してくれたのだと信じている。
「・・・また、来る」
小さく呟いて、ディアゴは朧月夜を連れて墓所を後にした。
「・・・ねぇ、これは麦畑?」
戻る道中、朧月夜が指差したのはディアゴの麦畑だ。
収穫を終え、土を起こした状態となっている。次の種蒔きまで間があるので、何か野菜を植えようと思っていた。
そうだ。朧月夜の好きな野菜を植えよう。きっと喜んでくれる。
「ああ。俺の畑だ」
「想像以上に広いわね。今は何もないけど、初夏になったら麦は黄金色に染まるのでしょう?」
「ああ。とても美しい光景だ。黄金色の畑に佇む君は何より美しい」
「貴方も世界一素敵よ。ねぇ、落ち着いたら実家にいる内弟子を引き抜いてきても良いかしら?」
「構わないが、何かするのか?」
ディアゴを見る朧月夜の目はキラキラと輝いていた。
きっと何か思いついたのだろう。
未来への希望に溢れた顔を見ると、何でも叶えてやりたくなる。
ここはディアゴの領地。妻の望みを叶えるだけの力が自分にはあるのだから。
「最初にカフェを作るわ。有機野菜で作った黒狐族の家庭料理と、フォルクバング産の小麦を使ったパンを出すの!」
「カフェか、良いじゃないか。屋敷の一角に空いている土地があるから、早速そこに建てよう」
話の早い夫に朧月夜は上機嫌だ。そしてとっておきのアイデアを披露した。
「それでね、カフェの一角に占い専用のスペースを作るの。占いカフェ。どうかしら?」
「それは絶対流行るな。領外からも客が来るんじゃないか?」
「絶対呼び込むわ!だって私は黒狐族一の占い師だもの!」
「ああ。全部君の望むまま。全て叶えよう!」
「ありがとう!」
朧月夜は嬉しそうにディアゴに抱きついた。ディアゴは優しく朧月夜を受け止める。
逞しい腕に抱かれた朧月夜は満足そうに目を閉じた。
野菜の収穫が終わり、麦の種蒔きが始まる頃。ディアゴの屋敷の一角に小さなカフェがオープンした。
猫の国では珍しい黒狐族の家庭料理と、上質な小麦を使った出来たてのパン。
美しきオーナーによる占いは当たると評判になり、フォルクバングを尋ねる観光客は増加した。
時は過ぎ、黄金に染まった麦畑を朧月夜は楽しそうに歩いていた。
ディアゴが想像したとおり、この世で一番美しい光景だ。
麦畑を歩く朧月夜のお腹は大きく膨らんでいた。
今、彼女のお腹には新しい命が宿っている。何より尊く、愛おしい存在。
宝物を守るようにディアゴは彼女の手を取り、寄り添いながら歩く。
朧月夜は愛しい夫の腕に抱きつき、幸せそうに微笑んだのだった。
~朧月夜の章・終わり~
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