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第一章
始まりの日(4)
しおりを挟む「エッ?また何か見えたって本当か蓮?」
次の試合までの空き時間木陰のベンチへ座り水分補給をしながら雑談していた。先程の話を聞いた勇が蓮に問い詰める。
「うん…。っていうか、勇の試合を決めた最後のサービスの時、足下に何か感じなかった…?てっきり、サービスが掠ってたから勇も何か感じたんだと思ってたんだけど…?」
そこで勇は目を見開き、顔色を青くさせながら驚愕の表情を見せる。
「エッ………!も、もしかしてあの時の足に掠めた何かの毛みたいな感触がそれなの…か?」
「うっうん。たぶん。」
蓮が肯定し、楓が溜め息をつきながら勇へとツッコむ。
「顔を赤くさせたり青くさせたり…。忙しいヤツだな。昔っから見えないオバケとか怖がってたもんな。図体だけはデカイくせに心は本当にお子ちゃまだな勇は…。」
「うっうるせぇ!お前だってGとかクモとか見たら発狂して逃げ出すくせに!」
勇と楓が本日何回目か分からない痴話喧嘩を始めるが今回は皆スルーを決めこむ。これ以上は関わりたくないようだ…。
ここで、翔が口を開く。
「でも…、1点疑問が有ります。今まで蓮が見てきたものは触る事が出来なかったって言ってましたよね?何故今回は見えた蓮だけではなく勇が触れる事が出来たんでしょうか…?」
翔の疑問に蓮も顎に手を置き考え始めた。
「そういえばそうだね…。僕は今まで見る事はあっても触る事は出来なかった…。なんでかな…?」
「もしかしたら勇くんも何かそういう能力に目覚めたのかな?そうだとしたら、羨ましいわ!?」
青ざめながら座っていたベンチから飛び降り、勇が手を前に伸ばし拒否の態度を見せる。
「やっやめてくれ!!オレ本当にそういうのだけはダメなんだ…!勘弁してくれっ!!たのむっ!!」
土下座の格好で手を頭の裏に置き合掌した形で必死で頭を地面に擦りつけ懇願する。
「勇くんは~、誰にぃお願いしてるんですか~?私はぁムリですよ~?」
「ハハッ、そうだね!それは僕もムリだな?」
「まぁ、一先ずこの件は後で考えましょう。それよりも大会中に何か起こらない事を願いましょう…」
考えても解らない事は放棄し、無事に大会が終わる事を願う事にする。
「でもよ。蓮が何か見た時って何かしら起きてるじゃん?軽くても鉢植えが落ちてきたりガラスが割れたり…。酷いときなんか目の前で事故があったりしただろ…?不吉すぎて悪いことばかり考えちまうよ…。」
「気にしても仕方ないわ?何が起きるか分からないもの。何かあった時に対応出来るようにだけは気持ちの準備をしておきましょう?」
光の言葉に皆が頷く。
「そうですね!今までも悪い事が起きても不思議とケガをしていません。あの事故もトラックが歩道に乗り上げる事故でしたが、通行人も運転手ですら無傷でした。今回も自分の身の安全と周りの人達への安全も考慮し心構えだけはしっかりと持っておきましょう!」
「「「「「うん!」」」」」
翔が皆に注意喚起し、皆で了承する。
「あっ!?蓮くん!そろそろ3回戦始まりそうよ!」
蓮が次の試合のコートの状況を確認し、スッとベンチから腰を上げた。
「そうだね!それじゃあ3回戦、いってくるよ!楽しんでくるねっ!!」
「おう!絶対に負けるなよ!オマエはオレが倒すんだからな!」
土下座スタイルから回復した勇が蓮に声をかける。
「なーにが俺が倒すよ!さっきまで土下座でブルブル震えてたくせに!」
「蓮くん!楽しんで試合してきてね!皆で応援してるわ!」
勇に楓がツッコミを入れ、光は純粋に応援の声をかける。
無事に楽しく試合が終わってくれる事を信じて…。
その時、蓮たち6人は誰も周囲に異常が出始めている事に気がついていなかった。
夏の炎天下の中、一番暑くなるであろう時間に気温が下がってきている事に…。
試合会場という場所柄、熱気で溢れている事も要因となっているのかもしれない。
そんな中、嫌な予感を感じていながらも心配させないよう笑顔で見送りながら光は心の中で願う。
『どうか、無事に蓮くんの試合が終わりますように!!』
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