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21.わたし、聖女。あなたのうしろにいるの。
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アルトゥロとディマスを襲ったのは、《瘴気》だった。しかも、誰も気づいていなかったが、地方で湧いているそれより遙かに濃度が高い。
まるで無理矢理圧縮したかのように。
そしてその濃い《瘴気》は、彼らの周囲を取り巻くのではなく、彼らの内側から溢れ出ている。
「こ、これは、どういうことだ!?」
内務卿はジリジリと彼らから身を離していく。自分もああなるのかと恐怖したからだ。
再びマリアの呑気な声が響いた。
『私がわざわざ地方から集めてきた特別性の《瘴気》なんだからね、たっぷり味わってねぇ~』
聖女たちは地方で《浄化》をしていたのではなかった。
《瘴気》をその場から取り除き、圧縮して持ち去り、集めたそれをアルトゥロたちの中に《転移》させたのだ。
「《瘴気》が王宮に入り込んだだと!? 逃げろ!」
内務卿を先頭に、宮廷人たちは逃げ出した。
「おおおお……お前らぁ……」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく彼らを、アルトゥロは目を血走らせながら睨んだ。
その横で、ディマスが白目を剥いて床に転がっている。その顔がどんどん土気色になっていく。瀕死状態だ。《瘴気》のショックで体が耐えられなかったのだ。
アルトゥロたち以外に《瘴気》を与えられたのは、マリアの護衛をしていた騎士や召喚儀式に参加していた魔道士たち。
全員マリアとベタベタしていた男たちである。
だからアルトゥロたちは知らなかったが、大神殿ではルカとクルスが《瘴気》を吐きながら悶絶していた。
その凄惨な現場を目撃してしまった信者たちは悲鳴をあげて逃げ出し、その惨状は口コミで広がっていき、やがて大神殿の権威の失墜に繋がっていくのだが、それは後の話である。
「あ~メンド臭い……」
短い黒髪を揺らしながら、エリックことエリカは王宮の敷地内に現れた。
彼女の姿に気づいた下働きの人々が、喜びもあらわに集まってきた。
「無事だったのか、エリック! 魔道士たちがお前のことを探していたみたいだから、心配したぞ!」
「あ~、多分もう大丈夫。あいつらそれどころじゃなくなってるから」
「そうなのか? まあ、大丈夫なら良かったよ」
やはり下働きの人たちはいい人ばかりだ。
エリカは彼らを見回し、頷いた。
「なあ、皆。出世したいか? 出世はともかく、賃金アップを狙いたいって奴とかいる?」
「賃金アップは俺たちの悲願だ」
集まった男たちの返事は明瞭だ。
ならば、とエリカは水晶の欠片みたいなものがヘッド下がるペンダントを彼らに渡す。
「これは《浄化》の護符だ。必ずこれを身に着けて欲しい」
「俺たちにアクセサリーなんて気恥ずかしいなぁ!」
「いや護符だから。で、身に着けたら、君たちは救世主として大活躍してもらうから」
キョトンとする彼らに、ニヤリとエリカは笑った。
《瘴気》におかされたアルトゥロたちは、瀕死の状態で助けられた。
助けたのは王宮の下働きたちだった。
彼らは王子たちから吐き出される《瘴気》も恐れず、果敢に駆け寄って医務室へと運び込んだという。
治癒魔法は浄化は出来ないが、状態を安定させられるらしい。アルトゥロたちは死にはしないが、一生そこで治癒を受け続ける身となったのである。
これらのことにより、ストルト王国自体は辛うじて残ったものの、王家は断絶することになる。絶対的な支配者がいなくなり、緩やかな混乱状態が続き、やがて力をつけてきた市民階級の人々と貴族たちがぶつかり合い、議会政治が誕生するのだった。
「やれやれ、これでいいかな?」
エリカは王宮内の魔導装置を破壊してまわり、自分たちがやらかしたことの隠滅工作を完了させる。
そして《転移》で再び去っていった。
「お帰り~エリカちゃん」
へらへらしたマリアに迎えられ、エリカはなんとなくイラッとした。
「こっちもちゃんとやってた?」
「やってたやってた。イケメンとイケオジたちが超頑張ってる」
彼女らが拠点としているのは、地方の民に伝えておいた、『本気で浄化した土地』である。
今まで誰も見向きもしなかった荒れ果てた土地で、他の地域から来た人々がせっせと開墾している。
民衆の大恩人である聖女マリアは、一番大きな建物の中で下にも置かない扱いを受けていて、とても快適そうだ。もちろん彼女の周囲に侍るのは、選び抜かれた美男子たちである。
「ホント貴女ってブレないよね」
エリカは呆れ、マリアはニコニコしている。
「エリカちゃんだって色々やれて楽しかったでしょ?」
「まあね。チートがあって助かったよ。……で、やるよね?」
エリカは鋭い眼差しをマリアに向ける。
マリアの笑みも不敵なものになった。
「もうちょっと英気を養ったら、いいよ。やろう」
この二人の遊びは終わらない。
とりあえず、どこかに存在するであろう、この世界の女神をドツキ回して泣かせるまでは。
まるで無理矢理圧縮したかのように。
そしてその濃い《瘴気》は、彼らの周囲を取り巻くのではなく、彼らの内側から溢れ出ている。
「こ、これは、どういうことだ!?」
内務卿はジリジリと彼らから身を離していく。自分もああなるのかと恐怖したからだ。
再びマリアの呑気な声が響いた。
『私がわざわざ地方から集めてきた特別性の《瘴気》なんだからね、たっぷり味わってねぇ~』
聖女たちは地方で《浄化》をしていたのではなかった。
《瘴気》をその場から取り除き、圧縮して持ち去り、集めたそれをアルトゥロたちの中に《転移》させたのだ。
「《瘴気》が王宮に入り込んだだと!? 逃げろ!」
内務卿を先頭に、宮廷人たちは逃げ出した。
「おおおお……お前らぁ……」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく彼らを、アルトゥロは目を血走らせながら睨んだ。
その横で、ディマスが白目を剥いて床に転がっている。その顔がどんどん土気色になっていく。瀕死状態だ。《瘴気》のショックで体が耐えられなかったのだ。
アルトゥロたち以外に《瘴気》を与えられたのは、マリアの護衛をしていた騎士や召喚儀式に参加していた魔道士たち。
全員マリアとベタベタしていた男たちである。
だからアルトゥロたちは知らなかったが、大神殿ではルカとクルスが《瘴気》を吐きながら悶絶していた。
その凄惨な現場を目撃してしまった信者たちは悲鳴をあげて逃げ出し、その惨状は口コミで広がっていき、やがて大神殿の権威の失墜に繋がっていくのだが、それは後の話である。
「あ~メンド臭い……」
短い黒髪を揺らしながら、エリックことエリカは王宮の敷地内に現れた。
彼女の姿に気づいた下働きの人々が、喜びもあらわに集まってきた。
「無事だったのか、エリック! 魔道士たちがお前のことを探していたみたいだから、心配したぞ!」
「あ~、多分もう大丈夫。あいつらそれどころじゃなくなってるから」
「そうなのか? まあ、大丈夫なら良かったよ」
やはり下働きの人たちはいい人ばかりだ。
エリカは彼らを見回し、頷いた。
「なあ、皆。出世したいか? 出世はともかく、賃金アップを狙いたいって奴とかいる?」
「賃金アップは俺たちの悲願だ」
集まった男たちの返事は明瞭だ。
ならば、とエリカは水晶の欠片みたいなものがヘッド下がるペンダントを彼らに渡す。
「これは《浄化》の護符だ。必ずこれを身に着けて欲しい」
「俺たちにアクセサリーなんて気恥ずかしいなぁ!」
「いや護符だから。で、身に着けたら、君たちは救世主として大活躍してもらうから」
キョトンとする彼らに、ニヤリとエリカは笑った。
《瘴気》におかされたアルトゥロたちは、瀕死の状態で助けられた。
助けたのは王宮の下働きたちだった。
彼らは王子たちから吐き出される《瘴気》も恐れず、果敢に駆け寄って医務室へと運び込んだという。
治癒魔法は浄化は出来ないが、状態を安定させられるらしい。アルトゥロたちは死にはしないが、一生そこで治癒を受け続ける身となったのである。
これらのことにより、ストルト王国自体は辛うじて残ったものの、王家は断絶することになる。絶対的な支配者がいなくなり、緩やかな混乱状態が続き、やがて力をつけてきた市民階級の人々と貴族たちがぶつかり合い、議会政治が誕生するのだった。
「やれやれ、これでいいかな?」
エリカは王宮内の魔導装置を破壊してまわり、自分たちがやらかしたことの隠滅工作を完了させる。
そして《転移》で再び去っていった。
「お帰り~エリカちゃん」
へらへらしたマリアに迎えられ、エリカはなんとなくイラッとした。
「こっちもちゃんとやってた?」
「やってたやってた。イケメンとイケオジたちが超頑張ってる」
彼女らが拠点としているのは、地方の民に伝えておいた、『本気で浄化した土地』である。
今まで誰も見向きもしなかった荒れ果てた土地で、他の地域から来た人々がせっせと開墾している。
民衆の大恩人である聖女マリアは、一番大きな建物の中で下にも置かない扱いを受けていて、とても快適そうだ。もちろん彼女の周囲に侍るのは、選び抜かれた美男子たちである。
「ホント貴女ってブレないよね」
エリカは呆れ、マリアはニコニコしている。
「エリカちゃんだって色々やれて楽しかったでしょ?」
「まあね。チートがあって助かったよ。……で、やるよね?」
エリカは鋭い眼差しをマリアに向ける。
マリアの笑みも不敵なものになった。
「もうちょっと英気を養ったら、いいよ。やろう」
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とりあえず、どこかに存在するであろう、この世界の女神をドツキ回して泣かせるまでは。
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感想有難うございます\(๑╹◡╹๑)ノ♬
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