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第3章 盗みと追跡と奇妙な笑い声
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朝靄の残る道を三人は歩いた。Harunの心は軽く、足取りは自然と速まった。Kadeはときおり遠くを眺め、Mikは路傍の瓦礫に躓いては大袈裟に余裕を見せる。旅の列はまだ短いが、互いの存在がじんわりと体温になってきていた。
「次はどこへ向かうつもりだ?」とKadeが問うた。
「まずは北の街、Windmarだ」Harunは短く答えた。「古い商会の記録に、断片と似た紋章があったらしい」
Kadeが頷く。地図の断片は小さく脆かったが、手がかりとしては十分だった。
道が細くなると、村はやがて林と石切り場に挟まれた一本道へと変わった。木陰の中、風は葉を囁かせ、まばらな陽光が三人の影を揺らした。その時、遠くで小さな悲鳴と急ぎ足の音が混ざり、空気が一瞬引き締まる。
「誰かが追われている」Mikが耳を澄ます。彼の目は瞬時にかっと光った。三人は無言で音のする方へ向かう。
藪の縁で出会ったのは、買い物袋を抱えて一人走る少女と、それを追う三人組の市兵たちだった。少女の顔は青ざめ、手に抱えた袋の中からは陶器の欠片が覗いている。市兵の一人が腕を伸ばし、声を荒げる。
「止まれ!盗品は返せ!」
少女は振り返り、恐怖と焦りで足を滑らせる。Harunは反射的に手を伸ばし、彼女を受け止めた。袋は地面に落ち、中からいくつかの皿が砕けて音を立てた。
「何があった?」Kadeが低く言う。市兵たちは三人を睨み、すぐに構えを取る。小さな状況説明のあと、少女は震える声でこう呟いた。
「…市場で、みんなが困ってたから…助けるつもりで…でも見つかって…」
「見つかったっていうのは窃盗だろう」と市兵の一人。彼らの態度には容赦がなく、規律の名の下に冷たさがあった。
だがその瞬間、茂みの陰から別の影が滑り出た。細身の人物が地面を踏まずに走るような動きで現れ、気配だけで場を攪乱したのはすでに見覚えのある顔だ。Mikがくすっと笑う。
「またお前かよ」Mikの声に、影は軽い返答を返す。細い影の持ち主は白いフードを高く被り、顔の下半分を暗がりに隠していた。だが、口元に忍んだ微笑みは確かに軽やかだった。
「いたずら仲間の助っ人ってところか」Harunが言うと、その影は軽やかに片手を挙げ、言葉を選んで答えた。「市兵は規則に厳しいが、正義は規則に縛られない」
その声に市兵は眉を寄せ、剣を向けた。場は緊迫した。Kadeが一歩前に出るが、その時、影は驚くほど速く動いた。気付けば市兵の脇腹に短い刃先が押し当てられており、動きの隙を突かれて彼等はたじろいだ。刃は傷つけるためではなく、ただ声の届かない威嚇のために使われた。
「さあ、話をしよう」影の声はやんわりとしている。少女は震えながらも立ち上がり、市兵の一人が威厳を取り戻してこう言った。「この者は窃盗の前科がある。裁きは公にある」
「公の前に、まずは人の心を見ろ」影は静かに言い放つ。市兵は動揺を隠せない。刃を手にしていた影の指先に、かすかな金属音の余韻が残った。
結局、話し合いと、影の示した根拠によって少女は釈放された。市兵たちは名誉と顔を守るために何かを言い残すように去るが、背筋には不安が走る。刃の影は消え、茂みに溶けるようにして去って行った。三人は互いに顔を見合わせる。
「助けに来る人間は、いつも奇妙だな」Mikが呟く。
Harunは不意に胸の中に小さな冷たさを感じた。影が残した刃先の感触、その声、その残像が、どこか古い物語の切れ端を呼び醒ました。断片の紋章を思い出す指先が、そっと懐の中で震える。
少女はお礼を言い、涙を拭うと、慌てて去っていった。彼女の背中にHarunは一抹の不安と希望を同時に感じた。世界は小さな親切で繋がっていると同時に、見えない力が人々の運命を操るのだと。
その夜、宿の片隅で三人はささやかな作戦会議を開いた。Kadeは剣の手入れをしながら、Harunに静かに問うた。
「君は何を探している?」
Harunは地図の断片を取り出し、そっとその紋章を示した。火のような紋章は夜の灯の中できらりと光り、三人は黙って見入った。Mikは指先で図形をたどり、ふと考え込む。
「これ、誰かの印だ。意味があるはずだ」Kadeが言う。「そして、俺たちはそれを追う。だが気をつけろ。追えば追うほど、何かが反応する」
言葉の重さに、Harunの胸は締め付けられた。旅は進む。仲間は増え、道は広がる。だがどこかで、誰かが彼らの動きを注視していることを、まだ彼らは知らない。夜の静けさの中、遠くの灯りが一つ、また一つ消えていった。
「次はどこへ向かうつもりだ?」とKadeが問うた。
「まずは北の街、Windmarだ」Harunは短く答えた。「古い商会の記録に、断片と似た紋章があったらしい」
Kadeが頷く。地図の断片は小さく脆かったが、手がかりとしては十分だった。
道が細くなると、村はやがて林と石切り場に挟まれた一本道へと変わった。木陰の中、風は葉を囁かせ、まばらな陽光が三人の影を揺らした。その時、遠くで小さな悲鳴と急ぎ足の音が混ざり、空気が一瞬引き締まる。
「誰かが追われている」Mikが耳を澄ます。彼の目は瞬時にかっと光った。三人は無言で音のする方へ向かう。
藪の縁で出会ったのは、買い物袋を抱えて一人走る少女と、それを追う三人組の市兵たちだった。少女の顔は青ざめ、手に抱えた袋の中からは陶器の欠片が覗いている。市兵の一人が腕を伸ばし、声を荒げる。
「止まれ!盗品は返せ!」
少女は振り返り、恐怖と焦りで足を滑らせる。Harunは反射的に手を伸ばし、彼女を受け止めた。袋は地面に落ち、中からいくつかの皿が砕けて音を立てた。
「何があった?」Kadeが低く言う。市兵たちは三人を睨み、すぐに構えを取る。小さな状況説明のあと、少女は震える声でこう呟いた。
「…市場で、みんなが困ってたから…助けるつもりで…でも見つかって…」
「見つかったっていうのは窃盗だろう」と市兵の一人。彼らの態度には容赦がなく、規律の名の下に冷たさがあった。
だがその瞬間、茂みの陰から別の影が滑り出た。細身の人物が地面を踏まずに走るような動きで現れ、気配だけで場を攪乱したのはすでに見覚えのある顔だ。Mikがくすっと笑う。
「またお前かよ」Mikの声に、影は軽い返答を返す。細い影の持ち主は白いフードを高く被り、顔の下半分を暗がりに隠していた。だが、口元に忍んだ微笑みは確かに軽やかだった。
「いたずら仲間の助っ人ってところか」Harunが言うと、その影は軽やかに片手を挙げ、言葉を選んで答えた。「市兵は規則に厳しいが、正義は規則に縛られない」
その声に市兵は眉を寄せ、剣を向けた。場は緊迫した。Kadeが一歩前に出るが、その時、影は驚くほど速く動いた。気付けば市兵の脇腹に短い刃先が押し当てられており、動きの隙を突かれて彼等はたじろいだ。刃は傷つけるためではなく、ただ声の届かない威嚇のために使われた。
「さあ、話をしよう」影の声はやんわりとしている。少女は震えながらも立ち上がり、市兵の一人が威厳を取り戻してこう言った。「この者は窃盗の前科がある。裁きは公にある」
「公の前に、まずは人の心を見ろ」影は静かに言い放つ。市兵は動揺を隠せない。刃を手にしていた影の指先に、かすかな金属音の余韻が残った。
結局、話し合いと、影の示した根拠によって少女は釈放された。市兵たちは名誉と顔を守るために何かを言い残すように去るが、背筋には不安が走る。刃の影は消え、茂みに溶けるようにして去って行った。三人は互いに顔を見合わせる。
「助けに来る人間は、いつも奇妙だな」Mikが呟く。
Harunは不意に胸の中に小さな冷たさを感じた。影が残した刃先の感触、その声、その残像が、どこか古い物語の切れ端を呼び醒ました。断片の紋章を思い出す指先が、そっと懐の中で震える。
少女はお礼を言い、涙を拭うと、慌てて去っていった。彼女の背中にHarunは一抹の不安と希望を同時に感じた。世界は小さな親切で繋がっていると同時に、見えない力が人々の運命を操るのだと。
その夜、宿の片隅で三人はささやかな作戦会議を開いた。Kadeは剣の手入れをしながら、Harunに静かに問うた。
「君は何を探している?」
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「これ、誰かの印だ。意味があるはずだ」Kadeが言う。「そして、俺たちはそれを追う。だが気をつけろ。追えば追うほど、何かが反応する」
言葉の重さに、Harunの胸は締め付けられた。旅は進む。仲間は増え、道は広がる。だがどこかで、誰かが彼らの動きを注視していることを、まだ彼らは知らない。夜の静けさの中、遠くの灯りが一つ、また一つ消えていった。
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