1 / 1
第1章 善意の快諾
しおりを挟む
一月中旬、凍てつくような北風がキャンパスの木々を揺らしている。しかし、いつものゼミ室は、設定温度を高めにした暖房のおかげで汗ばむほどの熱気に満ちていた。
「終わった……。マジで、終わったんだよな、これ」
真邊佑司は、提出を終えたばかりの卒業論文の控えを机に放り出し、椅子の背もたれに深く体を預けた。一七〇センチの、器械体操で磨き上げられた肉体は、冬場でも薄手のロンTの上から、その異常なまでの密度を感じさせる。色白の肌の下には、彫刻のように細かく分かれた筋繊維が潜んでおり、彼が肩を回すたびに、布地の下で大胸筋がピクピクと躍動した。
「お疲れ、佑司。これでようやく、卒業まで遊び倒せるな」 隣りで快活に笑ったのは、同じゼミの同期で一緒に研究をした水泳部の誉田航也だ。一七七センチの長身、逆三角形の広い肩幅、そして冬でも日焼けの跡が残る逞しい肌。犬顔の愛嬌のあるルックスとは裏腹に、その首筋は太く、オスとしての力強さを隠しきれていない。
「お前ら、浮かれすぎだって。まだ試験とか残ってるだろ」 そう言って二人を茶化したのは小嶋邦祐。誉田と同じ水泳部に所属する四年生で、身長は一七六センチ。六十七キロという引き締まった体躯は、水泳部特有のしなやかなバネを感じさせる。小嶋は目立ちたがり屋な性格を裏付けるように、少し派手な柄のパーカーを着こなしているが、その下にある腹筋の溝は、誉田に引けを取らないほど深い。
三人は、ゼミが終わっても部屋に残って雑談をしている。話題は、同じゼミの後輩、サッカー部の来栖のことに及んだ。
「来栖のやつ……睾丸のがんだったなんてな。早期発見だったから良かったけど、片方の玉を摘出するって聞いた時は、正直ビビったよ」
小嶋が神妙な面持ちで語る。二十代前半の、自分たちと同じような若者が股間の病に冒されるという現実は、健康そのものの彼らにとって得体の知れない恐怖を突きつけるものだった。
「自分で触ってて、変に硬いしこりがあるのに気づいたらしいな。あいつ、普段から女子と遊びまくってるから、そういうところは敏感だったのかもな」
誉田が少しだけ茶化すように言ったが、その瞳には後輩を思いやる色が混じっていた。
「でも、男にとって金玉がなくなるって……想像するだけで縮み上がるぜ。俺たちみたいな体育会系は、身体が資本だからな」
真邊は自分の股間を無意識に意識した。体操のユニフォームの中で、いつも過酷な動きに耐えている自分の性器。それが病に侵される可能性など、考えたこともなかった。 そんな三人の会話を遮るように、ゼミ室のドアが勢いよく開いた。
「お前ら、まだいたか。助かったぜ」
現れたのは、ゼミの指導を担当している助教の芝康二だった。一八八センチという学生アメフト選手時代からの変わらぬ巨躯は、部屋に入ってくるだけで空間を圧倒する。芝の太い腕が、三人の肩を次々と叩いた。
「芝先生、どうしたんすか? 卒論のダメ出しなら、もう勘弁してくださいよ」
真邊が苦笑いしながら言うと、芝はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いや、いいニュースだ。お前らに、ちょっとした有名人になってもらう仕事が舞い込んだぞ」
芝の話によれば、大学側にテレビ局から「若年男性のがん予防啓発」に関する番組への協力依頼があったらしい。たまたまゼミ生の来栖が早期発見で難を逃れたという経緯もあり、大学の広報課から芝に対し、健康で清潔感のあるゼミ生を三名推薦してほしいと依頼があったというのだ。
「二十三時台の、若者向けの情報番組だ。啓発活動ってことで、大学も名前を売るために張り切ってるらしいんだ。テレビ局からいくらか謝礼が出るとも聞いてるぞ。何より、来栖のような患者に早期発見してもらうための、立派な社会貢献になる」
「テレビ出演……。啓発番組なら、俺たちの部活の宣伝にもなりそうっすね」
小嶋が食いついた。目立ちたがり屋の彼にとって、地上波への出演は願ってもないチャンスだ。
「社会貢献ってことなら、断る理由はないっすよね。俺も協力したいっす」
誉田も頷いた。真邊も、二人がやるなら異論はなかった。
「わかりました。俺たちで良ければ、出させてもらいます」
「よし、決まりだ。来週の水曜の夕方、テレビ局に集合な。あ、当日は各自の競技ユニフォームを持ってくるようにと言われている。それだけは忘れるなよ。詳しいことは、あとで大学の広報課から連絡がいくと思うからよろしく頼んだぞ」
芝は満足げに三人の背中を叩き、風のように去っていった。
「ユニフォーム姿でインタビューとか受けるのかな。インカレの結果とか、紹介してくれたら嬉しいんだけど。来年度の新入部員集めに使えるかな」
真邊は、純粋にそう考えていた。体操部のエースとしての誇りを胸に、啓発活動という「光」の舞台に立つ。 まさかその一週間後、眩いライトの下で、日本中の視聴者に向けて自分の全裸と、そして完全に勃起した性器を晒し、さらに自分の手で自分の股間を弄り続けるという、「恥辱の極致」が待ち受けているとは、この時の三人は微塵も思っていなかった。
「終わった……。マジで、終わったんだよな、これ」
真邊佑司は、提出を終えたばかりの卒業論文の控えを机に放り出し、椅子の背もたれに深く体を預けた。一七〇センチの、器械体操で磨き上げられた肉体は、冬場でも薄手のロンTの上から、その異常なまでの密度を感じさせる。色白の肌の下には、彫刻のように細かく分かれた筋繊維が潜んでおり、彼が肩を回すたびに、布地の下で大胸筋がピクピクと躍動した。
「お疲れ、佑司。これでようやく、卒業まで遊び倒せるな」 隣りで快活に笑ったのは、同じゼミの同期で一緒に研究をした水泳部の誉田航也だ。一七七センチの長身、逆三角形の広い肩幅、そして冬でも日焼けの跡が残る逞しい肌。犬顔の愛嬌のあるルックスとは裏腹に、その首筋は太く、オスとしての力強さを隠しきれていない。
「お前ら、浮かれすぎだって。まだ試験とか残ってるだろ」 そう言って二人を茶化したのは小嶋邦祐。誉田と同じ水泳部に所属する四年生で、身長は一七六センチ。六十七キロという引き締まった体躯は、水泳部特有のしなやかなバネを感じさせる。小嶋は目立ちたがり屋な性格を裏付けるように、少し派手な柄のパーカーを着こなしているが、その下にある腹筋の溝は、誉田に引けを取らないほど深い。
三人は、ゼミが終わっても部屋に残って雑談をしている。話題は、同じゼミの後輩、サッカー部の来栖のことに及んだ。
「来栖のやつ……睾丸のがんだったなんてな。早期発見だったから良かったけど、片方の玉を摘出するって聞いた時は、正直ビビったよ」
小嶋が神妙な面持ちで語る。二十代前半の、自分たちと同じような若者が股間の病に冒されるという現実は、健康そのものの彼らにとって得体の知れない恐怖を突きつけるものだった。
「自分で触ってて、変に硬いしこりがあるのに気づいたらしいな。あいつ、普段から女子と遊びまくってるから、そういうところは敏感だったのかもな」
誉田が少しだけ茶化すように言ったが、その瞳には後輩を思いやる色が混じっていた。
「でも、男にとって金玉がなくなるって……想像するだけで縮み上がるぜ。俺たちみたいな体育会系は、身体が資本だからな」
真邊は自分の股間を無意識に意識した。体操のユニフォームの中で、いつも過酷な動きに耐えている自分の性器。それが病に侵される可能性など、考えたこともなかった。 そんな三人の会話を遮るように、ゼミ室のドアが勢いよく開いた。
「お前ら、まだいたか。助かったぜ」
現れたのは、ゼミの指導を担当している助教の芝康二だった。一八八センチという学生アメフト選手時代からの変わらぬ巨躯は、部屋に入ってくるだけで空間を圧倒する。芝の太い腕が、三人の肩を次々と叩いた。
「芝先生、どうしたんすか? 卒論のダメ出しなら、もう勘弁してくださいよ」
真邊が苦笑いしながら言うと、芝はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いや、いいニュースだ。お前らに、ちょっとした有名人になってもらう仕事が舞い込んだぞ」
芝の話によれば、大学側にテレビ局から「若年男性のがん予防啓発」に関する番組への協力依頼があったらしい。たまたまゼミ生の来栖が早期発見で難を逃れたという経緯もあり、大学の広報課から芝に対し、健康で清潔感のあるゼミ生を三名推薦してほしいと依頼があったというのだ。
「二十三時台の、若者向けの情報番組だ。啓発活動ってことで、大学も名前を売るために張り切ってるらしいんだ。テレビ局からいくらか謝礼が出るとも聞いてるぞ。何より、来栖のような患者に早期発見してもらうための、立派な社会貢献になる」
「テレビ出演……。啓発番組なら、俺たちの部活の宣伝にもなりそうっすね」
小嶋が食いついた。目立ちたがり屋の彼にとって、地上波への出演は願ってもないチャンスだ。
「社会貢献ってことなら、断る理由はないっすよね。俺も協力したいっす」
誉田も頷いた。真邊も、二人がやるなら異論はなかった。
「わかりました。俺たちで良ければ、出させてもらいます」
「よし、決まりだ。来週の水曜の夕方、テレビ局に集合な。あ、当日は各自の競技ユニフォームを持ってくるようにと言われている。それだけは忘れるなよ。詳しいことは、あとで大学の広報課から連絡がいくと思うからよろしく頼んだぞ」
芝は満足げに三人の背中を叩き、風のように去っていった。
「ユニフォーム姿でインタビューとか受けるのかな。インカレの結果とか、紹介してくれたら嬉しいんだけど。来年度の新入部員集めに使えるかな」
真邊は、純粋にそう考えていた。体操部のエースとしての誇りを胸に、啓発活動という「光」の舞台に立つ。 まさかその一週間後、眩いライトの下で、日本中の視聴者に向けて自分の全裸と、そして完全に勃起した性器を晒し、さらに自分の手で自分の股間を弄り続けるという、「恥辱の極致」が待ち受けているとは、この時の三人は微塵も思っていなかった。
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる