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60 象徴の証①
しおりを挟むカレンは何を言っているんだ……?
私が女神様って呼ばれている?
「なんでそんなことに……?」
「昨晩のヒナタのケートス討伐を遠くから見かけた住民がいたらしい」
「は……?」
なんてことだ。
誰にも見られたくないから、夜に討伐しに行ったのに住民が見ていたとは。
「それで、街の広場で吟遊詩人が大々的に噂を広めていたよ」
「……は?」
え、吟遊詩人何やってくれてんの?
勝手に私のことを女神扱いして、噂を広めないで欲しいんだけど。
「でも、ヒナタってことはバレてないよ」
それなら……いいのかな?
住民の間で海の魔物を倒すために、神界から女神が舞い降りて、討伐してくれたみたいな噂なら大丈夫そうだ。
「それなら、大丈夫かな……」
というより、その吟遊詩人を見てみたい。
ちょっと気になるよね。
「その吟遊詩人ってどこにいるの?」
「海岸近くの広場にいたけど」
「ちょっと見に行ってくる」
私は立ち上がって、部屋から出ていく。
街を歩いていると、どこもかしこも女神様の話題でいっぱいだ。
女神様が舞い降りた。
女神様がタラサの街を救ってくれた。
女神様のお姿が神々しかった。
女神様のパンツは白だったらしい。
とかそんな噂ばかりだ。
最後のが気になったが、確かに今履いているのは白のパンツだ。
スカートで戦ったのは失敗だな。
まさかスカートの中を見られるとは……。
騒いでいる住民をすり抜けて、海岸方向へと歩く。
すると、広場の中央で騒いでいる吟遊詩人がいた。
「このタラサの街に女神様が舞い降りた! 突如として海に現れた怪物に街の住民は日々悩まされていた! この街を救うために、神界から女神様が海の怪物と戦ってくれた! 空を飛びながら海上で戦う銀髪の女神様は月明かりが照らされて神々しいお姿であった! そして海の怪物に対して神力を行使したことにより見事、討伐をなされた! その後、姿をお消しになられたが、姿を見た住民もいる! ……なんと幸運だったことだろうか。皆も女神様のお姿を御拝謁したかっただろう。しかし! この街は女神様からのご寵愛を受けたのである! 姿は見えないにしても、神界から女神様はこのタラサの街を見守ってくれているだろう! タラサの住民であることに感謝を! 女神様に感謝を!」
「おおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!」
すごいことになっている。
ドン引きだよ。その女神様はここにいるよ。15歳の女の子だよ。
しかも話を盛っている。神々しかったとか絶対嘘だよ。
なんか聞いていると恥かしくなってくるから帰ろう……。
「ヒナタさん、こんなところにいたのか」
突然後方から声をかけられた。
後ろを振り返ると、領主のパラトスがいた。
「あ、領主様」
「すごい盛り上がりだな。この街に女神様が舞い降りたなんて、嬉しい限りだよ」
パラトスが揶揄うように言ってくる。
この領主楽しんでいるな。最悪だ。
「そうですねー。この街は女神様の寵愛を受けているみたいですよー。よかったですねー」
棒読みで返答してあげた。
領主も失笑していた。
「ふっ、冗談はこれくらいにして。ヒナタさんのことはバレていないようだけど、この騒ぎはどうやっても収拾がつかない。領主としても女神様が舞い降りたことにしたいと思うがいいかね」
「ケートスを討伐したのは女神様ですからね。それでいいと思いますよ」
「分かった。私としても実際に女神様を目撃した住民から情報を聞いて、銅像でも立てようかと思うよ」
は……?
そんなことをされたら、私にそっくりの銅像が出来上がるんじゃない?
ちょっとまずい……。
「それだと私に似ている銅像が出来上がりませんか?」
「それは住民から聞いてみないと分からないな」
「似せないでくださいよ」
「善処しよう」
これは聞く気がないな。
間違いなく、私に似た銅像ができそうだ。
早くこの街から逃げないと。
「そうですか。では、私も近いうちに王都に帰ろうと思います」
「よかったら、今夜お礼に領主邸で食事を食べに来ないか?」
「それは構いませんが、私だけでなくパーティメンバーも一緒でもいいですか」
「歓迎しよう」
よし、宿に帰ってカレンたちを呼ぼう。
私だけ領主と2人きりでの食事は勘弁したい。2人を道連れだ。
私は、領主と別れて宿へと戻った。
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