とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう

文字の大きさ
8 / 21

8.女同士は波乱含み

しおりを挟む
 アルトゥロは焦れていた。
 聖女マリアの教育が、思ったより進んでいないのだ。
 マリアは別にサボっている訳ではない。むしろ必死に頑張っているように見える。しかし。

「ゴホゴホっ!!」

 魔力を浄化へと変換させる術を使おうとすると、マリアの体は拒絶反応を起こしたようになってしまう。
 マリアは苦しそうに咳をし続け、ゼエゼエと喉を鳴らしている。
 ソファーに倒れ込み涙をポロポロ流すその姿は、哀れとしか言いようがない。

「おい、聖女様は大丈夫なのか? どんどん痩せていっているぞ!」

 アルトゥロは魔導士長ディマスにくってかかる。ディマスは肩を竦めた。

「私は医師ではないのでわかりかねます」

「使えん奴だ……!」

 アルトゥロはディマスの胸倉を掴み上げた。
 しかし王子を止めたのは、苦しそうにしている当の聖女マリアだった。

「アルトゥロさん、彼を責めないで……ゴホッ……私が悪いのよ」

 必死にソファーから起き上がり、アルトゥロの服の裾を掴む。

「私の体が弱いから……ごめんなさい……」

「マリア……」

 アルトゥロは慌ててマリアに寄り添い、その背中を優しく擦る。
 ディマスはフードの上から頭を掻いていたが、仕方がないと溜息を落とす。

「少し聖女様には休んでいただきましょう。このままでは倒れてしまうでしょう」

 無理をして余計に浄化が遅れてもマズい。そして必要以上に聖女が辛そうなのを国民に見られたら、王家が虐待しているのではないかと疑われてしまいそうだ。それは避けたい。

「休んでいて下さい、聖女様。医師を手配しますので」

「お医者様は呼ばなくて大丈夫よ。少し休めばそれでいいわ。私の為に、有難う……」

「相変わらず謙虚過ぎですよ、聖女様。私はこれから行くところがあるので離れますが、代わりに護衛の者を置いておきます。ご安心を」

「分かったわ、アルトゥロさん。護衛の方って、クルスさん?」

「え、ええ。そうです」

「良かったです。クルスさん強いし優しいし」

 アルトゥロはわずかに口の端を引きつらせた。しかし優しく「ゆっくり休んでください」と言って部屋から出た。

「……うまくいかないな……。何とかせねば……」

 廊下で一人、アルトゥロは呟いた。





 最近、侍女たちの視線が刺々しい。
 マリアは素知らぬ顔をしてお茶を飲みながら、内心でせせら笑っていた。

 能力のない女たちが自分を妬んでいる。
 無理もない。アルトゥロ王子をはじめとした若き貴公子たちがこぞってマリアに侍っているのだ。
 中でも近衛騎士のクルスは、銀髪が見事な見目麗しくかつ高位貴族の出身で、貴族階級出身の侍女たちの憧れの的。そんなクルスが仕事とは言え熱心にマリアの護衛をしているのだから、面白いはずがないのは分かっている。

(でも、しょうがないよね。だって私は聖女なんだもん)

 女神に認められた優れた魔力で《瘴気》を浄化する存在なのだから、優秀な人間に守ってもらうのは当然だ。

「――まだ魔力を制御すら出来ないくせに……」

 侍女たちの方から声が聞こえてきた。きっとマリアに聞こえるように言ったのだろう。
 マリアはゆっくりと顔を上げ、侍女たちの方に目をやる。
 そんなマリアの動きに、壁際で控えていたクルスが反応した。

「どうかなさいましたか、聖女様?」

 どうやら彼のところにまで侍女の声は届かなかったようだ。彼の藍色の瞳が、気づかわしげにマリアの顔を映している。
 マリアは瞳を潤ませた。この程度のことなら自由自在にやれるマリアである。

「ごめんなさい……私が能無しの聖女だから、皆さん不安に思ってるのね……」

 マリアの発言に、侍女たちはギョッとした。彼女らは、マリアが恥じて口をつぐむと思っていたようだが、その程度で恥じ入るような性格ではない。
 せっかく馬脚を現したんだから、利用してあげないとね。などと考えながら涙を流すマリアだ。

「どういうことですか?」

 クルスの問いかけに直接答えず、ちらりと侍女たちに視線を送る。ほんの一瞬の動きだが、クルスは目敏かった。

「彼女らが、何か言ったのですね?」

 優しげなクルスの顔が険しくなる。侍女たちはうろたえているが、迂闊に反論すると墓穴を掘りかねないために何も言えなくなっている。滑稽だと、マリアは密かに嘲笑う。

「魔力を制御できていないって……ホントにその通りだから……」

「なんてことを……!」

 怒りを込めて、クルスが立ち上がった。
 その時、マリアの体が傾いだ。

「聖女様!?」

 とっさに受け止めたクルスの腕を弱々しく掴み、マリアはゼエゼエと荒い息をつく。

「……どうしてかな……お茶を飲んでから……急に……」

 ゴホゴホと激しく咳き込めば、口から鮮血が散った。

「聖女様!!」

 クルスはマリアを抱き上げ、侍医のところに走った。




 アルトゥロ王子は、クルスからの報告を聞いて医務室に走った。
 侍女が聖女のお茶に毒を盛ったという報告は、にわかに信じられなかった。聖女付きに侍女たちは、自分の信頼厚い人物を厳選したはずだったのだ。

「聖女様の具合は!?」

 医務室に入るなり怒鳴った王子に、侍医は首を横に振る。

 聖女の魔力が消えた、という。






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

婚約破棄をしておけば

あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。

リンダの入念な逃走計画

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
愛人の子であるリンダは、先妻が亡くなったことで母親が後妻に入り侯爵令嬢となった。  特に家族との確執もないが、幼い時に受けた心の傷はリンダの歩みを決めさせる。 「貴族なんて自分には無理!」  そんな彼女の周囲の様子は、護衛に聞いた噂とは違うことが次々に分かっていく。  真実を知った彼女は、やっぱり逃げだすのだろうか? (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)

契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ
ファンタジー
 ヤマトは異世界に召喚された。たまたま出会った冒険者ハヤテ連れられて冒険者ギルドに行くと、召喚師のクラスを持っていることがわかった。その能力はヴァルキリーと契約し、力を使えるというものだ。  ヤマトはハヤテたちと冒険を続け、クランを立ち上げた。クランはすぐに大きくなり、知らないものはいないほどになった。それはすべて、ヤマトがヴァルキリーと契約していたおかげだった。それに気づかないハヤテたちにヤマトは追放され…。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」 「それは良いですわね、勇者様!」 勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。 隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。 毎日の暴行。 さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。 最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。 今までの行いを、後悔させてあげる--

解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ
ファンタジー
 突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……  いわゆる追放物の短編作品です。  起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……  サクッと読んで頂ければ幸いです。 ※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

処理中です...