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大学生編 Part.4
しおりを挟む彼女が連れてきたぬいぐるみを僕の部屋へ残し、彼女を駅まで送った。
駅までの道中、何度も寂しさに気づかぬフリをした。彼女がそばにいるから、僕は寂しさに負けずにいられた。見送る前に、駅の中で彼女にぬいぐるみを買ってあげたり、プリクラを撮ったりした。今までまったく知らない世界だったプリクラを、彼女と出会ってからもう二回も撮っている。また会おうと約束をして彼女と別れた。
一人での帰り道。僕は押し寄せる寂しさに白旗を挙げていた。電車に乗り遅れたと彼女から連絡が来ることばかりを期待している。イヤホンから聴こえる音楽はいつも以上に身に沁みる。なんてのは嘘だ。心に届かずに右から左へ流れていく。ほんの少し慣れてきた駅から家までの道のりがちっとも安心できない。
アパートの階段を上り、部屋の鍵を開ける。未だに彼女が出迎えてくれる気がしていた。そう信じるしかなかった。さっきまで彼女がいた部屋。僕は遂に寂しさにトドメを刺された。大敗を喫した。寂しさに対する僕の耐性はまったくなかった。もはや弱点である。側から見ると、それは明らかであろう。あまりに極端すぎる。それを思い知らされる一日となった。
そのちょうど一週間後。彼女とデートに行くことになった。寂しさに耐えかねて、その一週間で二人で一緒にデートの内容を考えたのだった。
デートの内容を電話しながら一緒に考える時間ももちろん幸せな時間だった。だが、やっぱり彼女のそばにいられること。それが最も幸せな時間だった。
彼女とのデート当日。忘れもしない日だ。僕は電車に乗って東京へと向かっていた。
待ち合わせの駅に着いて改札を出て少し歩いて彼女を見つけた。それから二人で水族館へ行った。
魚たちにはまったくと言っていいほど興味がないのに、それなのにあの水族館の雰囲気にはどうしてあんなにも心惹かれるのだろうか。彼女と手を繋いで見て回れることにこの上ない幸せを感じていた。水族館は僕にとって魚たちをみるためにあるというより、魚たちをみる彼女をみるためにある。それを強く感じた。水族館の雰囲気は彼女をより一層可愛く、綺麗に見せた。
中にはメリーゴーランドのような乗り物があった。ほとんど人が乗っていなかったため、乗れば注目を浴びることになってしまうのは目に見えている。それなのに、どうして彼女と一緒だと勇気がこんなにも出てくるのだろう。
途中で見たイルカショー。本音を言うとショーを観るのは苦手だ。キャストさんや、本気で楽しんでいるお客さんのテンションについていけない。しかし、彼女がいるだけでそれは一変する。楽しそうにしている彼女を見ていると、自然と気持ちが昂ってくる。
最後に寄ったお土産屋さんで、手が入れられるカワウソのぬいぐるみを買った。彼もそして僕らも、そのときは確かに幸せの中にいたのだ。
お昼前に水族館を出ると、原宿でお昼を食べて買い物をした。彼女が買ったものを持てること。幸せな重さに違いなかったが、当時の僕はそれをどう感じていたのだろうか。
夕方になって、僕らは事前にとっていたホテルに向かった。コンビニでお菓子や飲み物を買って、ホテルでくつろぐことにした。これまでにないほど楽しく充実した時間を過ごして、その日は幕を閉じた。
なんて子供じみたエンディングがあるわけでもなく、当然のようにそれはやってきた。どちらかの意思がそうしたわけではなく、偶然そうなってしまった。こんなことを予期していない僕は、ゴムなどもってきていなかった。いや、予期できていたとしても、それを入手することさえ躊躇ってしまうほど、自分からアクションを起こすのが苦手な自分になりつつあったと考える。
そして朝を迎えた。チェックアウト時間ギリギリに部屋を出ると、少し寂しそうに見えた二人の背中は、ホテルの最寄駅へと向かっていた。
今日は帰る日だ。だが、時間がジリジリと進むにつれて、二人の寂しさは膨らんでいった。爆発しないわけもなく、もう一泊都内で泊まることにした。あと一晩一緒にいられるというだけで、安心感と高揚感がアドレナリンのようにどっと押し寄せてくるようだった。さながら麻薬のようである。
ホテルに行く途中で立ち寄ったゲーセンで、彼女がとあるぬいぐるみを欲しがった。彼女にお願いされるがままに、俺はUFOキャッチャーと向き合った。言葉の響きだけを聴けばただの青春なのだが、本質はそうではない。気づけばホテル代を残して、財布のお金を全て使い切ってしまった。
ゲーセンを出たものの、彼女の悔しそうで悲しそうな顔を見ていると居ても立ってもいられなくなり、ATMで親からもらっていた生活費に手を伸ばした。自分が生活でどれだけ困っても構わなかった。最低だ。刹那主義の成れの果てである。もう一度ゲーセンに戻って、なんとかぬいぐるみを手に入れると、彼女は僕が望んでいたリアクションで喜んでくれた。
ホテルに着く頃にはすっかり夜になっていた。お互いに疲労が溜まっているのにも関わらず、夜はやはり長かった。
正直、俺はその行為にそれほどまで執着しているわけではなかった。彼女と抱き合って寝ることや、くっついて一緒にいることに幸せを感じていた。最も好きなのは、裸で抱き合うことだった。だが、その段階を踏んだ時点で、次に起きる事象は避けられないのである。これが人間の性なのだ。
朝になってもやはりゆっくりしたい気持ちが強かった。彼女もそうだったので、チェックアウト時間を延長した。平日の朝に身支度もほどほどに済ませ、彼女を部屋に置いて、ホテルの部屋を出てフロントにチェックアウト時間の延長をお願いしにいくということに、どこか趣を感じてしまう自分がいた。
ホテルを出る頃にもうお昼前になっていた。まだ心残りがある僕と裏腹に、彼女は未練をしっかりと断ち切っていた。そのアンバランスなお互いの気持ちが、僕をより不安にさせた。
そしてホテルの最寄り駅で、あっさりと僕たちは別れた。またディズニーで会おうと約束をして。
行きの電車に乗っていた僕は、帰りの電車で気分が沈みきっている自分を想像だにしなかっただろう。それはある種の禁断症状のように、自分の部屋に帰り着くと、何も手につかなくなるのだった。それがとても耐えられなかった。
その頃最も仲の良かった悟ともりきょうの三人で、通話をしようということになりグループを作った。今思い返すと、二人の前で惚気てばかりいた自分が、童貞じみていて気持ち悪い。
彼女とは会わない間もひっきりなしに通話をしていた。今思うと自分の抑制できていない依存体質に、自分でさえ嫌悪感を抱く。あのときと違って、今は少しは抑えようと努力している。
ちょうど彼女と会わなかった二週間の間の出来事だった。僕が背中を向け続けてきた運命の日が来てしまったのである。
前期の成績発表日。当然、まったくと言っていいほど単位は取れていなかった。母に疑われてもしっかりやっていると嘘をつき続けた。
当の本人がこう言っても信憑性はまったくないが、思い出すとものすごく心が痛い。だからといって、今それを償おうとはしない。何も行動に起こせない自分が何より憎い。
両親は俺を信じようとしてくれていた。
この一文に僕の犯した過ちの重さの全てが詰まっている。
そのとき母にもう一度前を向くと誓った。しかし、僕の授業に対する行動力や意欲は一向に高まることはなかった。
母にもう一度前を向くと誓ったと同時に、彼女と旅行に行くことを正直に告げた。そして、許可をもらった。こんな状況下で許可をくれる両親は僕の両親しかいない。ほんとうに僕は恵まれているのに、それを生かしきれない僕は一体なんなのだろう。
彼女に久しぶりに会う待ち望んだ朝がついに訪れた。彼女のことしか考えられなかった僕は、足元の泥沼にさえ気づかなかった。
ここから描くのは、現実から逃げ惑う人間と、それに大きく人生を狂わされることになる人間の、怒涛の数日間である。
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