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二度目の世界
謎の執着と動き出す何か
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……今、なんて?
頭が痛い。ガンガン耳鳴りがする。
呆然と立ち尽くす私の横で、叔父様は素早く立ち直ってその真意を問う。
「光栄なお言葉ですが、そこに王家が介入する必然性を感じません。お気持ちだけで……」
「婚約者の姉を不憫な目に合わせたくない。しかもカサンドル嬢の顔立ちは、王女デルフィーヌ様に瓜二つだ。王家の血筋の証のような娘を引き取って、何の不都合があるのだ?」
殿下の纏う空気が冷ややかになる。紺碧の瞳を針のように細め、不快を隠さずに叔父様を睨む。その姿は、傲慢そのもの。婚約者の叔父でも不敬だと罰するのを躊躇わないと思える。
どっと冷や汗が出た。
全身に鳥肌を立てながらも、なんとか声を張り上げた。
「恐れながら殿下! 私は魔力がないだけではありません。体が……」
「病弱だと聞いたが、そうには見えぬ。噂は嘘だな」
「たしかに病弱とは言えません。ですが、明らかな傷物でございます」
私は襟元のボタンを一つ開ける。弱点を晒すようで嫌だけど仕方がない。
首を伸ばし、喉元の痣がはっきり見えるようにした。
このような目立つ場所に大きな痣がある娘など、王家にはいらないだろう。
前回、婚約者だった頃から感じていた、殿下の悪癖。それは色欲の強さだ。
見目麗しい王子だから、黙っていても女性は寄ってくる。でも殿下は、自分からも積極的に女漁りを繰り返していた。あのフランシーヌ嬢もその一人だった。よほど相性が良かったのか、彼女だけはずっと関係は続いていた。
その上、前回の私にも肉体関係を迫っていた。私のことを嫉妬ばかりしている能無しだと蔑みながら、抱いてやると言ってくる。
……こうして執着から解き放たれると、殿下のどこが良かったのか分からなくなるわ……
だから今回の人生に、殿下はいらない。
さあ、醜い傷のような痣を見て、興醒めすればいい。
すっかり開き直った私は、挑戦的に殿下を見つめながら瑕疵を晒す。
「…………ほお」
痣を見た殿下が、口元を歪めた。
「なんとも醜い痣だ。だが……」
何故か紺碧の瞳がギラギラと光りだす。
その光はねっとりとした熱をはらんでいるようだ。
……い、嫌な予感がする……
もしかしたら私は間違えてしまったかも知れない……
私の開き直りは一瞬で消え、怖気に震えるばかりに戻ってしまう。
「殿下、いかがなされましたでしょうか?」
叔父様も殿下の変化に気づいて、声を掛けてくる。
「醜いが、なんとも惹かれる。カサンドル嬢よ、私と共に王宮へ来るがよい」
流れる銀髪に、瞳は王家の紺碧。怜悧な美貌と評判の殿下。
でも、私の痣を見て唇を歪める今の殿下の笑顔は、とても醜悪に見えた。吐き気さえ覚えるほどに。
醜くて怖い。なんておぞましい。
私はまたガクガク震え出してしまったが、この震えは先程までのそれとは違う。
恐怖の中に怒りが芽生えていた。
「お断りいたします」
怒りのままに、言い切った。
「私はシルジュ子爵である叔父と、その研究を愛しております。王家の気まぐれによる玩具にはなりません」
「言葉が過ぎるぞ。不敬である!」
殿下は白い頬を赤黒く染めて叫んだ。
同時に、目に見えない力に吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
殿下の怒りで、魔力が噴き出したのだ。
「カサンドル!」
叔父様の手を借りて起き上がり、私は再び殿下を睨む。
もう、怯えてなんかやらない。恐れやしない。
「無礼討ちされるならば、どうぞ! 魔力無しの私など、殿下ならばひと捻りでしょう!」
「貴様ぁ……!」
魔力の圧が強くなり、相対しているだけでも押し潰されそうだ。
頭が割れるほど痛む。鼻の下が濡れた気がして触れば、指先が赤く染まっていた。圧が強すぎて鼻血が出たのだ。
目の前が暗くなってきた。
もしかして、今回の私はもう殺されてしまうの?
そんなの嫌だ……!
自分から無礼討ちすればいいと挑発した癖に、私は必死に抗った。
その時、どこかで爆音が響いた。
地響きと、激しい揺れ。
「……なんだ?」
殿下からの魔力が消えた。
凄まじい圧力から解放されて、思わずホッとする。
「殿下、領内の火山が噴火したようです。念の為避難してください」
護衛が小屋に飛び込んできて、殿下を連れ出す。
助かった。
「これで終わりと思わないことだ」
仄暗い声で不吉な言葉を残し、殿下は去っていった。
「……怖かった……」
「カサンドル、具合は? 吐き気とかないかい?」
その場にへたり込むと、叔父様がハンカチを私の鼻に押し付けてくれた。そう言えば鼻血が出ていたんだった……
「あんた根性あるな。王子相手に啖呵きるなんざ、なかなか出来ねえよ!」
ゲオルグさんに気に入られたみたい。
「あそこで噴火? があって良かったわ……」
あのまま魔力で押し潰されていたか、剣で斬り捨てられていたか。
ゲオルグさんは大声で笑いだした。
「あんたら、ここの住人だろうに、何も知らないんだな! この地域には火山なんて存在しねえぞ?」
「あ、そう言えばそうですね……」
叔父様は頭を掻いている。
「では、あの爆音と地響きはなんだったのでしょうね?」
「決まってんだろ!」
今度はゲオルグさんが目をギラギラさせている。
「ドラゴンが目覚めた。活動期に入ったんだよ!」
頭が痛い。ガンガン耳鳴りがする。
呆然と立ち尽くす私の横で、叔父様は素早く立ち直ってその真意を問う。
「光栄なお言葉ですが、そこに王家が介入する必然性を感じません。お気持ちだけで……」
「婚約者の姉を不憫な目に合わせたくない。しかもカサンドル嬢の顔立ちは、王女デルフィーヌ様に瓜二つだ。王家の血筋の証のような娘を引き取って、何の不都合があるのだ?」
殿下の纏う空気が冷ややかになる。紺碧の瞳を針のように細め、不快を隠さずに叔父様を睨む。その姿は、傲慢そのもの。婚約者の叔父でも不敬だと罰するのを躊躇わないと思える。
どっと冷や汗が出た。
全身に鳥肌を立てながらも、なんとか声を張り上げた。
「恐れながら殿下! 私は魔力がないだけではありません。体が……」
「病弱だと聞いたが、そうには見えぬ。噂は嘘だな」
「たしかに病弱とは言えません。ですが、明らかな傷物でございます」
私は襟元のボタンを一つ開ける。弱点を晒すようで嫌だけど仕方がない。
首を伸ばし、喉元の痣がはっきり見えるようにした。
このような目立つ場所に大きな痣がある娘など、王家にはいらないだろう。
前回、婚約者だった頃から感じていた、殿下の悪癖。それは色欲の強さだ。
見目麗しい王子だから、黙っていても女性は寄ってくる。でも殿下は、自分からも積極的に女漁りを繰り返していた。あのフランシーヌ嬢もその一人だった。よほど相性が良かったのか、彼女だけはずっと関係は続いていた。
その上、前回の私にも肉体関係を迫っていた。私のことを嫉妬ばかりしている能無しだと蔑みながら、抱いてやると言ってくる。
……こうして執着から解き放たれると、殿下のどこが良かったのか分からなくなるわ……
だから今回の人生に、殿下はいらない。
さあ、醜い傷のような痣を見て、興醒めすればいい。
すっかり開き直った私は、挑戦的に殿下を見つめながら瑕疵を晒す。
「…………ほお」
痣を見た殿下が、口元を歪めた。
「なんとも醜い痣だ。だが……」
何故か紺碧の瞳がギラギラと光りだす。
その光はねっとりとした熱をはらんでいるようだ。
……い、嫌な予感がする……
もしかしたら私は間違えてしまったかも知れない……
私の開き直りは一瞬で消え、怖気に震えるばかりに戻ってしまう。
「殿下、いかがなされましたでしょうか?」
叔父様も殿下の変化に気づいて、声を掛けてくる。
「醜いが、なんとも惹かれる。カサンドル嬢よ、私と共に王宮へ来るがよい」
流れる銀髪に、瞳は王家の紺碧。怜悧な美貌と評判の殿下。
でも、私の痣を見て唇を歪める今の殿下の笑顔は、とても醜悪に見えた。吐き気さえ覚えるほどに。
醜くて怖い。なんておぞましい。
私はまたガクガク震え出してしまったが、この震えは先程までのそれとは違う。
恐怖の中に怒りが芽生えていた。
「お断りいたします」
怒りのままに、言い切った。
「私はシルジュ子爵である叔父と、その研究を愛しております。王家の気まぐれによる玩具にはなりません」
「言葉が過ぎるぞ。不敬である!」
殿下は白い頬を赤黒く染めて叫んだ。
同時に、目に見えない力に吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
殿下の怒りで、魔力が噴き出したのだ。
「カサンドル!」
叔父様の手を借りて起き上がり、私は再び殿下を睨む。
もう、怯えてなんかやらない。恐れやしない。
「無礼討ちされるならば、どうぞ! 魔力無しの私など、殿下ならばひと捻りでしょう!」
「貴様ぁ……!」
魔力の圧が強くなり、相対しているだけでも押し潰されそうだ。
頭が割れるほど痛む。鼻の下が濡れた気がして触れば、指先が赤く染まっていた。圧が強すぎて鼻血が出たのだ。
目の前が暗くなってきた。
もしかして、今回の私はもう殺されてしまうの?
そんなの嫌だ……!
自分から無礼討ちすればいいと挑発した癖に、私は必死に抗った。
その時、どこかで爆音が響いた。
地響きと、激しい揺れ。
「……なんだ?」
殿下からの魔力が消えた。
凄まじい圧力から解放されて、思わずホッとする。
「殿下、領内の火山が噴火したようです。念の為避難してください」
護衛が小屋に飛び込んできて、殿下を連れ出す。
助かった。
「これで終わりと思わないことだ」
仄暗い声で不吉な言葉を残し、殿下は去っていった。
「……怖かった……」
「カサンドル、具合は? 吐き気とかないかい?」
その場にへたり込むと、叔父様がハンカチを私の鼻に押し付けてくれた。そう言えば鼻血が出ていたんだった……
「あんた根性あるな。王子相手に啖呵きるなんざ、なかなか出来ねえよ!」
ゲオルグさんに気に入られたみたい。
「あそこで噴火? があって良かったわ……」
あのまま魔力で押し潰されていたか、剣で斬り捨てられていたか。
ゲオルグさんは大声で笑いだした。
「あんたら、ここの住人だろうに、何も知らないんだな! この地域には火山なんて存在しねえぞ?」
「あ、そう言えばそうですね……」
叔父様は頭を掻いている。
「では、あの爆音と地響きはなんだったのでしょうね?」
「決まってんだろ!」
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