余命3000文字ーー手紙の余白に咲いた奇跡

第1章 余命3000文字の宣告

小説家志望の**晃《あきら》**は、その日も薄暗い作業部屋でPCに向かっていた。机上には原稿用紙と古びた万年筆、積み重ねられた書簡――どれも思いの丈が溢れて閉じ込めきれなかった言葉たち。そのとき、スマートフォンに「主治医」からの着信があった。
「晃さん、申し上げにくいのですが……あなたの余命は“3000文字”です」
絶句した。言葉の意味を飲み込めない。だが、電子カルテにも“余命：3000文字”とはっきり表示されている。
「日常会話やメール、SNS、原稿、何でも――とにかく、文字を発した分だけ余命が減る仕様です。これは日本文学界では最近急増している“言葉枯渇症”でして……」
小説に取り憑かれた人生の終わりが「文字数」で決まるとは――。シュールでシュタインズ・ゲート的な「運命石の扉」とも言える冗談めいた宣告だが、どこかリアルな絶望と滑稽さが晃を包む。
通話が切れると、手のひらにあるのは、小説家志望でありながら“言葉で死ぬ”ことへの皮肉と、空虚な未来だけだった。
（残り3000文字で、“何を”伝え、誰に“最後の言葉”を送るべきか……）
家族、友人、恩師――。しかし晃の心に浮かんだのは、数年会わず、少しずつ疎遠になっていた祖母の顔だった。
晃は迷いながらも、最後の「大切な何か」を伝えるため、祖母宛の手紙を書くことを決心した。