あなたの子ではありません。

沙耶

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19 嘘







アナスタシアが屋敷近くの小川で涼んでいる時、彼は現れた。

「デヴィッド、どうしてここに……?」

「ん~?何でだと思う?」

ニヤリと口の端を上げて笑うデヴィッドに、アナスタシアはぐるぐると頭を働かせるが、分からない。
ここにアナスタシアが住んでいるのを知ってるのは祖父と兄と母だけだ。

悩んでいるアナスタシアに、デヴィッドは肩を落とす。

「君から久しぶりに手紙をもらったと思ったら、もう会ってくれないような内容だったから、探したんだ」

「私を、探したの……?」

「そうだ。公爵家にも居ないみたいだし君の居る場所は何処かなと考えた時、ふと昔一度遊びに来たこの場所に辿り着いたんだ」

「そう……」

「心配したんだぞ……」

デヴィッドは悔しそうに唇を噛み締める。そこには血がじんわりと滲んでいた。

「デヴィッド!血が……」

「ごめんな……」

「え?」

「守ってやれなくて、ごめん……」

デヴィッドは体を震わせて俯いた。彼のこんな姿ははじめて見る。アナスタシアはぎゅっと胸が締め付けられた。

「デヴィッドは、どこまで知っているの……?」

アナスタシアの問いかけに、デヴィッドはエメラルドの瞳に哀しみの色を浮かべた。

「異国へ行ってたとき、手紙の返信がなかったから帰国したんだ。そしたら君は離宮へ住んでいると噂があって……」

「……うん」

「離宮へ行ってみたが騎士は通してくれないし、殿下に会っても「お前には関係ない」と追い返されて……離縁したのを聞いて公爵家へ手紙を送っても返信がないし……」

「それで私を探したのね……」

「ごめん、勝手だったよな……」

「いいえ、会えて嬉しいわ」

アナスタシアは柔らかく微笑んだ。
驚きはしたが、たった一人の友人に会えて嬉しいのも本当だった。

(でも、この子は守らないと……)

「デヴィッド、私はもうゆっくり過ごしたいの。だからもうここには来ないで。あなたが気にすることは、何もないから……」

「もう会わないということか?」

デヴィッドは傷ついたように顔を歪める。

(会わない……その方がいい絶対に……)

アナスタシアは心を鬼にして口を開いた。

「そうよ……もう来ないで。あなたの元気な顔が見れて、嬉しかったわ」

アナスタシアは心をズキズキと痛ませながら微笑んでいると、デヴィッドはハッと自嘲するように笑った。

「嘘だな」

「……」

「君、何か隠してるだろ?」

「え?」

「目に嘘の色が浮かんでいるぞ」

「!」

アナスタシアは目を見開き、咄嗟に俯いた。
デヴィッドは勘が鋭いのだ。アナスタシアの目を見ていつも感情を暴く。

(舞踏会では気を付けていたのに…王宮を出て気が緩んでしまった…)

「アナスタシア!」

「お兄様……」

アナスタシアが動揺していると、ちょうどアナスタシアを迎えにきた兄が、デヴィッドの正面に立つ。

「すぐ戻ってくると言ったのになかなか戻らないから、心配したぞ」

「ごめんなさい」

アナスタシアに困ったように笑いかけた兄は、デヴィッドを睨む。

「カートランド侯爵令息、ここには何のご用で?」

「アナスタシアに会いに来ました。大切な友人ですので」

「そうですか。ではもう来ないでください」

「何故ですか?」

「妹が、あなたに会いたいと言いましたか?」

「……っ」

兄の言葉にデヴィッドは声を詰まらせた。

「アナスタシア、どうしたい?お前が話した方がいいな。最後にな」

(最後……)

ドクンとアナスタシアの心臓が跳ねる。

(お兄様の言う通りよ……私が突き放さないとデヴィッドはまた来てしまうわ)

アナスタシアは背筋を伸ばし、真っ直ぐとデヴィッドの瞳を見つめた。

そして王太子妃の時のように、仮面を被った。

「もう来ないで」

デヴィッドの、息を呑む声がした。

「もう疲れてしまったの。誰とも会いたくないの。だからもう来ないで」

アナスタシアは胸を痛ませながらも、突き放すような口調で話した。

(ごめんなさい……)

次に来てしまったら、アナスタシアのお腹は膨れているかもしれない。この子の存在がバレてしまうかもしれない。
彼は鋭い。会っていたら、必ず暴かれてしまう。

「……手紙は、書いていいか?」

デヴィッドはショックを受けたように黙っていたが、しばらくすると微かに震える声で、アナスタシアに頼んだ。

「…………」

「……公爵家へ送るから。返事も、アナスタシアが気が向いた時でいいから……」

「分かったわ……」

アナスタシアが承諾すると、デヴィッドは少しだけ安心したように息を吐いた。

「元気な顔が見れて、俺も嬉しかった。またな……」

いつもの調子で無理して笑ったデヴィッドは、アナスタシアを振り切るように帰っていった。

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