あるクズ人間の奇譚

ひいらぎ

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高校生編(通信制高校編その四)

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 受験は刻一刻と迫っていた。

 僕は友達に紹介された大学の教育学部を受けることにした。志などない。就職がしたくないわけではない。大学に行きたかったのだ。どこでもいいから大学に。

 高い志もないのに、時々狂ったように机にしがみついていれたのはどうしてだったんだろうか。

 その大学は、特殊な特待生制度がありそれに惹かれて受験することにした。また、受験科目が現代文と英語だけだったこともあり、僕にも可能性があったのだ。先生になりたいという気持ちも少しだけあった。ほんの少しだけだが。

 だが今でもどうしても分からないことがあった。あの時の活力はどこから湧いてきたのだろうか。あの当時の努力の理由はなんだったんだろうか。あの頃の僕は、そんな努力の理由を大好きな彼女にしたいと強く願っていた。

 しかし当然だがずっと継続して努力し続けられていたというわけではなかった。僕には波があった。何もなくても努力し続けられるときと、全く気がおきないときの波があったのだ。

 付き合って1ヶ月が経った日、僕は彼女に胸の内を打ち明けた。

 そのときは、努力の波が引いていたときだった。

 勉強できていないこと。勉強しているフリだけをしていること。彼女の応援でも努力できなかったこと。どうしたら努力できるか分からないこと。

 からだが弱く支えたいと思っていた彼女に、洗いざらい吐いた。支えられているのは僕のほうだった。

 彼女はその話を真剣に聞いて真剣にアドバイスしてくれた。いっしょにがんばろうと言ってくれた。少し前のテストから逃げたことを話して、自分の弱さまでさらけ出して。そこまでして僕を助けようとしてくれた。気持ちを理解してくれた。まるで専門の家庭教師のように、細かい勉強の時間や内容も聞いて把握していてくれた。

 しかし、その次の日も次の日も努力することはできなかった。自分から話を聞いてもらい、見てもらうようにお願いしたのにも関わらず、結局彼女をも騙した。ちゃんと勉強しているように見せかけた。なぜ努力できないのかほんとうに理解ができなかった。彼女のことは大好きなのに、その応援はどうしてか胸に響かない。その事実に、自分自身に憤りや不快感を感じた。

 一週間後受験当日がやってきた。一切勉強できなかったわけではなく、最低限の知識は焦って復習したので自信がないわけではなかった。

 当日は学校の近くということもあって、受験会場の前まで彼女に送ってもらった。極度の緊張と何ものにも代え難い幸福感の板挟みに、僕の頭から冷静という文字は消え去ってしまった。

 そんななか受験は行われた。

 手応えはまあまあだった。合格発表は一週間後だ。奇しくも僕の誕生日だった。

 その一週間は信じられないほど長かった。合格しているか不安な気持ちと、やり切った達成感が僕の中で渦巻いていた。

 そして合格発表の日はやってきた。その日はあいにく彼女が家族旅行に行っていたので、僕は受験仲間の悟といつもの教室で合格発表を待った。

 合格発表がネットでされると同時に、僕は誰よりも一番に彼女に結果を伝えた。そうすると職場で結果を見たお母さんが泣きながら電話をかけてきた。廊下に出て一通り話すと電話を切り、先生方にその旨を伝えた。先生方はとても喜んでくれた。まんざらでもなかった。

 そして教室に戻って悟にも伝えようとした。しかし何かを察したであろう悟は、柄にもなく涙を流していた。受験仲間としてかなりの時間そばにいたので、自分が取り残されてしまったことに孤独感を感じてしまったのだろう。 

 夜は家族とご飯を食べに行くことになっていたが、その前に淳と新井ともりきょうが、合格したお祝いということでボウリングに誘ってくれた。悟のことも誘ったのだが僕のせいで焦りを感じさせてしまったせいで、1時間以上説得したのにも関わらずとうとう着いてくることはなかった。
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