Dawn of the Lost Sea

ユウ6109

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第28章 波間の誓い

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潮の匂いが夜の冷気に混ざる頃、Harunは甲板に腰掛けて海を見つめていた。護送と制度化の試験運用が進み、各地に小さな安定の輪が広がりつつあるとはいえ、彼の胸に残る不安は消えなかった。変化は芽生えたが、根付かせる仕事はむしろこれからが本番だ。彼の掌にはいつものコインがあり、その冷たさが現実を伝えてくる。
船は小さな港に着き、Harunたちは次のモデル地区の視察と支援のために上陸した。到着を待ち受けていたのは、年配の女性代表と数名の村長たちだった。村は海風にさらされる断崖の上にあり、近年は交易路の変化と飢饉で疲弊していた。彼らが最も恐れていたのは、外部の制度がうわべだけで終わり、結局は生活の重荷が地元に押し付けられることだった。Harunは彼らの目を見て、約束を繰り返す。言葉は飾らず、具体策を並べた。補助金の運用方法、封印の管理責任者の選出手順、紛争発生時の緊急対応フロー。村の代表は慎重に問いを重ね、Harunたちは一つずつ答えを示していった。
その夜、Harunは村の古い見張り台に一人で登り、星を数えた。Rheaが先にやってきて静かに隣に座る。彼女は疲労を隠さず、しかし確信を帯びた口調で言った。「詠唱の体系は整理できた。封印の基本原理は伝えられる。だが本当に必要なのは、人がそれをどう受け止めるかの教育だ。記憶は科学だけで扱えるものではない」
Harunは頷き、幼い頃の浜辺の断片を心に浮かべる。Celenの笑い声、村の匂い、失った夕べ。彼は詩的に言うよりも現実的なことを選んだ。「我々は制度を土台にして、人々が日常でその制度を使えるようにする。教えること、支えること、そして壊されたときに立て直すこと。三つが同時に要る」
翌日、村の会合でHarunたちは実務演習を行った。封印を施す手順を順を追って示し、修道院の術師が参加者と共に模擬封印を行った。若者たちが詠唱を反復し、年配者が日常業務の監督役を申し出る場面も生まれた。実務の中で、恐れは少しずつ緩んでいったが、同時に新たな責任意識が芽生えた。Harunはその成長を静かに見守り、心の中で小さく呼吸を整えた。
だが到来する安息は短く、情報は波のようにまた動き出す。ある朝、港から急使が来て、王都の共同議会内に新たな圧力がかかり始めたと告げた。監査の一部メンバーが条文の解釈を巡って揺れ、王都の旧勢力が法的な抜け穴を利用しようとしている。Harunは急遽帰還を命じられる。村の代表は落胆の色を見せるが、協力の継続を約束して見送ってくれた。Harunは背を向けるときに、海辺に残る小さな手形を見つめ、約束を胸に収めた。
王都に戻ると、議会は緊張状態にあった。旧勢力は監査手続きの複雑さを突き、共同議会の合意形成を遅滞させる方策を露骨に試みている。彼らは法的専門家を動員し、技術的議論を持ち出して民意の勢いを削ごうとする。Harunは目の前で繰り広げられる言葉の応酬に苛立ちを隠せない。だが代理が言う通り、暴力で押し切るのではなく、手続きの隙間を埋めるのが今求められる仕事だ。
会議の合間、HarunはRhea、Phil、Ferre、Kadeと連絡を取り合い、共同の戦略を再結成する。Rheaは法的な文言の整合を助けるために写しの注釈を作り、PhilとFerreは監査手続きの透明化を担保する実務案を作る。Kadeは都市の要所に民兵を配し、事務的圧力が暴力に転じないよう準備を整えた。Harunは仲間たちの計画を頼もしく思いながら、同時に疲弊と焦燥の匂いを感じた。変革は継続的な消耗戦である。
その夜、議会の外で小さな騒動が起きる。旧勢力の支持者が、共同議会に対する不満を口実に広場を埋め、法的議論を政治的圧力に転化しようとする。Harunは仲間と共に広場へ向かい、市民の音声を落ち着かせつつ、同時に冷静に事態を見守った。Bhelmは鍋を持って人々に温かい食事をふるまい、Mikは情報を整理して流言の収束を図り、代理は旧勢力と接触して挑発を沈静化させた。騒動は暴力に至らず収束したが、Harunは手応えよりも疲労を感じていた。
疲労の中で、彼はある手紙を受け取る。Terrosの小さな詩人からの手紙で、そこには短い詩が書かれていた。詩人は言う――記憶は潮のように流れるが、岸辺に立つ者がそれを抱え直すことで次の世代が立てる、と。Harunは手紙を読みながら、胸の中がじんわりと温かくなるのを感じた。彼は仲間と共に歩み続ける理由を再確認した。制度は紙の上で形作られ、現場で磨かれ、人々の生活を守るために実行される。そこに意味があるのだ。
翌朝、Harunは会議の場で静かに発言した。彼は技術と法律、教育と補償の必要性を改めて整理し、共同議会の即時対策として三つの実務案を提案する。一つは監査手続きの簡素化と公開化、二つ目は補償基金の迅速支給メカニズム、三つ目は地域監査官の迅速派遣システムだ。提案は議論を呼んだが、実務主義と市民の支持という両輪が合わさり、案は可決へと向かう兆しを見せた。
昼下がり、Harunは甲板に戻り、海を見渡した。風は堅実に帆を膨らませ、道は次の港へと続く。疲労は残るが、彼の胸には新しい確信もあった。変化は一日にして成るものではない。だが小さな村の朝の会合、封印の技術を学ぶ若者たち、補償を受け取って学び直す家族の姿が積み重なれば、やがて社会の地形は変わる。Harunは掌のコインを握りしめ、静かに誓った。これからも彼は波間で誓いを更新し続けるだろう、忘却の海に対して、記憶の岸を守るために。道は続く
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