Dawn of the Lost Sea

ユウ6109

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第23章 新たな護送

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王都の余韻がまだ町の石畳に残る頃、Harunは護送隊の最終準備を整えた。断片は小包に分割され、互いに照合できるしるしが刻まれている。受け入れ先となる複数の修道院と地方自治体には密かに連絡を取り、受領の確約は取れたが、道中の安全は誰にも保証できない。黒帆の影は消えていないし、利益を奪われた旧勢力は新たな手段を探している。Harunは仲間の顔を一つずつ見回し、短く命じるだけで細かい動きが始まった。
出発は薄曇りの朝だった。PhilとFerreが先導して偽装貨物の隊列を組み、Bhelmと数名の民兵が後方支援、Mikは諜報役として市場に残る連絡網との結節を担い、Kadeは隊の護衛を統括する。Rheaは呪法書を胸に抱え、代理は各保管先との連絡委任を確認しつつ、Harunは箱の一部を最後に点検してから自身の肩に掛けた。出立の合図は静かで、村里を抜ける道は最初は平穏だった。
道中、Harunは断片が引き起こす「噂」の力を思い知る。各地の村々で護送隊を見かけると、人々は立ち止まり、遠巻きに祝福を送る者、疑念を向ける者、そして密かに金を差し出して取引の申し出をする者がいた。忘却の制度が露呈した今、誰もが自らの記憶の価値を再評価しているのだ。Harunはその視線を胸に刻み、彼らの荷の重さが単に物理的なものではないことを再認識する。
護送が三日目に差し掛かった夜、Philからの急報が届いた。前方の小集落で不穏な足音が確認され、偵察が報復部隊の接近を示した。Harunは即座に進路を変え、林間の小道へと隊を入れた。そこは地図にも載らぬ古い山道で、通行は困難だが追跡をかわすには適している。Kadeは先頭を切り、足跡や気配を確かめながら進む。闇が深まると、遠方で焚火の灯が見え、覆面の煙の匂いが風に混ざった。敵は慎重に動いている。
夜の包囲戦は小規模で素早く、だが計画的だった。黒帆に繋がる傭兵の一隊が待ち伏せをしかけ、偽の脱線ルートをつくって護送を分断しようとする。Harunは仲間を二手に分けるよう命じ、自らは最も脆弱な小包を抱えた護衛の側に残った。戦闘は瞬時に激しさを増し、火花と鉄の音が樹間に反響する。KadeとCelenの不在は痛いが、Celenの言葉がHarunの背中で力となる。Bhelmは鍋を盾に敵を撹乱し、Mikは素早く小包を隠す術を施した。Rheaの詠唱が闇を薄く裂き、敵の進行を鈍らせる。
だが戦いの最中、Philが負傷し、Ferreが一時的に行方をくらませる。負傷は致命的ではなかったが、隊のペースは狂う。Harunは負傷者を抱えて遅滞を最小にする決断を下し、代理を残して先行させるべきだと判断した。真っ暗な林間での判断は苦く、仲間を分けることが増えるほどに責任は重くなる。彼は掌の中のコインを握りしめ、短く呟いてから仲間の回復に手を貸した。
数日の悪路を経て、護送隊は第一の受け入れ先である山間の修道院に到着した。修道院長は静かな口調で受け入れを告げ、断片を安置するための地下庫を案内した。そこには古い祭具と共に、共同で監督するためのメカニズムが既に用意されていた。修道院の信徒たちは慎重に断片の一部を封じ、簡易の監査記録を作成する。Harunは安堵しつつも、同時に胸の奥で新たな不安を感じた。断片を分けたことで、守りは生まれるが監督という名の責務は増えた。
修道院での一夜、Harunは外套に隠れて訪れた一人の男に気付く。男は穏やかな笑みを浮かべていたが、その目には疲労と計算が混ざっている。彼は自らを「交易者」と名乗り、Harunの働きを讃えた。だが会話が進むにつれて、彼の態度には静かな圧力が含まれていることが明らかになった。男はある地方の有力者と繋がりがあり、断片の一部を「保護」する見返りに大きな利権を要求する。Harunはその取引を拒否したが、交易者はにやりと笑い、忠告を残して立ち去る。「良い意図は高く売れる。善意は資本になるのだ」と。
翌朝、護送隊は分散を続ける。修道院の地下庫に残された断片は厳重に施錠され、信徒たちが誓約書に署名する。それでもHarunは心配を拭えなかった。制度を分かち合うことは、常に妥協と守りの綱渡りを伴う。道は続き、次の受け入れ先へと進む中で、彼はますます自分のなすべきことの輪郭を明確にしていった。公開によって始まった変化は、実務の段階で試され、磨かれていく。
旅の半ば、Harunは夜の焚火で仲間に向けて話した。言葉は静かだが重みがあった。「我々がやるべきは、単に断片を守ることではない。誰もが携わり、学び、決められる仕組みを作ることだ。覚えることは時に痛みを伴うが、忘却に委ね続けるよりは、ずっと尊い」仲間たちはそれぞれに頷き、Celenの名を静かに挙げて杯を掲げた。失ったものの多さを知るからこそ、彼らの決意は揺るがなかった。
護送の終盤、黒帆の残党が再び急襲を仕掛けてきた。だが今回は戦況が彼らに不利に働いた。分散された監視網と地方の民兵の協力、そしてRheaが編み出した局地的な封印技術が連動し、襲撃は失敗に終わる。傭兵たちは追跡され、黒帆の残影は次第に薄れていった。勝利は完璧ではないが、かつてのような一方的な支配の力は弱まっていた。
護送が終わる頃、Harunは胸の中で一つの確信を抱いた。権力は人々の合意と責任によってのみ正当性を保てるのだと。断片は依然として危険をはらんでいるが、分配された監督の輪がある限り、独占は続かない。彼は握っていたコインを火にかざす仮面のように眺め、静かに笑った。旅は終わらない。だがその先にあるのは、もう一度同じ痛みを繰り返させないための、少しだけ強く結ばれた共同体だった。
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