水底の記憶

ユウ6109

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第3章 涙を集める塔

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ネフィルの沈黙を後にしたアレンとセラは、水晶が示す北の方角へと歩みを進めた。目的地は「涙を集める塔」。古文書によれば、そこは人々の悲しみを水に変えて蓄える場所であり、感情と記憶が交差する聖域だという。
道中、ふたりは小さな村を通り過ぎた。村人たちは笑顔を見せながらも、どこか虚ろだった。話しかけても、過去のことを語ろうとしない。まるで、悲しみを忘れることが生きる術であるかのようだった。
「この村も、塔の影響を受けてるのかもしれないね」とセラが言った。
「悲しみを封じることで、記憶も失われていく……そんな気がする」とアレンは答えた。
塔は、村からさらに北へ進んだ先にあった。霧に包まれた丘の上に、黒い石で造られた細長い建造物がそびえていた。近づくにつれ、空気が重くなり、胸の奥が締めつけられるような感覚がふたりを襲った。
塔の入口には、涙を模した紋章が刻まれていた。扉は開いており、誰でも入れるようになっていたが、足を踏み入れるには覚悟が必要だった。
「ここで試されるのは、感情なのかも」とセラが言った。
「記憶を取り戻すには、悲しみと向き合わなきゃいけないんだろうね」とアレンは頷いた。
塔の内部は静かだった。壁には無数の水滴が浮かび、空中に漂っていた。それぞれが誰かの涙であり、記憶の断片でもあるという。ふたりが進むと、中央に円形の祭壇が現れた。その上には、透明な球体が浮かび、淡く光っていた。
水晶が反応し、球体に触れるよう促した。アレンが手を伸ばすと、球体が震え、彼の意識は再び深い水の中へと引き込まれた。
——水の中で、アレンは幼い少女を抱きしめていた。彼女は泣いていた。都市が崩れ、家族を失い、絶望の中で彼だけを頼っていた。アレンは彼女の涙を受け止め、水晶に封じた。
「君の悲しみは、僕が守る。いつか、君が笑える日まで」
その少女の顔は、セラに似ていた。いや、セラそのものだった。
目を覚ましたアレンは、祭壇の前に立っていた。セラが心配そうに見つめていたが、彼は静かに言った。
「君とは、昔……出会ってた。君の涙を、僕が守ったんだ」
セラは驚き、目を見開いた。だが、すぐに涙を浮かべて微笑んだ。
「だから、私……あなたに惹かれたのかもしれない。記憶じゃなくても、心が覚えてた」
ふたりは、塔の最上階へと向かった。そこには、巨大な水槽があり、世界中の涙が蓄えられていた。水晶が再び光り、塔の守護者が姿を現した。
「感情は記憶の鍵。悲しみを受け入れた者だけが、真実に至る。次の門は、氷の海に沈む図書館。そこには、忘れられた知識が眠っている」
アレンとセラは、塔を後にした。ふたりの絆は、記憶だけでなく、感情によっても深まっていた。
丘を下りると、霧が晴れ、空が広がっていた。涙を集める塔は、静かに彼らを見送っていた。
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