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二度目の世界
幕間:聖王家の聖なる王子
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体の中では、常に魔力が滾っている。神から与えられた聖なる魔力だ。
ノービリス聖王家の次期国王として生を受けたレオンは、十歳になったその日に聖別儀式に挑んだ。
「結果は分かっているが、早く守護神からの聖別を受けたいのだ」
そして聖王家の正統なる後継者であることを周囲に見せつける。
次期国王に相応しいのは私のみだ。
公言こそしていないが、レオンは常にそう思っている。
だからこの機会に才能溢れる神の愛し子だと周囲に認めさせ、王太子として立太子するのがレオンの筋書だった。
聖別儀式のために、レオンは正装する。そしてその上に王族が神の代理人だと示す緋色のマントを羽織る。
「素晴らしい。完璧な美しさです、我が君」
着付けを行っていた侍従頭が、熱心に賛美する。
「完璧、か?」
レオンは小首を傾げる。サラリと銀色の髪が靡く。
十歳にして怜悧な美貌が眩しい美少年だ。背丈はまださほど高くはないが、スタイルも抜群にいい。
「はい、殿下……」
侍従頭がうっとりと同意したその瞬間、レオンの魔力が膨れ上がった。
ギャッ! と悲鳴が上がり、侍従頭の体が吹き飛んだ。
風がレオンの周りを轟々と渦巻いている。息をするように魔力を操るレオンの風魔法が侍従頭を殴り飛ばしたのだ。
鼻血を押さえながら主人を仰ぎ見る侍従頭を、レオンは冷ややかに見下ろしていた。
「これが、完璧だと?」
レオンの白い指先は、上着の裾を指している。そこはわずかにズレて、皺になっている。
侍従頭の顔が絶望に染まった。
そんな侍従頭に、レオンは優しいと言える笑みを向ける。
「ご苦労だったな。新天地ではミスのないよう励むがいい」
「そ、そんな、殿下……!」
「私を失望させないでくれ。我が魔法を血に染めたくないであろう?」
レオンは唇の端を吊り上げる。薄くて紅いそれが弧を描く様は魅惑的だが、侍従頭は蒼白になった。
「……失礼致しました……」
苦悶の表情で去っていく侍従頭を一瞥することなく、レオンは父親である国王の執務室に挨拶しに向かった。
儀式を行った聖堂は、神の祝福の光で満ち溢れた。
神が御子を認められた。
レオン殿下は神の愛し子だ。
集まった王侯貴族たちの歓声を一身に浴びながら、儀式を終えたレオンは悠然と微笑んでいた。
それから間もなく、レオン第一王子は立太子する。
そして、祝いの茶会が開催された。
「マリー・ブットヴィルです。どうぞお見知りおき下さいませっ」
レオンの前でちょこんと愛らしい礼をとったのは、ブットヴィル侯爵家の娘だった。
五歳という年齢の割に、もう男に媚びることを知っている顔だと、レオンは冷ややかに分析する。
しかし、もう自在に操っている魔力はなかなかのものだ。
これは利用出来るかも知れない。
レオンがさり気なく両親を窺うと、国王夫妻もかすかに頷いた。
ならば、貰いうけるとしよう。
レオンは新しい侍従頭に合図をした。
それから間もなくして、ブットヴィル侯爵家の次女マリーが王太子レオンの婚約者候補に指名された。
それを知ったマリーは狂喜乱舞し、屋敷中のフォークやスプーンを一緒に踊らせたという。
侯爵も夫人の願いを受け入れ、連日パーティーを催した。
そこに、マリーの姉であるカサンドルの姿はなかった。
「侯爵家にはもう一人、娘がいたはずだが、どうした? 茶会にも出席していなかったな」
レオンは側近の一人に声を掛けた。
ブットヴィル侯爵家の姿を見せない娘のことは、彼女の祖母にあたる女性の話の流れで聞いたことがあった。
デルフィーヌ・ブットヴィル。元王女の女傑だ。
意思の強そうなきつい目元と、ピンと伸びた背筋。そして年老いてもなお艶めかしい体つき。肖像画を通してのみだが、それらの外見は、レオンの好みに合致していた。
カサンドルはそんな祖母に瓜二つだという噂があったため、レオンとしては早めに手をつけておきたかった。
しかし情報収集が得意な側近でも、期待していた情報をもたらさなかった。
「病弱で寝たきりだったため、領地に返して療養させているようです」
「病弱か。使えんな」
「魔力も高位貴族の血筋には珍しく皆無だそうで、侯爵家としてもあまり表舞台には出したくないようです」
「魔力がない、出来損ないか」
健康ならば、その魔力無しを弱みとして握り、都合のいい性欲解消の道具にしてやろうかと思っていたが、病弱ではそれも興ざめだ。
レオンはカサンドル・ブットヴィルという名の娘のことは忘れることにした。
ノービリス聖王家の次期国王として生を受けたレオンは、十歳になったその日に聖別儀式に挑んだ。
「結果は分かっているが、早く守護神からの聖別を受けたいのだ」
そして聖王家の正統なる後継者であることを周囲に見せつける。
次期国王に相応しいのは私のみだ。
公言こそしていないが、レオンは常にそう思っている。
だからこの機会に才能溢れる神の愛し子だと周囲に認めさせ、王太子として立太子するのがレオンの筋書だった。
聖別儀式のために、レオンは正装する。そしてその上に王族が神の代理人だと示す緋色のマントを羽織る。
「素晴らしい。完璧な美しさです、我が君」
着付けを行っていた侍従頭が、熱心に賛美する。
「完璧、か?」
レオンは小首を傾げる。サラリと銀色の髪が靡く。
十歳にして怜悧な美貌が眩しい美少年だ。背丈はまださほど高くはないが、スタイルも抜群にいい。
「はい、殿下……」
侍従頭がうっとりと同意したその瞬間、レオンの魔力が膨れ上がった。
ギャッ! と悲鳴が上がり、侍従頭の体が吹き飛んだ。
風がレオンの周りを轟々と渦巻いている。息をするように魔力を操るレオンの風魔法が侍従頭を殴り飛ばしたのだ。
鼻血を押さえながら主人を仰ぎ見る侍従頭を、レオンは冷ややかに見下ろしていた。
「これが、完璧だと?」
レオンの白い指先は、上着の裾を指している。そこはわずかにズレて、皺になっている。
侍従頭の顔が絶望に染まった。
そんな侍従頭に、レオンは優しいと言える笑みを向ける。
「ご苦労だったな。新天地ではミスのないよう励むがいい」
「そ、そんな、殿下……!」
「私を失望させないでくれ。我が魔法を血に染めたくないであろう?」
レオンは唇の端を吊り上げる。薄くて紅いそれが弧を描く様は魅惑的だが、侍従頭は蒼白になった。
「……失礼致しました……」
苦悶の表情で去っていく侍従頭を一瞥することなく、レオンは父親である国王の執務室に挨拶しに向かった。
儀式を行った聖堂は、神の祝福の光で満ち溢れた。
神が御子を認められた。
レオン殿下は神の愛し子だ。
集まった王侯貴族たちの歓声を一身に浴びながら、儀式を終えたレオンは悠然と微笑んでいた。
それから間もなく、レオン第一王子は立太子する。
そして、祝いの茶会が開催された。
「マリー・ブットヴィルです。どうぞお見知りおき下さいませっ」
レオンの前でちょこんと愛らしい礼をとったのは、ブットヴィル侯爵家の娘だった。
五歳という年齢の割に、もう男に媚びることを知っている顔だと、レオンは冷ややかに分析する。
しかし、もう自在に操っている魔力はなかなかのものだ。
これは利用出来るかも知れない。
レオンがさり気なく両親を窺うと、国王夫妻もかすかに頷いた。
ならば、貰いうけるとしよう。
レオンは新しい侍従頭に合図をした。
それから間もなくして、ブットヴィル侯爵家の次女マリーが王太子レオンの婚約者候補に指名された。
それを知ったマリーは狂喜乱舞し、屋敷中のフォークやスプーンを一緒に踊らせたという。
侯爵も夫人の願いを受け入れ、連日パーティーを催した。
そこに、マリーの姉であるカサンドルの姿はなかった。
「侯爵家にはもう一人、娘がいたはずだが、どうした? 茶会にも出席していなかったな」
レオンは側近の一人に声を掛けた。
ブットヴィル侯爵家の姿を見せない娘のことは、彼女の祖母にあたる女性の話の流れで聞いたことがあった。
デルフィーヌ・ブットヴィル。元王女の女傑だ。
意思の強そうなきつい目元と、ピンと伸びた背筋。そして年老いてもなお艶めかしい体つき。肖像画を通してのみだが、それらの外見は、レオンの好みに合致していた。
カサンドルはそんな祖母に瓜二つだという噂があったため、レオンとしては早めに手をつけておきたかった。
しかし情報収集が得意な側近でも、期待していた情報をもたらさなかった。
「病弱で寝たきりだったため、領地に返して療養させているようです」
「病弱か。使えんな」
「魔力も高位貴族の血筋には珍しく皆無だそうで、侯爵家としてもあまり表舞台には出したくないようです」
「魔力がない、出来損ないか」
健康ならば、その魔力無しを弱みとして握り、都合のいい性欲解消の道具にしてやろうかと思っていたが、病弱ではそれも興ざめだ。
レオンはカサンドル・ブットヴィルという名の娘のことは忘れることにした。
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