背中の下には

土屋

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5.帰り道

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花火が終わる頃には僕の流した涙もすっかり引いた。僕らは花火が終わるまで、手を握りあっていた。


花火が終わり、僕は手を離し立ち上がる。兄さんの方を向き、もう大丈夫だよと伝えようとにっこりしながら帰ろうかと言う。


兄さんは僕の言葉に答えるように立ち上がり尻についた土を落としながら、帰ろうと僕に向かって言う。


ゴミ箱にごみを捨ててから、土手を登る。無言のまま二人で歩いていく。屋台の辺りまでちょっと歩くと多くの人が帰り道へ向かって、歩いていた。人混みに入り込むと、兄さんとすぐはぐれそうになってしまう。僕は瞬間的に兄さんの手を掴んだ。


兄さんは一瞬驚いたようにこちらを向いたが、すぐににっこりすると僕の手を握り返してくれた。地元の夏祭りだ。もし誰かに見られていたら何て噂されていたか分からないが、僕はもうそれでも良かった。もう僕のこの恋は長くはない。一瞬一瞬を大事にしたい。


無言のままずっと手を繋いで歩いて、いつの間にか人混みを抜けていた。人混みを抜けてからも僕らは手を繋いだままだ。


すると、頬に水滴が落ちるのを感じた。同時に兄さんも感じていたようで、


「雨か。」


と兄さんが呟く。僕は降ってきたね。どしゃ降りにならないと良いけどと言い終わるか否かの時に言霊のように、雨が強くなる。ゲリラ豪雨のように一瞬で本降りとなり、思わず手を離して顔を拭う。


ふと見回すと、すぐ近くのバス停に屋根があるのが見えた。僕はバス停を指差し走り出す。兄さんもすぐに追いかけてくる。


バス停につくと、木のベンチに腰かける。お尻をつけた所から染みが広がっていく。


「あー、ずぶ濡れになっちゃったな。」


兄さんが髪の毛をかきあげながら言う。いつもピンピンしている兄さんの髪の毛が濡れてペタっとなっており僕はそれがおかしく見えて思わず笑い出す。


「なんだよ?突然。」


笑い出した僕に不思議な顔をしながら尋ねてくる兄さんに髪の毛可笑しいんだもんと笑いながら言う。するとお前もな。と兄さんも笑い出す。二人してびしょ濡れになりながら笑っていると、


「くしゅん。」


とくしゃみがでる。1回でてしまうと不思議と止まらずくしゅんくしゅんと何回も出てしまう。楽しくなってしまい忘れていたが、僕も兄さんも浴衣しかきていないためとても薄着である上に、びしょ濡れだ。いくら夏とはいえ、夜間にこのままでいたら風邪を引いてしまうだろう。


「ちょっと雨も収まってきたようだし帰るか。このままいても風邪引いちゃうしな。」


兄さんは屋根の下から身をのりだし雨を確認しながら言う。うんと返事をして、僕は兄さんと並んで小雨のなかを歩き出す。


「兄さん、受験頑張ってね。」


僕は花火の間に答えられなかった兄さんへの返事をする。僕の心からの想いだ。例え、一緒に居られる期間が短くなったとしても、隣に居るのがいつか僕じゃなくなったとしても、僕は兄さんがやりたいことをできることを、幸せであることを望む。


「ありがとな。」


兄さんは少し驚いたような嬉しいような寂しいようなそんな複雑な表情をしながらお礼を言ってくれた。


それから、僕らは兄さんが将来どんなことをやりたいのか(宇宙の研究って難しい単語ばっかでなんにも分からなかった)について話しながら家へ向かった。

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