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明石の章
明石の章㉗
しおりを挟むその頃、朱寧は一つの仮説を立ててある場所へ向かっていた。
楽団と天帝は在り来たりだが神殿を指しているのだろう。
重要なのはこの黒いフルートと綿毛の花だ。
朱寧はこの花を調べ、恐らく『ノボロギク』という花だろうと結論づけた。
花言葉は『合流』『一致』『遭遇』。
フルートの語源は『息吹』だ。
息吹は生命の兆し、未来への希望として使われる言葉だ。
黒く染まったフルートはその逆を意味するのではないかと朱寧は考察した。
朱寧は神殿の北側にある、人気のない場所に足を踏み入れた。
墓地だ。
黒狐族の墓は石造りで、かまくらのようなドーム型に建てられている。
入り口の横には石盤が設置されていて、名前が彫られている。
誰が眠っているのかが一目で良く分かる。
見渡すと、ドーム型の墓は大小様々で、中には高級石材と名高い大理石で作られた墓もある。
成る程、一際大きい墓は貴族か金持ちの墓なのだろう。
黒狐族の死生観は分からないが、天界で千年も過ごした彼らは天帝の影響を大きく受けているはずだ。
種族で解釈の違いはあるが、共通しているのは死後に黄泉の国へ渡り、死者は転生か地獄行きの裁判を受けなくてはならない。
最高裁判官は天帝の『裏』の顔である冥帝だ。
天帝と冥帝は同一人物だが、朝と夜で役目が切り替わるそうだ。
裁判後に死者は転生か地獄行きかに振り分けられる。
転生が決まった魂は星の川に流され、次の生へ向かう。
朱寧はノボロギクは星の川、黒いフルートは冥界だと考えた。
関係のない自分が他者の墓に入るのは無礼に当たる。
ざっと墓地の周囲を見渡すと、墓地の奥に鮮やかな色彩の建物が見えた。
建物まで歩いて行くと、奥に蝋燭の明りが見えた。
これは寺院だろうか?
木造作りの建物は鮮やかな彫刻で彩られ、中央には巨大な冥帝像が安置されている。
恐ろしい顔をした冥帝像は数百本ある蝋燭の火に照らされ、幻想的だが本能的な恐怖を呼び起こす。
黒狐族の死生観を体現する場所に、きっと明石姫は隠れている。
朱寧は意を決して奥に進んだ。
オマールも朱寧と同じように大神殿周辺に明石が隠れていると予想し、行動していた。
ただ、彼は屋内を中心に捜索していた。
地図片手にオマールが目指すのは楽団の控え室だ。
オマールは白い綿毛の花をダンドボロギクと予想していた。
花言葉は『強い心』。
明石姫にピッタリだ。
黒も、有鱗目の国では不吉とされる一方で『殉教』『尊厳』の意味合いを持つ。
明石姫が隠れている場所は神殿で間違いない。
オマールは楽団で更なるヒントを探すことにした。
『神聖楽団』
それは神官と文官で結成された天界最古の楽団。
所属するだけでも大変な名誉である。試験も大変厳しく、毎年合格者が出るとは限らない狭き門だ。
明石はこの神聖楽団でフルートを担当していた。
オマールが楽団控え室に入ると、神官服を着た黒狐族と犬の文官達が演奏の練習をしていた。
突然部屋に入ってきたオマールを見ても、誰も演奏を止めない。
己が奏でる音に集中していた。
オマールも演奏の邪魔にならない程度に部屋を見て回ると、楽団のスケジュール表が目に入った。
天界での祭事に、公演、慰労など一月分のスケジュールはほぼ埋まっていた。
「今日は練習のみか」
つまり遠出をしているメンバーはほぼいない。
フルート奏者を探すオマールは控え室の奥にある扉を開く。
何の部屋かと思ったが、棚に様々な楽器が置かれていた。
どうやらここは楽器を保管する部屋のようだ。
オマールは部屋を一周してフルートを探したが、何故か無い。
偶々部屋に入ってきた豆柴の文官に話し掛けてみた。
「失礼。この部屋にフルートは無いのですか?」
「演者が使っているんじゃないかな?」
「控え室にはいないようでしたが」
「練習は控え室だけとは限らないよ。大広場で演奏する者も多いよ」
「それは何処ですか?」
オマールが豆柴文官にマップを広げて見せると、彼は大神殿の敷地内にある広場を指差した。
「ここだよ」
教えられた場所はここからそう遠くはない。
オマールは豆柴文官に礼を言うと、大広場に向かった。
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