4 / 9
第4章 星の塔、闇の咆哮
しおりを挟む
星の封印がひとつ解かれたことで、世界の空気はわずかに変わった。空は澄み、風は柔らかく、夜空の星々は以前よりも強く瞬いているように見えた。
だが、それは嵐の前の静けさだった。
リオとセラは、次なる封印の地「星の塔」へ向かっていた。そこはかつて星の神官たちが祈りを捧げていた聖地であり、今は廃墟と化した高地の遺跡に眠っているという。
「星の塔は、風の民が守っていた場所。だけど、百年前の戦争で民は散り、塔は封印とともに閉ざされたままなの」
セラは歩きながら語った。彼女の声には、どこか懐かしさと哀しみが混じっていた。
「君は、そこに行ったことがあるの?」
「夢の中で、何度も。星の巫女としての記憶なのかもしれない」
リオは頷いた。セラの記憶には、時折“星の記憶”が混ざることがあった。彼女自身もそれを完全には理解していないが、星の力が彼女を通して語りかけているのだとリオは感じていた。
旅の途中、ふたりは小さな村に立ち寄った。そこには、かつて風の民の末裔が暮らしていたという老人がいた。
「星の塔に行くつもりか……あそこは、もう誰も近づかん。闇が巣食っておる」
老人の言葉に、セラは静かに答えた。
「だからこそ、行かなければならないんです。星の力を取り戻すために」
老人はしばらく黙っていたが、やがて古びた地図を差し出した。
「これを持っていけ。塔への道は険しいが、星の巫女ならば辿り着けるだろう」
ふたりは礼を言い、再び歩き出した。
星の塔は、断崖の上にそびえていた。かつては白い石で築かれた美しい塔だったが、今は黒い蔦に覆われ、空に向かって呻くように立っていた。
「……ここが、星の塔」
リオは息を呑んだ。塔の周囲には、空気が重く淀んでいた。まるで、見えない手が空を押し下げているかのようだった。
「闇の力が強い。星喰らいの一族が、ここを拠点にしているのかも」
セラは星の核を取り出し、胸元に抱いた。
「リオ、ここから先は危険よ。もし何かあったら——」
「言わないで。俺は君と一緒に行くって決めた。最後まで、君の隣にいる」
セラは微笑んだ。だが、その瞳の奥には、決意と不安が交錯していた。
塔の内部は、かつての神殿の面影を残していた。壁には星の紋章が刻まれ、天井には崩れかけたステンドグラスが残っていた。
だが、そこに待ち受けていたのは、あの男だった。
「ようこそ、星の巫女。そして、守護者よ」
黒いローブをまとった男——星喰らいの一族の使者が、塔の中央に立っていた。
「お前たちが封印を解くたびに、我らの主は目覚めに近づく。星の力は、闇の糧となるのだ」
「星の力は、希望のためにある。お前たちには渡さない!」
セラが叫ぶと、男は冷笑した。
「ならば、力で証明してみせろ」
男が手をかざすと、塔の床が震え、闇の獣が姿を現した。黒い霧をまとい、牙を剥いたその姿は、まさに悪夢の具現だった。
「リオ、下がって!」
「いや、俺も戦う!」
リオは剣を抜いた。村を出る前に鍛冶屋の老人から譲り受けた、星鉄で鍛えられた剣だ。
獣が咆哮し、ふたりに襲いかかる。リオは剣で応戦し、セラは星の核から光を放って闇を押し返した。
だが、獣の力は強く、ふたりは徐々に追い詰められていった。
「セラ、もう一度……星の封印を解く儀式を!」
「でも、今ここで使えば、私の命が——」
「構わない! 君が生きていてこそ、星は輝くんだ!」
リオの叫びに、セラは目を見開いた。
「……わかった。リオ、力を貸して」
ふたりは手を取り合い、星の核を掲げた。
「星よ、我らに力を——!」
塔全体が光に包まれた。星の紋章が輝き、天井のステンドグラスが砕け、空から光が降り注いだ。
獣は光に焼かれ、悲鳴を上げて消えていった。
男は後退しながら、呟いた。
「……まさか、ふたりの力がここまでとは。だが、これで終わりではない。主は目覚める。星の巫女よ、お前の命と引き換えに——」
その言葉を最後に、男は闇の中へと消えた。
塔の中心に、星の封印が現れた。セラは静かに歩み寄り、星の核をはめ込んだ。
光が広がり、塔全体が震えた。
「これで……二つ目の星が、戻った」
セラは膝をついた。リオが駆け寄り、彼女を支えた。
「セラ、大丈夫か?」
「うん……でも、少しだけ、眠らせて」
リオは彼女を抱きしめながら、空を見上げた。
夜空には、新たな星が輝いていた。
だが、それは嵐の前の静けさだった。
リオとセラは、次なる封印の地「星の塔」へ向かっていた。そこはかつて星の神官たちが祈りを捧げていた聖地であり、今は廃墟と化した高地の遺跡に眠っているという。
「星の塔は、風の民が守っていた場所。だけど、百年前の戦争で民は散り、塔は封印とともに閉ざされたままなの」
セラは歩きながら語った。彼女の声には、どこか懐かしさと哀しみが混じっていた。
「君は、そこに行ったことがあるの?」
「夢の中で、何度も。星の巫女としての記憶なのかもしれない」
リオは頷いた。セラの記憶には、時折“星の記憶”が混ざることがあった。彼女自身もそれを完全には理解していないが、星の力が彼女を通して語りかけているのだとリオは感じていた。
旅の途中、ふたりは小さな村に立ち寄った。そこには、かつて風の民の末裔が暮らしていたという老人がいた。
「星の塔に行くつもりか……あそこは、もう誰も近づかん。闇が巣食っておる」
老人の言葉に、セラは静かに答えた。
「だからこそ、行かなければならないんです。星の力を取り戻すために」
老人はしばらく黙っていたが、やがて古びた地図を差し出した。
「これを持っていけ。塔への道は険しいが、星の巫女ならば辿り着けるだろう」
ふたりは礼を言い、再び歩き出した。
星の塔は、断崖の上にそびえていた。かつては白い石で築かれた美しい塔だったが、今は黒い蔦に覆われ、空に向かって呻くように立っていた。
「……ここが、星の塔」
リオは息を呑んだ。塔の周囲には、空気が重く淀んでいた。まるで、見えない手が空を押し下げているかのようだった。
「闇の力が強い。星喰らいの一族が、ここを拠点にしているのかも」
セラは星の核を取り出し、胸元に抱いた。
「リオ、ここから先は危険よ。もし何かあったら——」
「言わないで。俺は君と一緒に行くって決めた。最後まで、君の隣にいる」
セラは微笑んだ。だが、その瞳の奥には、決意と不安が交錯していた。
塔の内部は、かつての神殿の面影を残していた。壁には星の紋章が刻まれ、天井には崩れかけたステンドグラスが残っていた。
だが、そこに待ち受けていたのは、あの男だった。
「ようこそ、星の巫女。そして、守護者よ」
黒いローブをまとった男——星喰らいの一族の使者が、塔の中央に立っていた。
「お前たちが封印を解くたびに、我らの主は目覚めに近づく。星の力は、闇の糧となるのだ」
「星の力は、希望のためにある。お前たちには渡さない!」
セラが叫ぶと、男は冷笑した。
「ならば、力で証明してみせろ」
男が手をかざすと、塔の床が震え、闇の獣が姿を現した。黒い霧をまとい、牙を剥いたその姿は、まさに悪夢の具現だった。
「リオ、下がって!」
「いや、俺も戦う!」
リオは剣を抜いた。村を出る前に鍛冶屋の老人から譲り受けた、星鉄で鍛えられた剣だ。
獣が咆哮し、ふたりに襲いかかる。リオは剣で応戦し、セラは星の核から光を放って闇を押し返した。
だが、獣の力は強く、ふたりは徐々に追い詰められていった。
「セラ、もう一度……星の封印を解く儀式を!」
「でも、今ここで使えば、私の命が——」
「構わない! 君が生きていてこそ、星は輝くんだ!」
リオの叫びに、セラは目を見開いた。
「……わかった。リオ、力を貸して」
ふたりは手を取り合い、星の核を掲げた。
「星よ、我らに力を——!」
塔全体が光に包まれた。星の紋章が輝き、天井のステンドグラスが砕け、空から光が降り注いだ。
獣は光に焼かれ、悲鳴を上げて消えていった。
男は後退しながら、呟いた。
「……まさか、ふたりの力がここまでとは。だが、これで終わりではない。主は目覚める。星の巫女よ、お前の命と引き換えに——」
その言葉を最後に、男は闇の中へと消えた。
塔の中心に、星の封印が現れた。セラは静かに歩み寄り、星の核をはめ込んだ。
光が広がり、塔全体が震えた。
「これで……二つ目の星が、戻った」
セラは膝をついた。リオが駆け寄り、彼女を支えた。
「セラ、大丈夫か?」
「うん……でも、少しだけ、眠らせて」
リオは彼女を抱きしめながら、空を見上げた。
夜空には、新たな星が輝いていた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった
風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」
王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。
しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。
追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。
一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。
「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」
これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる