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葵の章
葵の章⑩
しおりを挟む「えっ!?」
「・・・申し訳ございませんが、本日より五日間、葵様とは面会出来ません。贈り物も拒否致します」
「理由を聞いても良いですか?」
「自分の胸に聞いてみろ!とのことです。葵様は正義感がお強いですから」
黄玉はそれだけ告げると、さっさと部屋に戻ってしまった。
自分の胸に聞いたって理由は思い当たらない。
ふと過ぎったのはエドワードの顔だ。
(やられた!!)
直球の対義語は間接。
エドワードにとって『中間』は葵だ。葵を動かせば直接エドワードが手を下さなくとも自分達にダメージを与えられる。
五日間の面会拒否という罰則を引き出したエドワードは笑いが止まらなかっただろう。
その間、エドワードは葵の面会権を独占できる。
空は急ぎ、ミハエルに連絡した。
葵はエドワードとのティータイムを終えると、ぐっと背伸びした。
「ん~~~!!」
「・・・葵様、本当によろしかったのですか?ミハエル様と空様の言い分を聞いてからでも良かった気がするのですが」
「良いの!私、卑怯な男は大嫌いなの!」
葵は一度言い出したら余程のことがない限り覆さない。
頑固な主に黄玉はため息をついた。
「逆に黄玉はエドワードに否定的よね。何で?」
「・・・武官の直感というのですかね?あの男は信用ならない」
いつも穏やかな黄玉がここまで強い口調で相手を非難するのは珍しい。
ひょっとして、自分は間違ったのだろうか?葵は気まずくなって視線を下に向けた。
葵は裕福な家庭の末っ子長女として生まれた。
男ばかりの家庭に生まれた待望の女の子。
幼き頃より整った顔立ちは忽ち評判となり、美しく成長した娘を両親と兄達は溺愛した。
最高の教育に、全てが整えられた最高の環境。葵はお姫様のように大切に育てられた。
身に付けるものは全て高級品。両親は葵に関する金を一切惜しまなかった。
兄達は葵を何よりも大切にし、惜しみなく愛情を注いだ。美しい妹を守るのは自分達の使命だと公言した程だ。
正義感が強く、曲がったことが大嫌いな葵は女学校で生徒会長を務めた。
とびっきりの美人で、成績も良く実家も大金持ち。
下級生達からは理想のお姉様として崇められ、他校の男子生徒にとっても高嶺の花だった。
順風満帆な人生を歩む葵だったが、たまに何処かへ飛び出したくなる衝動を覚えるようになった。
・・・分かっている。自分は一人で生きていける力がない。いずれ父の気に入った男と見合いをして、結婚するのだろう。
その男との間に子どもを成し、家庭を支え、子の巣立ちを見届ける。
子どもが結婚したら孫が生まれるだろう。時が経ち、お婆ちゃんになった自分は子どもと孫に看取られながら一生を終える。
なんて幸せな人生だろう。充分じゃないか。つまらないなんて思うのはきっと贅沢だ。
「・・・やっぱり、嫌だなぁ・・・」
葵はポツリと呟いた。
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