亡くなった王太子妃

沙耶

文字の大きさ
12 / 21

12 フィリア

しおりを挟む











私が愛する妹と殿下が愛し合ってると知ったのは、結婚式を挙げる三日前だった。

私の可愛い妹は、姉様大好き!と私を慕い毎日のように抱きついてくる。貴族らしくないその仕草に、私はいつも癒されていた。

「姉様と殿下はお似合いだわ。理想の二人よ」

うっとりとした表情で目を輝かせ、「私も婚約者ができたら姉様たちのようになりたいわ」とあどけない顔で話す妹が、可愛くて仕方がなかった。

この結婚は殿下からの希望だった。殿下は私に一目惚れをし、一年かけて私に求婚した。私は王太子妃の器になれる存在ではないと最初は断っていたけれど、殿下の熱い想いに絆され、一緒に過ごすうちにいつしか彼を愛するようになった。殿下のためを思えば、厳しい妃教育にも耐えられた。

殿下は婚約者になると、それはそれは周りの視線が恥ずかしいほどに私を溺愛し、毎日愛を囁いた。

それを見た妹は、「二人は素敵ね!お似合いだわ!」と無邪気に笑った。

私を見つけると、姉様大好き!と駆け寄り私を抱きしめる妹。

私に会うと、フィリア愛してるよ。と優しく愛を囁く殿下。

誰がこの二人を疑うことができただろうか。


きっかけは妹、シェリールの専属侍女からだった。

侍女は泣きながら震える声で話した。

その内容は到底信じられるものではなくて、私は耳を疑い、一瞬時が止まった。

嘘でしょう?冗談でしょう?

私の愛する二人がそんなことするはずがないわ。

自分の目で見るまでは信じられなかった。信じたくもなかった。

その侍女は泣きながら私をとある場所へ連れて行った。二人がいつも会っているという場所へ。

そこは使われていない教会だった。王宮の近く、森の奥にある小さな教会……

婚約してから二年経った頃、ここで殿下は私に愛を誓ってくれた。いつか本物を用意するからと、森にあったシロツメ草で指輪を作って、私の薬指に通して……

そんな思い出の場所で殿下と妹が会っているだなんてあり得ない、やはり嘘なんだわと私は強く思った。

侍女と一緒に少し崩れた壁から教会の中を覗くと、二人はいなかった。

私はほっと息を吐いたが、侍女がこれから来ます。と入り口の扉を指した。

殿下と新郎新婦のように入場した、あの扉……

どうか来ないでほしいと私は願った。いや、来るはずがないと。

その願いも虚しく、すぐにシェリールが現れた。

その数分後には、殿下も……

ドクンドクンと早鐘を打つ心臓が喉元までせりあがってくるようだった。胸騒ぎがし、ひどく嫌な予感がして私の心が見るなと伝えていた。

でも二人から目を逸らすことは出来なかった……

「アレックス様!!」

妹は殿下を見つけるとすぐに抱きついた。

「アレックス様、大好きです!」

いつも私の前で王太子殿下と呼んでいる妹は、殿下を名前で呼んでいた。

「僕も大好きだよ」

殿下は、シェリールに、私の妹に……愛を囁いた。

それを聞いた瞬間、私の中の何かがガラガラと崩れていくような気がした。

私が呆然と二人を見ていると、二人は抱きしめ合い、殿下はシェリールの額にキスをした。

いつも、私にするキス……愛してるよと言い、抱きしめて、額に、キスするの、彼は……それを、シェリールにも……

殿下とシェリールの逢瀬は、ほんのわずかの時間だった。
だけど私には永遠の時のように感じられた。

二人が居なくなってから私を連れてきた侍女が、また信じがたい内容を私に告げた。

シェリールが、避妊薬と毒薬を購入したということを──。

私はもう、何を信じたらいいか分からなかった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

婚約破棄は嘘だった、ですか…?

基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 婚約者ははっきり宣言しました。 「…かしこまりました」 爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。 そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。 ※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ ※少しだけ続けました

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」  ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。  手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。 ※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。 ※ 3/25 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。  婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。 侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。 二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。 (小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...