あなたの子ではありません。

沙耶

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15 会話

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屋敷へ到着すると、祖父が出迎えてくれた。

「お爺様、お久しぶりです」

アナスタシアと兄が挨拶をすると、祖父はニコリと笑う。

「話は聞いておる。中に入れ」

祖父はアナスタシアと兄を屋敷で一番日当たりの良い広い部屋へ案内し、お茶を用意してくれた。

「ゆっくり過ごせ」

寡黙な祖父はそれだけ告げると去っていった。

「相変わらずだなお爺様も」

「ええ……でも元気そうで良かった」

「そうだな……」

兄はお茶を一口飲み、ふぅと息を吐く。

「アナスタシア、さっきの話の続きだが、侍女は王宮のものではないのか?」

「私は王宮の侍女かと思っていたのですが……でも二人は辞めてしまったのです」

「辞めた?」

「はい、急に居なくなって……他の使用人に聞くと辞めたと……」

「……その侍女の特徴や名前を教えてもらえるか?」

「はい」

アナスタシアは兄に三人の侍女の特徴と名前を告げると、兄は頭を捻りながら考え込む。

「アンナにリリーにキャロルか……何処のものか調べてみよう」

「調べるのですか?」

「ああ……殿下は何も話さないだろ。こっちで調べるしかない。アナスタシアを傷付けたんだ」

よく見ると、兄は冷静だが静かに怒っているようだった。
アナスタシアはその冷たく映す紫の瞳にヒヤリとしたが、兄はアナスタシアに視線を向けると、表情を和らげた。

「それに、その三人に聞けば何か分かるかもしれないからな」

「……そうですね」

アナスタシアは目を伏せて、自身に問いかけた。

国王陛下とレベッカのことを知っていれば、アナスタシアはまだ離宮にいたのだろうかとーー。

しかしアナスタシアは首を横に振った。

(殿下の気持ちは分からない。でも……)

アナスタシアはきっとあの離宮を出て行っただろう。

どうして殿下がアナスタシアをわざと傷付けるようなことをしたのかは分からない。けれど、その傷はアナスタシアの心に深く残っていた。

「レベッカ様は、王妃になるだろうな……」

アナスタシアは複雑な気持ちで兄を見上げた。

「……殿下は、王太子のままなのでしょうか?」

「今はまだ、な。今後は分からないが……」

「そうですか……」

「それと、アナスタシアの社交界の評判だが……最悪だ」

兄は顔を歪め、嫌悪感を露わにする。

「分かっています」

アナスタシアは離宮にいた時から分かっていた。社交界にも出ず、離宮に閉じこもった名ばかりの王太子妃が何を噂されるかを……

「私は今後、社交界に出る気はありません。

もう、疲れてしまいました……」

顔を曇らせ俯いてしまったアナスタシアに、兄は先程のようにアナスタシアの頭を優しく撫でる。

「そうだな、お前はもう自由だ。好きに過ごせばいい」

兄は大きな暖かい掌で、アナスタシアの髪の毛をサラサラと、労わるように撫でてくれた。

(自由……)

それはアナスタシアが、願っていたことだった。

「はい……お兄様、本当にありがとうございます」

兄はアナスタシアの頭を撫でながら、顔を綻ばせた。

日差しを照らす部屋の窓から、気持ちのいい風が入る。外の木々からは小鳥の囀りがアナスタシアの耳に届いた。

兄の頭を撫でる手の優しさと、空間の心地よさに、アナスタシアは穏やかに微笑んだ。
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