あるクズ人間の奇譚

ひいらぎ

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大学生編 Part.6

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 彼女が帰った後に、届いていた大きな段ボールを開いた。それは、母からの誕生日プレゼントの詰め合わせだった。彼女の受け売りで好きになったキャラクターのグッズが入っていた。

 しかし、そこに喜びはなかった。感謝こそ心のどこかでしていたのかもしれないが、このときのこいつには彼女のことしか見えていなかった。

 誕生日の一日が終わると同時に待ち受けていたのは、19歳になったクズへの天罰だった。クズというカタカナ二文字で表すにはあまりに物足りないほどの、最低な人間への報いだった。

 昼過ぎのことだっただろうか。夜更かしをして遅めに目を覚ました時だった。LINEが届いていた。彼女からだった。

「妊娠してしまった」

 この最低な人間は「妊娠」という言葉への理解が全く追いつかなかった。前々から彼女は言っていた。ゴムをして欲しいと。このクズは生半可な知識といい加減さで、それを彼女から聞いては聞き流していた。その末路がこれだった。前々から生理がこないと言う話を何度も受けていた。なのにも関わらずこのクズは何もしようとしなかった。知らなかったでは済まされない。償いきれない罪をクズは背負うことになった。

 彼女を心配して電話をした。誰のせいでこうなっているのか。心配するくらいなら、こうならないように最初から努めればいい。

 彼女は昨日別れた時と同様に、激しい怒りと混乱を露わにしていた。長い時間相談をして、不安で仕方がないから一旦もう一度会いに行きたいと彼女は言った。こいつが断るわけがなかった。

 しかし結局翌日彼女は来なかった。彼女の正当な怒り、悲しみはLINEで時々綴られてきた。

 このときこいつは事の重大さに気づいていたのだろうか。自分ばかりを優先して彼女の気持ち、想いを汲み取ることさえしていない。一人の人生をめちゃくちゃにしてしまったことを。この罪をほんとに意識して背負えていたのだろうか。

 彼女からのLINEは減る一方だった。こちらからの連絡に返信はこない。ただ彼女の混乱を受け入れるだけだった。

 そして彼女はついに僕が好きだった彼女、木下美奈ではなくなってしまった。責任は全てこのクズにあった。狂った愛情。生半可な知識。いい加減な性格。それが彼女を別人に変えてしまった。彼女に悪いところは何一つなかった。こいつが彼女の人生を壊したのだ。

 豹変した彼女は冷徹だった。もはやあの頃の優しさや可愛らしさはどこにもなかった。中絶費用の請求。それ以外のLINEは来なくなった。それでもクズはLINEを送り続けていた。まだ目を覚ませていないのかこいつは。

 慰謝料を返す為に、散々してこなかったバイトを始めようとした。確か引っ越しのバイトだった。しかし、それも研修のみを受けてバックレた。何を考えているんだろうか。罪を償う気はないのか。死ぬ気で働け。責任を果たせ。

 彼女からの冷徹なLINEがエスカレートするなか、このクズはいよいよ事の重大さを目の当たりにすることになった。

 返すことのできない慰謝料。罪を償う気のないバイトへの姿勢。彼女に追わせた一生物の傷。その全てが重くのしかかっていることに彼は気づいた。でも彼はそれに向き合おうとはしなかった。またも逃げることを選んでしまった。

 夜中にお金もほぼないなか家を飛び出し、当てもなく歩き続けた。このまま友達のところや家族のところへ逃げたいとそう思った。電車で帰る分のお金すらなく、ひたすら歩き続けて何百キロという距離を進もうと考えた。しかし、そんなことできるわけもなかった。道路工事の警備員に見つからないように進んだ側道は行き止まり。引き返して結局スタートに戻ってきてしまった。

 事の重大さに気づくことになった彼は、夜が恐ろしくなり、身体的、精神的ストレスから金縛りに遭い、どん底を味わうことになった。

 絶望感に満ちたまま、目を覚ましたその日。ネットでとある検索をして、色々な方法を試そうとした。ドアノブにタオルをかけてそれを首にかけたり、カーテンレールにタオルをかけて脚立で登って吊ろうとしたりした。

 甘い。甘すぎる。逃げるな。立ち向かって罪を償え。そんなことをしても何の意味もない。責任を果たすべく行動しろ。被害者ぶるな。お前が加害者だ。凶悪な加害者なんだ。そんなことも分からないのか。

 分かりきっていたことだが、自分で死ぬなんてことはこいつにできるわけがなかった。

 クリスマス前に実家に帰省することになり、安堵感で押しつぶされそうになっていたと思う。

 背中に重すぎる十字架を抱えたままクリスマスを過ごし、家族旅行を過ごし、新年を迎えた。

 なぜだろうか。こんなにも恵まれているのに、こんなにも幸せに過ごせているのに、自分が他人に与えた不幸に責任を感じているフリをしているだけ。こいつに幸せなど与える必要はない。感じた責任で自分を棚に上げて被害者にし、本当の被害者に何もしようとしない。こんな人間は、こんな人格は殺すべきだ。

 冬休み明けに大学がオンライン授業のみになり、懲りずにまたサボり続ける中、慰謝料の期限が迫り両親に相談することとなった。

 いい加減にしてほしい。このときのこいつは確かにやつれていた。十字架を背負う気持ちはできていたはずだった。なのに、こいつは本当に何もしていない。逃げまくって、助けを求めているだけ。こんなやつと関わりたくない。

 慰謝料が彼女の元に届き、2月になって彼女からの最後のLINEを受け取った。怨念、怒り、悲哀、恨み、全てが詰まった長文のLINEだった。これが彼女との最後だった。

 無責任で逃げてばかりいたが、罪悪感は甚だ感じていた。ただただ怖かった。震えが止まらなかった。いつ彼女が復讐に来てもおかしくないとさえ思っていた。でもそれはこいつが犯した罪への正当な罰。言い訳する余地もないし、もっと苦しんで当然だ。なぜなら彼女は想像を絶する苦しみを味わったのだから。今後どう足掻いてもこいつが人生で経験し得ない苦しみを。

 今更何を言っても、あの時どんなに良い対応をしていたとしても、決して許されるべきではないことをしてしまった。一生背負っていかないといけない十字架。一人の人生をめちゃくちゃにした。どんな言葉でも償えるものではない。でも改めてごめんなさい。

 僕はこの人にだけは殺されてもいい。

 母の誕生日を迎えると同時に、単位が取れているかの結果が発表され、案の定大きく単位を落とした。母は当然、失望に近い落ち込みようであった。母は誕生日なのに何でこんな思いをしないといけないのだろうか。親不孝者でしかない。最低な息子。

 新学期を迎えようとしているなか、一区切りついて鬱から脱した彼は光に向かって進み始めていた。建前はいいから結果で教えてという母。絶えず応援してくれる母と父に、ここでようやく頑張ろうという思いが見え始めていた。

 ギリギリではあったものの、教材を買いに店舗を必死で回り揃え終えた。

どん底から這い上がって、ようやく一歩を踏み出した彼だったが、また自分自身のせいで足を挫くことになってしまうのだった。
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