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第34章 潜む潮流
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港を離れて幾日かが過ぎ、海は穏やかに見えたが、Harunの感覚は鋭く研ぎ澄まされていた。外圧は小康を得たものの、その裏で新たな潮流が静かに動き始めている。表面的な支援や公開の論理を装い、別の価値観を押し通そうとする者たちの戦術は一貫して巧妙だった。彼らは制度の穴を見つけ、そこへ金と恩恵を注ぎ込んで根を張ろうとしている。Harunはそれを「潮流」と呼んだ。潮は目に見えぬ流れで岸を変え、気づけば地形を変えている。
護送の途上、Harunたちは小さな入江町で予期せぬ接触を受けた。町をまとめる古老の一人が近づき、Harunを静かな場所へと誘った。古老の表情は沈み、握られた指先には緊張があった。彼は低い声で告げた。「先刻、君たちの活動を妨げる動きが内部から出た。だがそれだけではない。ある記憶の断片が、保管中に異常発光を示したという」。言葉は重く、Harunは胸が引き締まるのを感じた。
現場へ向かうと、保管庫の扉は厳重に閉ざされ、修道院の術師たちが詠唱を繰り返していた。Rheaは既に詳しい検査を始めており、詠唱の中で顔色が変わる。断片の一つが近接保管の効果を超えて、微弱ながら自己増幅する振る舞いを示している。通常の疲労現象とは質が違い、断片が周囲の情報と「交信」しているかのような痕跡が残る。Harunは不穏な予感を押し隠せなかった。記憶を扱う装置が外部と積極的に「語り合う」ならば、その影響は予測を越えて広がり得る。
調査は慎重に進められた。断片は厳重に隔離され、複数の封印が積み上げられた。Rheaは古い詠唱を組み合わせて新たな符号を編み、代理は外縁の修道院からさらなる術者を呼び寄せた。PhilとFerreは封印の周囲にある流通記録や接触履歴を洗い直し、誰がいつどのように管理に関わったかを徹底的に追跡した。結果、奇妙な接触ログが浮かび上がる。断片に近づいた形跡のある人物の一部は外部から送られた「援助者」に含まれていた。表向きは善意の支援者だが、その足跡は連盟の外郭組織と奇妙に接続している。
Harunは冷静に問いを重ねる。誰がこの断片の共振を誘発したのか。偶発か、意図的か。Rheaは慎重に答える。「意図的な操作だとしても、その方向性はまだ判然としない。ある種のシグナルが送られ、断片がそれに応答している。しかし誰がそのシグナルを投げているのかを突き止めるためには、もっと深い解析が要る」Harunは思う。敵はもはや単純な買収者や傭兵ではなく、記憶の動きそのものを弄ぶ技術者を抱えている可能性がある。
夜が深まると、Harunは港町の灯りを背にして一人歩いた。波音はいつもより低く、潮の匂いは冷たかった。途中で出会ったのは、かつてHarunが幼い頃に世話になった女だった。彼女の顔は歳を取り、目元に深い皺が刻まれていたが、懐かしさはすぐに二人の間を満たした。女は穏やかに言った。「君が戻ると聞いて町の者は安心した。だが皆、最近の出来事に怯えている。忘却の代償を受けるのはいつも民だ」。Harunは胸が締め付けられるような感覚を覚え、幼い日の記憶が岸辺の石のように重なっていくのを感じた。彼は約束する。「守る。だが守るためには、汝らの協力も必要だ」。
翌朝、Philが一通の手紙を持って来る。封は王都のものではなく、古い商会の印が薄く押されていた。開くと、そこには短い一節があった――「記憶は貨幣だ。価値は裏で換算される」。その言葉はHarunの胸で冷たい火花のように散った。記憶を商品化する者たちが見えなかったわけではないが、彼らの言語は時に慎重に隠される。Harunはますます確信する。自らの戦いは単なる制度構築を超えて、記憶と価値の定義そのものを含めた争いだ。
調査の過程で、Rheaはある古い符号の読み替えに成功する。断片の共振パターンが、特定のリズムで送られる「合図」に応答しているのを検出したのだ。その合図は単純な魔術的電文のように繰り返され、ある種の同調を引き起こす。PhilとFerreはその送信源を追うべく資金と通信の流れを精査し、Mikは人の動きから不審な接触を逆探知した。手がかりは徐々に収束し、Harunたちはやがて一つの結論に達する――外部からの「信号」を用いて断片を刺激し、影響力を取り戻そうとする試みが本格化している。
対策は二段構成となった。第一段は即時的封鎖と被害拡大の防止だ。Rheaの全術者が結界を強化し、保管庫周辺の情報をシャットダウンした。第二段は根源の追及で、信号の発信源を突き止め、誰がどのような目的でそれを用いているかを暴くことだ。代理は既存の情報網を最大限に活用し、PhilとFerreは不正資金の絡みを法的に差し止める方法を模索した。Harunは心の中で覚悟を固める。相手はただの傭兵団や交易者ではない。彼らは知識と資本を持ち、記憶の技術を悪用する者たちだ。
数日後、Mikからの報告が届く。北方の一隻の小舟に不審な通信具が搭載され、近海で断片に共振を誘発するようなパルスを発していたという。座標はおぼろげだが追跡可能だ。Harunは即座に行動を起こす決心を固めた。彼は仲間に告げる。「我々は海に出る。直接確認し、もし可能ならその機器を奪取する。だが準備は万全に」。戦術はもはや後方支援の域を逸脱する。知識の掌握はもはや戦略的資源であり、相手の発信源を断つことは、単に武力ではなく情報戦の勝利でもあった。
夜明け前、船は静かに波を切った。仲間の顔には緊張と決意が交錯する。Rheaは呪具を胸に抱え、Kadeは剣を点検し、PhilとFerreは航路と補給を確認した。Harunはコインをポケットに押し込み、幼い日の浜辺に浮かぶ約束を思い出す。波は冷たく、空はまだ薄暗い。だが彼らは進む。記憶を守るため、そして記憶を商品に変えようとする影を断つために。道は深海へと伸び、そこで彼らは新たな審判と対峙する覚悟を固めた。
護送の途上、Harunたちは小さな入江町で予期せぬ接触を受けた。町をまとめる古老の一人が近づき、Harunを静かな場所へと誘った。古老の表情は沈み、握られた指先には緊張があった。彼は低い声で告げた。「先刻、君たちの活動を妨げる動きが内部から出た。だがそれだけではない。ある記憶の断片が、保管中に異常発光を示したという」。言葉は重く、Harunは胸が引き締まるのを感じた。
現場へ向かうと、保管庫の扉は厳重に閉ざされ、修道院の術師たちが詠唱を繰り返していた。Rheaは既に詳しい検査を始めており、詠唱の中で顔色が変わる。断片の一つが近接保管の効果を超えて、微弱ながら自己増幅する振る舞いを示している。通常の疲労現象とは質が違い、断片が周囲の情報と「交信」しているかのような痕跡が残る。Harunは不穏な予感を押し隠せなかった。記憶を扱う装置が外部と積極的に「語り合う」ならば、その影響は予測を越えて広がり得る。
調査は慎重に進められた。断片は厳重に隔離され、複数の封印が積み上げられた。Rheaは古い詠唱を組み合わせて新たな符号を編み、代理は外縁の修道院からさらなる術者を呼び寄せた。PhilとFerreは封印の周囲にある流通記録や接触履歴を洗い直し、誰がいつどのように管理に関わったかを徹底的に追跡した。結果、奇妙な接触ログが浮かび上がる。断片に近づいた形跡のある人物の一部は外部から送られた「援助者」に含まれていた。表向きは善意の支援者だが、その足跡は連盟の外郭組織と奇妙に接続している。
Harunは冷静に問いを重ねる。誰がこの断片の共振を誘発したのか。偶発か、意図的か。Rheaは慎重に答える。「意図的な操作だとしても、その方向性はまだ判然としない。ある種のシグナルが送られ、断片がそれに応答している。しかし誰がそのシグナルを投げているのかを突き止めるためには、もっと深い解析が要る」Harunは思う。敵はもはや単純な買収者や傭兵ではなく、記憶の動きそのものを弄ぶ技術者を抱えている可能性がある。
夜が深まると、Harunは港町の灯りを背にして一人歩いた。波音はいつもより低く、潮の匂いは冷たかった。途中で出会ったのは、かつてHarunが幼い頃に世話になった女だった。彼女の顔は歳を取り、目元に深い皺が刻まれていたが、懐かしさはすぐに二人の間を満たした。女は穏やかに言った。「君が戻ると聞いて町の者は安心した。だが皆、最近の出来事に怯えている。忘却の代償を受けるのはいつも民だ」。Harunは胸が締め付けられるような感覚を覚え、幼い日の記憶が岸辺の石のように重なっていくのを感じた。彼は約束する。「守る。だが守るためには、汝らの協力も必要だ」。
翌朝、Philが一通の手紙を持って来る。封は王都のものではなく、古い商会の印が薄く押されていた。開くと、そこには短い一節があった――「記憶は貨幣だ。価値は裏で換算される」。その言葉はHarunの胸で冷たい火花のように散った。記憶を商品化する者たちが見えなかったわけではないが、彼らの言語は時に慎重に隠される。Harunはますます確信する。自らの戦いは単なる制度構築を超えて、記憶と価値の定義そのものを含めた争いだ。
調査の過程で、Rheaはある古い符号の読み替えに成功する。断片の共振パターンが、特定のリズムで送られる「合図」に応答しているのを検出したのだ。その合図は単純な魔術的電文のように繰り返され、ある種の同調を引き起こす。PhilとFerreはその送信源を追うべく資金と通信の流れを精査し、Mikは人の動きから不審な接触を逆探知した。手がかりは徐々に収束し、Harunたちはやがて一つの結論に達する――外部からの「信号」を用いて断片を刺激し、影響力を取り戻そうとする試みが本格化している。
対策は二段構成となった。第一段は即時的封鎖と被害拡大の防止だ。Rheaの全術者が結界を強化し、保管庫周辺の情報をシャットダウンした。第二段は根源の追及で、信号の発信源を突き止め、誰がどのような目的でそれを用いているかを暴くことだ。代理は既存の情報網を最大限に活用し、PhilとFerreは不正資金の絡みを法的に差し止める方法を模索した。Harunは心の中で覚悟を固める。相手はただの傭兵団や交易者ではない。彼らは知識と資本を持ち、記憶の技術を悪用する者たちだ。
数日後、Mikからの報告が届く。北方の一隻の小舟に不審な通信具が搭載され、近海で断片に共振を誘発するようなパルスを発していたという。座標はおぼろげだが追跡可能だ。Harunは即座に行動を起こす決心を固めた。彼は仲間に告げる。「我々は海に出る。直接確認し、もし可能ならその機器を奪取する。だが準備は万全に」。戦術はもはや後方支援の域を逸脱する。知識の掌握はもはや戦略的資源であり、相手の発信源を断つことは、単に武力ではなく情報戦の勝利でもあった。
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