水底の記憶

ユウ6109

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第4章 氷の海に沈む図書館

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北へ、さらに北へ。アレンとセラは、凍てつく風の中を進んでいた。水晶が示す次の水の門は、「氷の海に沈む図書館」。そこには、世界から忘れられた知識と、アレンの記憶の断片が眠っているという。
旅の途中、ふたりは雪に覆われた集落に立ち寄った。そこでは、言葉を話せない人々が暮らしていた。彼らは手話と表情で意思を伝え合い、静かに、しかし確かに生きていた。セラはその姿に、沈黙の都ネフィルを思い出した。
「言葉がなくても、心は通じるんだね」と彼女はつぶやいた。
アレンは頷きながらも、どこか遠くを見ていた。彼の胸の奥には、冷たい何かが引っかかっていた。記憶の断片が増えるほど、心の奥に沈んでいた痛みもまた、浮かび上がってくる。
数日後、ふたりは氷の海にたどり着いた。そこは、果てしなく広がる凍った水面と、吹きすさぶ風が支配する世界だった。だが、水晶は確かにこの場所を指していた。
「図書館は……この下にあるんだ」とアレンが言った。
氷の裂け目を見つけたふたりは、慎重に下へと降りていった。氷の洞窟を抜けた先に、巨大な建造物が姿を現した。それは、氷に包まれたまま静かに眠る図書館だった。
扉は閉ざされていたが、水晶が光ると同時に氷が割れ、道が開かれた。中に入ると、そこには無数の書物と記録が並んでいた。だが、どれも凍りつき、触れれば砕けてしまいそうだった。
「ここに、何が眠っているの……?」とセラがつぶやいた。
そのとき、奥の書架から誰かの足音が響いた。現れたのは、白いローブをまとった青年だった。彼はアレンを見ると、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべた。
「……やっと来たんだね、アレン」
「君は……誰?」
「僕はリュカ。君の記憶を封じた者。そして、君の親友だった者だ」
アレンの胸に、鋭い痛みが走った。リュカの名を聞いた瞬間、氷のように冷たい記憶が蘇った。
——かつて、ふたりは水の民の守護者として共に戦っていた。だが、ある日、アレンは禁じられた記憶に触れ、世界の真実を知ってしまった。それを止めるために、リュカは彼の記憶を封じ、湖へと送り出したのだった。
「君を傷つけたくなかった。でも、君は戻ってきた。ならば、もう一度選んでほしい。記憶をすべて取り戻すか、それとも……」
リュカは手を差し出した。その手は震えていた。アレンはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「僕は、知りたい。たとえそれが、痛みでも。君が僕を守ろうとした気持ちも、全部……受け止めたい」
リュカは微笑み、手を引いた。
「ならば、最後の門へ進め。そこには、君自身の記憶がすべて眠っている」
図書館の奥で、水晶が強く光った。氷が砕け、空間が揺れた。次の門が開かれたのだ。
セラはアレンの隣に立ち、そっと手を握った。
「行こう。あなたの記憶のすべてを、私も一緒に見届けたい」
アレンは頷いた。氷の海の底で、ふたりの旅は新たな段階へと進もうとしていた。
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