ここに聖女はいない

こもろう

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 次の日も、聖女は積極的に繕い物があるかをメンバーに聞いて回った。

「助かったわ。私は木の上で待機することも結構あるから、枝で服をひっかけることがあるの」

 弓使いシンディは大歓迎だ。遠くを見るのは得意でも、目の近くで細かいことをするのは苦手だという。

「なんで貴女なんかに……焦げた穴はどうしたらいいの? 当て布がいるの?」

 魔術師チェルシーは炎系が得意だからよく服を焦がしてしまうらしい。唇を尖らせながらローブを渡してくれた。

「…………」

 狩人ヒューゴは無言で首を横に振る。
 騎士ダリルは意外にも自分で出来ると断ってきた。見せてもらえば、確かにとても綺麗な仕上がりだ。
 それならば。聖女は彼らの使っているハンカチの隅に刺繍をさせてもらうことにした。

「これは……蝉、ですか?」

 出来た刺繍をかざし、ダリルは目を瞬かせる。

「はい! 蝶を刺してみました!」

「…………」

 ヒューゴは無言でハンカチを胸のポケットに押し込んでいた。

「どうして俺は……こいつに渡しているんだ……?」

 勇者アルヴィンはぶつぶつ何か言っている。それでもズボンを渡してくれた。

「おい、絶対に寝不足なんかになるなよ? ただでさえ体力ねぇんだから」

 アルヴィンの眼光はとても鋭い。けれど聖女はニコニコしてしまう。彼が自分のことを気遣ってくれていると思うと、自然と顔が緩んでしまうのだ。

「はい! よく寝ます~」

「ちっ。これ以上足手まといになるなよ?」

「みなさんのご迷惑にならないよう頑張ります。クリスさんも手伝ってくださいますし」

「……お前らの関係って、ちょっと不思議だな」

「そうでしょうか? 神殿でもずっと一緒だったから、よく分かりません」

 気が付いた時にはもう神殿にいた。そしてまだ幼かったクリスもそこにいた。
 アルヴィンが何を不思議だと評するのか理解できないほど、自然に当たり前にずっと共にいた。「お守りします聖女様」と、あの時からクリスは言い続けている。
 最近はべったり一緒にいることは少なくなったが、それもクリスが「他の方と交流を深めるのもいいと思います」と勧めてくれたからだ。

 テントに入ると、いつものようにクリスの魔力に包まれる心地がする。

「お帰りなさいませ、聖女様」

 回復薬を作っていたクリスが、顔を上げて微笑みかけてくれる。
 細められた目は、聖女の様子に異変がないかを素早く探る。具合は悪くないか、怪我はないかと心配する気持ちが伝わってくる。
 聖女も微笑み返す。クリスも他の神官も、神殿にいる頃からずっと自分を気遣ってくれる。

「ねえ、クリスさん。貴方の靴下も繕ってみたんです」

「なんて勿体ない。有難うございます。聖女様は本当にお優しい方です」

「貴方たちの優しさをお返ししているだけですぅ」

 ウフフと笑うと、クリスはわずかに目を伏せた。




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