Marriage Interview~異種お見合い婚~

土筆祐依

文字の大きさ
79 / 201
葵の章

葵の章③

しおりを挟む
 


 鼻歌を歌いながら歩いていると、空が此方に向かって歩いて来るのが見えた。

 空も螺鈿の間に行くのだろう。ミハエルは声を掛けず、二人は無言ですれ違った。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 可愛い弟分を無視するのは辛い。

 ただ、空はすれ違い様に視線だけ合わせてくれた。
 優しい空に「他人の振り」は辛いだろうが、これも全てエドワード対策のためだった。

 ユアンの忠告を受けたミハエルは流通会社社長としてのコネを使い、エドワードについて調べた。

 届いた資料を読んだミハエルはため息をつきそうになった。
 鹿族は穏やかで争いを好まない種族だが、その逆を行く男だ。草食動物の皮を被った肉食獣という表現が正しいかも知れない。
 見た目も中性的で美しいから騙されるのだろう。ユアンに聞いておいて良かった。

 学生の空には荷が重い。自分が盾にならなければならないと思った。

 食うか食われるかの世界には慣れている。でなければ世界一の流通会社なんて背負えない。

『お前はサイベリアン運輸で働いている全従業員の人生も背負っているんだ。油断するな!周りは全て敵だと思え!』

『ミハエル、貴方はお父様の後を継いでサイベリアン運輸の社長になるの。その為に貴方を産んだの。お願いだからサイベリアン運輸の名に恥じないような振る舞いをして頂戴!』

 厳しい父親と、公私共に父を支える『戦友』でもある母。

 人生の選択肢を与えず、社長として生きることを強いた両親。遊んだ記憶は一切無く、会話は経営と人間関係の厳しさ。身の毛もよだつ裏切りのあれやこれが中心だ。

 正直、楽しくなかったが勉強にはなった。



 忙しい両親に代わってミハエルを育てたのは執事の爺やだ。

 爺やは女好きで大酒飲み、博打も大好き。駄目な大人の典型だったが、それを全部許せるくらいのチャーミングさを持ち合わせていた。
 ミハエルは爺やの影響をモロに受けて成長した。
 母譲りの美しい顔と、爺や譲りの明るい性格。人気者となったミハエルの周りには人が集まるようになった。

 沢山の友達と、ガールフレンド。楽しかったけど誰も信用できなかった。
 両親の有り難い教えの賜物か、ミハエルは疑り深い性格になっていた。
 
 父親と同じは嫌だなぁ、と思ったが中々根深く矯正は不可能だった。

 夜遅くまで友人と遊び、女の子とデートをしている時も、一歩引いて見ている自分がいる。中心にいる筈なのに、こことは違う世界に一人でいるような錯覚を覚える。

 沢山人がいるのに、寂しい。満たされた時なんて無かった。

『お父様はサイベリアン運輸を更に大きくするために戦っているの。お母様の役目はお父様を隣で支える事。私はそれを誇りに思っているわ』

 父は幸せだ。全てを理解した上で支えてくれる女性に出会えたのだから。
 自分もそんな女性に出会いたい。だから気付かれぬように振るいに掛けた。
 贅沢をさせて、思いっきり甘やかす。女性達はミハエルから更に金を引き出そうと偽りの愛を囁いた。

 うんざりした頃、爺やが自宅の庭で倒れた。

 急いで見舞いに行くと、爺やは若い看護師を口説いている最中だった。
 呆れて帰ろうとしたが、よく見ると爺やの顔色は青を通り越して白かった。毎日見ていたので分からなかったが、以前よりも痩せた気がする。
 きっともう、長くはないのだろう。

『おや若様、どうされたのですか?何かお悩みですか?』

 とてもにこやかな顔だった。流石は育ての親。何でもお見通しだ。
 ミハエルはずっと抱えていた孤独と、漠然とした不安を初めて爺やに話した。通じるかは謎だったが、爺やはうんうんと頷いていた。

『前から思っていたのですが』

『何を?』

『若様は難しく考え過ぎですよ。お父上そっくりだ』

『え!?マジで!?』

『根は真面目なんですよ。だからね、奥方にするなら若様を振り回してくれるような、我が儘で明るいお嬢様がピッタリだと思いますよ』

『何で?真逆じゃん』

 ミハエルは母親のような、夫を献身的に支える女性を探していた。
 母の性格は超が付くほど真面目で、割と神経質だ。なので我が儘なお嬢様は想像もしなかった。

『若様はお父上とは違いますから。だって私が育てたんですよ。堅苦しいのはお嫌いでしょう?』

 爺やはニヤリと笑った。

『お父上とお母上は戦友ですよ。男と女の関係から逸れてしまっている。若様自身はそれをお望みで?』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った

しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。 彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。 両親は彼の婚約者を選定中であった。 伯爵家を継ぐのだ。 伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。 平民は諦めろ。 貴族らしく政略結婚を受け入れろ。 好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。 「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」 待ってるだけでは何も手に入らないのだから。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

処理中です...