上 下
14 / 86
第2章『願望』

第6話 諦観《ていかん》

しおりを挟む
「さて、これで良かろう。」

 ……ふむ。良きかな。

 ユイは、音もなく『ふわり』……と俺の前に座り……

「申してみよ。 貴様は何を所望しょもうだ?」と言った。



 ……本当のところ、実は俺には心に秘めた願望がある。それは、ある女性に寄せた、淡い想い……だ。

 彼女の名前は『鷹音ようおん 野華ひろか』 ……だが、読みを知らない人は彼女を『タカネノハナ』と呼ぶ。 俺の名前、『たいら 盆人はちひと』……『ヘイボンジン』とは、文字通り、産まれた時から別世界の住人だ。

 彼女は、俺がたまに顔を出す、大手企業『㈱アティロム』の受付係だ。 俺は、彼女の美しさにかれ、一目ひとめで恋に落ちてしまった。

 ……しかし、大手アティロムの会社の顔と、中小企業の平社員とでは、『月とスッポン』、『雪と砂』だ。 所詮しょせんかなわぬ恋……。 俺はアティロムの紹介動画の彼女を眺めているだけで幸せなのさ。



 ……と、思っていたのだが……

 スマホを取り出し、鷹音ようおんさんの動画をユイに見せて、「この人と恋人になりたい……なんて願い……叶わないよ……ね?」

 また、急激に辺りが暗くなった。
しおりを挟む

処理中です...