3 / 9
3.
しおりを挟む
次の日も、聖女は積極的に繕い物があるかをメンバーに聞いて回った。
「助かったわ。私は木の上で待機することも結構あるから、枝で服をひっかけることがあるの」
弓使いシンディは大歓迎だ。遠くを見るのは得意でも、目の近くで細かいことをするのは苦手だという。
「なんで貴女なんかに……焦げた穴はどうしたらいいの? 当て布がいるの?」
魔術師チェルシーは炎系が得意だからよく服を焦がしてしまうらしい。唇を尖らせながらローブを渡してくれた。
「…………」
狩人ヒューゴは無言で首を横に振る。
騎士ダリルは意外にも自分で出来ると断ってきた。見せてもらえば、確かにとても綺麗な仕上がりだ。
それならば。聖女は彼らの使っているハンカチの隅に刺繍をさせてもらうことにした。
「これは……蝉、ですか?」
出来た刺繍をかざし、ダリルは目を瞬かせる。
「はい! 蝶を刺してみました!」
「…………」
ヒューゴは無言でハンカチを胸のポケットに押し込んでいた。
「どうして俺は……こいつに渡しているんだ……?」
勇者アルヴィンはぶつぶつ何か言っている。それでもズボンを渡してくれた。
「おい、絶対に寝不足なんかになるなよ? ただでさえ体力ねぇんだから」
アルヴィンの眼光はとても鋭い。けれど聖女はニコニコしてしまう。彼が自分のことを気遣ってくれていると思うと、自然と顔が緩んでしまうのだ。
「はい! よく寝ます~」
「ちっ。これ以上足手まといになるなよ?」
「みなさんのご迷惑にならないよう頑張ります。クリスさんも手伝ってくださいますし」
「……お前らの関係って、ちょっと不思議だな」
「そうでしょうか? 神殿でもずっと一緒だったから、よく分かりません」
気が付いた時にはもう神殿にいた。そしてまだ幼かったクリスもそこにいた。
アルヴィンが何を不思議だと評するのか理解できないほど、自然に当たり前にずっと共にいた。「お守りします聖女様」と、あの時からクリスは言い続けている。
最近はべったり一緒にいることは少なくなったが、それもクリスが「他の方と交流を深めるのもいいと思います」と勧めてくれたからだ。
テントに入ると、いつものようにクリスの魔力に包まれる心地がする。
「お帰りなさいませ、聖女様」
回復薬を作っていたクリスが、顔を上げて微笑みかけてくれる。
細められた目は、聖女の様子に異変がないかを素早く探る。具合は悪くないか、怪我はないかと心配する気持ちが伝わってくる。
聖女も微笑み返す。クリスも他の神官も、神殿にいる頃からずっと自分を気遣ってくれる。
「ねえ、クリスさん。貴方の靴下も繕ってみたんです」
「なんて勿体ない。有難うございます。聖女様は本当にお優しい方です」
「貴方たちの優しさをお返ししているだけですぅ」
ウフフと笑うと、クリスはわずかに目を伏せた。
「助かったわ。私は木の上で待機することも結構あるから、枝で服をひっかけることがあるの」
弓使いシンディは大歓迎だ。遠くを見るのは得意でも、目の近くで細かいことをするのは苦手だという。
「なんで貴女なんかに……焦げた穴はどうしたらいいの? 当て布がいるの?」
魔術師チェルシーは炎系が得意だからよく服を焦がしてしまうらしい。唇を尖らせながらローブを渡してくれた。
「…………」
狩人ヒューゴは無言で首を横に振る。
騎士ダリルは意外にも自分で出来ると断ってきた。見せてもらえば、確かにとても綺麗な仕上がりだ。
それならば。聖女は彼らの使っているハンカチの隅に刺繍をさせてもらうことにした。
「これは……蝉、ですか?」
出来た刺繍をかざし、ダリルは目を瞬かせる。
「はい! 蝶を刺してみました!」
「…………」
ヒューゴは無言でハンカチを胸のポケットに押し込んでいた。
「どうして俺は……こいつに渡しているんだ……?」
勇者アルヴィンはぶつぶつ何か言っている。それでもズボンを渡してくれた。
「おい、絶対に寝不足なんかになるなよ? ただでさえ体力ねぇんだから」
アルヴィンの眼光はとても鋭い。けれど聖女はニコニコしてしまう。彼が自分のことを気遣ってくれていると思うと、自然と顔が緩んでしまうのだ。
「はい! よく寝ます~」
「ちっ。これ以上足手まといになるなよ?」
「みなさんのご迷惑にならないよう頑張ります。クリスさんも手伝ってくださいますし」
「……お前らの関係って、ちょっと不思議だな」
「そうでしょうか? 神殿でもずっと一緒だったから、よく分かりません」
気が付いた時にはもう神殿にいた。そしてまだ幼かったクリスもそこにいた。
アルヴィンが何を不思議だと評するのか理解できないほど、自然に当たり前にずっと共にいた。「お守りします聖女様」と、あの時からクリスは言い続けている。
最近はべったり一緒にいることは少なくなったが、それもクリスが「他の方と交流を深めるのもいいと思います」と勧めてくれたからだ。
テントに入ると、いつものようにクリスの魔力に包まれる心地がする。
「お帰りなさいませ、聖女様」
回復薬を作っていたクリスが、顔を上げて微笑みかけてくれる。
細められた目は、聖女の様子に異変がないかを素早く探る。具合は悪くないか、怪我はないかと心配する気持ちが伝わってくる。
聖女も微笑み返す。クリスも他の神官も、神殿にいる頃からずっと自分を気遣ってくれる。
「ねえ、クリスさん。貴方の靴下も繕ってみたんです」
「なんて勿体ない。有難うございます。聖女様は本当にお優しい方です」
「貴方たちの優しさをお返ししているだけですぅ」
ウフフと笑うと、クリスはわずかに目を伏せた。
34
あなたにおすすめの小説
悪夢がやっと覚めた
下菊みこと
恋愛
毎晩見る悪夢に、精神を本気で病んでしまって逃げることを選んだお嬢様のお話。
最後はハッピーエンド、ご都合主義のSS。
主人公がいわゆるドアマット系ヒロイン。とても可哀想。
主人公の周りは婚約者以外総じてゴミクズ。
小説家になろう様でも投稿しています。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
そんな世界なら滅んでしまえ
キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは?
そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。
魅了魔法に対抗する方法
碧井 汐桜香
恋愛
ある王国の第一王子は、素晴らしい婚約者に恵まれている。彼女は魔法のマッドサイエンティスト……いや、天才だ。
最近流行りの魅了魔法。隣国でも騒ぎになり、心配した婚約者が第一王子に防御魔法をかけたネックレスをプレゼントした。
次々と現れる魅了魔法の使い手。
天才が防御魔法をかけたネックレスは強大な力で……。
聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる