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明石の章
明石の章㊸
しおりを挟むレオンハルトと明石は知らなかったが、二人が結ばれた瞬間に最終審査終了がアナウンスされた。
朱寧は商店街周辺に、オマールは神殿が経営する病院にいた。
負けが確定した瞬間、朱寧は扇を強く握りしめた。
強く握りしめた拳に白い手が重なる。手の持ち主は隣に立っていた常磐だ。
「イケメンの朱寧さん。高そうな扇が壊れちゃうわよ?」
「・・・・・」
「ま、悔しいよね」
常磐はペナルティーが終わった後も朱寧と一緒に行動していた。
姉の求婚者だが、常磐は朱寧を気に入っていた。
長身で美しく、性格も真面目だ。龍族は冷たいイメージだったが、朱寧は面白くて優しい龍だ。
何より肉食化が進む今時黒狐族女子として、こんなに良い独身男を見逃す訳がない。
常磐は朱寧に腕にギュッと抱きついた。大きな胸が当たるがワザとだ。
『私』を意識させるためには何だってする。
「朱寧さん。明石姉さんは残念だったけど、まだイイ女が残っているわよ。特にオススメなのが目の前に、ほら」
「・・・え?」
「私は明石姉さんの二個下で、二十二歳。前科持ちのヨガインストラクター。趣味は料理、胸はHカップ。腕っ節は強いからメソメソしないし、朱寧さん一筋の良妻になる自信はある。どう?」
「??ど、どう、とは・・・??」
「お見合いよお見合い!私、朱寧さんが気に入っちゃった」
ニヤリと笑う常磐に朱寧の頭は混乱した。先程の悔しさが一気に吹き飛んでしまった。
このまま話していたら完全に丸め込まれそうで、朱寧は常磐から一度逃げようとした。
だが常磐は逃がさない。歯が抜けるほど強烈なビンタを放つ彼女の力は強かった。
「だ~~め。逃がさないわ朱寧さん。話が纏まるまでしっかり話し合いましょう。幸い、時間はたっぷりあるし」
ね、と同意を求める常盤は小悪魔のように笑っていた。
その表情はカラッとした性格を持つ彼女とは思えぬほど、妖艶だった。
朱寧の顔は青くなったり赤くなったりと忙しい。
混乱している間に常磐は近くの喫茶店に朱寧を引き摺って連れて行く。
振り払おうと思えば出来るのに出来ない。
こうなったらとことん付き合おう。幸い、積極的な美人は嫌いではない。
朱寧は腹を括り、常磐とのお見合いに挑んだ。
オマールも敗北を知ると、そのまま倒れてしまった。
ペナルティーが終わってもオマールと行動を共にしていた愛宕は悲鳴を上げた。
「オマール様!!」
幸いここは病院。愛宕はオマールを引き摺りながら医者の元へ連れて行こうとした。
「オマール様!!死なないで!!」
ワンワン泣く愛宕を見て何事かと患者達が集まりだし、スタッフが慌てて駆け付ける。
オマールはそのまま病室まで運ばれた。
愛宕の声が聞こえる。
オマールがベッドの上で目を覚ますと、泣きすぎて目を真っ赤にした愛宕がいた。
「オマール様・・・良かった!」
「ここは・・・?」
「病院です。オマール様は最終審査終了の報告を受けた後、倒れてしまって・・・」
「・・・そうか・・・私は負けたのですね」
敗北を受け入れたオマールは目を閉じた。
女神と結婚する機会を失い、これから自分はどうすれば良いのだろう?
オマールは途方に暮れた。
そんなオマールを見て、愛宕は一生分の勇気を振り絞って呟いた。
「わ、私は、どうですか・・・?」
「・・・え?」
「その、その、私・・・オマール様を一目見た時から気になっていまして・・・す、素敵な方だなぁって」
愛宕の顔は茹で蛸のように真っ赤になっていた。体も緊張で震えている。
「でも、その・・・私には前科もありまして。オマール様には相応しくないと分かっているのですが・・・」
「前科とは?」
「・・・傷害です。仇討ちで、命は奪っていません・・・」
仇討ち
目の前の可憐な少女から出た強烈な一言。オマールは俄に信じられなかった。
「・・・後悔は、していません。どうしても相手を許せませんでした・・・」
涙をこぼす愛宕の頬にオマールは手を添えた。
「有鱗目族にとって、仇討ちは忌避すべきものではありません。故人の名誉を回復するために必要な手段であり、残された者にとって生き甲斐にもなります」
いつだって復讐と仇討ちは賛否が分かれる。
オマール個人の意見だが、残された者が前に進むために必要だと思うならするべきだ。
だから愛宕を責めようとは思わない。
隠そうと思えば出来たのに、正直に話してくれた彼女はとても誠実な人だ。
こんなに純粋で優しい心を持った少女が罪を背負わなければならなかった。
オマールが抱いたのは嫌悪感ではなく悔しさだ。
もっと早く出会えていれば、彼女の盾になれたのに。
「・・・打ち明けるのは辛かったでしょう。愛宕姫、誠実で強い貴方を尊敬します」
「オマール様・・・」
「ああ。心の美しい姫はもう一人いたのですね」
愛宕は嬉しそうにオマールの手を取った。
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