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12 フィリア
しおりを挟む私が愛する妹と殿下が愛し合ってると知ったのは、結婚式を挙げる三日前だった。
私の可愛い妹は、姉様大好き!と私を慕い毎日のように抱きついてくる。貴族らしくないその仕草に、私はいつも癒されていた。
「姉様と殿下はお似合いだわ。理想の二人よ」
うっとりとした表情で目を輝かせ、「私も婚約者ができたら姉様たちのようになりたいわ」とあどけない顔で話す妹が、可愛くて仕方がなかった。
この結婚は殿下からの希望だった。殿下は私に一目惚れをし、一年かけて私に求婚した。私は王太子妃の器になれる存在ではないと最初は断っていたけれど、殿下の熱い想いに絆され、一緒に過ごすうちにいつしか彼を愛するようになった。殿下のためを思えば、厳しい妃教育にも耐えられた。
殿下は婚約者になると、それはそれは周りの視線が恥ずかしいほどに私を溺愛し、毎日愛を囁いた。
それを見た妹は、「二人は素敵ね!お似合いだわ!」と無邪気に笑った。
私を見つけると、姉様大好き!と駆け寄り私を抱きしめる妹。
私に会うと、フィリア愛してるよ。と優しく愛を囁く殿下。
誰がこの二人を疑うことができただろうか。
きっかけは妹、シェリールの専属侍女からだった。
侍女は泣きながら震える声で話した。
その内容は到底信じられるものではなくて、私は耳を疑い、一瞬時が止まった。
嘘でしょう?冗談でしょう?
私の愛する二人がそんなことするはずがないわ。
自分の目で見るまでは信じられなかった。信じたくもなかった。
その侍女は泣きながら私をとある場所へ連れて行った。二人がいつも会っているという場所へ。
そこは使われていない教会だった。王宮の近く、森の奥にある小さな教会……
婚約してから二年経った頃、ここで殿下は私に愛を誓ってくれた。いつか本物を用意するからと、森にあったシロツメ草で指輪を作って、私の薬指に通して……
そんな思い出の場所で殿下と妹が会っているだなんてあり得ない、やはり嘘なんだわと私は強く思った。
侍女と一緒に少し崩れた壁から教会の中を覗くと、二人はいなかった。
私はほっと息を吐いたが、侍女がこれから来ます。と入り口の扉を指した。
殿下と新郎新婦のように入場した、あの扉……
どうか来ないでほしいと私は願った。いや、来るはずがないと。
その願いも虚しく、すぐにシェリールが現れた。
その数分後には、殿下も……
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓が喉元までせりあがってくるようだった。胸騒ぎがし、ひどく嫌な予感がして私の心が見るなと伝えていた。
でも二人から目を逸らすことは出来なかった……
「アレックス様!!」
妹は殿下を見つけるとすぐに抱きついた。
「アレックス様、大好きです!」
いつも私の前で王太子殿下と呼んでいる妹は、殿下を名前で呼んでいた。
「僕も大好きだよ」
殿下は、シェリールに、私の妹に……愛を囁いた。
それを聞いた瞬間、私の中の何かがガラガラと崩れていくような気がした。
私が呆然と二人を見ていると、二人は抱きしめ合い、殿下はシェリールの額にキスをした。
いつも、私にするキス……愛してるよと言い、抱きしめて、額に、キスするの、彼は……それを、シェリールにも……
殿下とシェリールの逢瀬は、ほんのわずかの時間だった。
だけど私には永遠の時のように感じられた。
二人が居なくなってから私を連れてきた侍女が、また信じがたい内容を私に告げた。
シェリールが、避妊薬と毒薬を購入したということを──。
私はもう、何を信じたらいいか分からなかった。
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