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93 やってくれたな!
しおりを挟むみなさんおはようございます。ヒナタです。
コハクも人の姿になれるようになったので、これで4人で堂々と街を歩けるようになりました。
ということで、久しぶりに冒険者ギルドに行くことになりました。
ネメアー討伐の依頼を受けた以来だから、かなり久しぶりだ。
ちなみに依頼を受けるにあたって、コハクにも武器や防具が必要かと思ったけどコハクに断られた。
元が竜なので防御力はかなり高めみたいです。
それに武器を扱うよりも、拳で戦いたいそうです。
なんでも腕だけを竜鱗に変化することもできるんだとか。
私の竜装化スキルと同じようなものですね。
やはり子は親に似るみたいです。
まだ子供のコハクは冒険者登録はできないけど、私たちと一緒なら問題ないので4人で冒険者ギルドに入ります。
「ママ、ここが冒険者ギルドなんだね!」
コハクが私の裾をつまんで聞いてきた。
その途端、周囲の冒険者が飲んでいた酒を吹き出す。
え、何ごと?
不思議そうにしていた私とコハクだったが、カレンが呆れた感じで言った。
「やっぱりこうなるか……」
どういうことなの?
私何か変なことした?
それともコハク?
でも2人とも何もしていないよね。
「ほら、ヒナタさんがママって呼ばれたから……」
そこから話を聞いてみると、どうやらこの冒険者ギルドには私の隠れファンが多いみたいだった。
最近は私がコハクのお世話でギルドに顔を出さなかったことで、隠れファンは落胆していたらしい。
そんな時に突然現れた私に驚き、さらにコハクが私をママって呼んだことで戸惑っているというわけだ。
「そういうことなんだ……」
なにこの全く嬉しくない情報は。
隠れファンがいることにかなり驚いているよ。
私よりもカレンとかシャルの方がいいでしょ。
みんな目が腐っているんじゃないの。
それに隠れファンの中には、私が初めてこの冒険者ギルドに来た時に脅した人も含まれているらしい。
あの時の威圧スキルで何かに目覚めたみたいです。
気持ち悪すぎるでしょ。
「ヒ、ヒナタさん。ママって嘘ですよね……?」
20歳くらいの少年が話しかけてくる。
初めて見る少年だ。こんな子いたっけ?
「嘘じゃないよ! ママはママだよ!」
コハクが答える。話が余計にややこしくなるから黙っていてほしい。
しかし、どうしたものか。
確かにママなのは本当だけど、私のお腹から生まれたわけではないしね。
でもここでママじゃないって言うとコハクが泣きそうだし。
コハクのママですって言ったら、隠れファンがどのような行動に出るか分からない。
例えるなら、ずっと応援していたアイドルが実は子持ちのママでしたって感じかな。
男ならこの時どういう反応になるか。
それでも好きですって言ってくれる人はいいけど、そうじゃない人が多い気がする。
前世が男だから、なんとなく分かる。
「そこらへんは事情があるんだよ。別にヒナタが産んだわけじゃないから安心しろ」
カレンが少年に説明する。
周囲の冒険者の視線がカレンに集まった。
「ほ、本当ですか? ヒナタさんが結婚しているわけじゃないんですよね!?」
いや、普通に考えてこの歳で結婚して子供がいるわけがないだろ。
まだ15歳だよ。精神は34歳だけど。
でもこの世界なら15歳で子供を産むのもあり得るのかな?
いやだとしても、コハクの見た目は5歳くらいだ。
間違いなく私が産むには計算が合わない。
どう言い訳しても矛盾が生じてしまう気がする。
なら正直に言ってもいいかな……。
「していないよ。この子は私の子供だけど、私が産んだわけではないよ」
複雑な事情があるからこれくらいの説明で納得してもらいたい。
なんか周囲の冒険者も安心したような顔をしている。
「な、なら! まだ僕にもチャンスはあるってことですね!」
そう言って少年は元の位置に戻っていった。
しかし、他の冒険者から「抜け駆けすんな!」って言われて殴られている。
もしかしてさっきのって告白みたいなものだったのかな。
でも告白というより、間違いなくプロポーズに近いよね。
だとしたら絶対にあり得ない。
男と子作りとか本当に無理だから。
「ママ、あの人どうしたの?」
「よく分からないね。もう忘れよう」
あの少年のことは忘れたほうがいいかもしれない。
狂信的な私の信者だとしたら、この先なにがあるか分からないけど。
男じゃなくて女性が言い寄ってくれれば嬉しいんだけどね。
とりあえず、一悶着あったけどなんとか騒動は去った。
できれば隠れファンの方々には静観しておいてもらいたい。
依頼ボードを確認してみると、いつも通りなにも面白い依頼はない。
なんでも私がコハクの世話をしている間に、カレンたちがCランク以上の依頼を完遂したみたいだ。
ならコハクのために、またオーク狩りでも行こうかな。
コハクはオーク肉のステーキが大好きみたいだし。
カレンたちも一緒に受けてくれるそうで、4人でセレナのいる受付に行く。
「ヒナタさん、お久しぶりです! ネメアー討伐は残念でしたね。結局ヒナタさんが鉱山に向かった次の日に王国騎士団の派遣が正式に決定して、依頼が取り下げられたので……」
おっと?
そんな話になっていたのか。
でも確かに、鉱山でも王国騎士団が派遣されるって聞いたような……。
まあ、私が内緒にするように頼んだから、ネメアー討伐の功績は騎士団ということにしたんだね。
状況から察するに、私が鉱山に向かっている最中に騎士団も鉱山に向かっていたことになる。
でもここで想定外の出来事が起こった。それが私の存在。
ネメアー討伐に向かったはずが、いざ鉱山に到着したら既に討伐済み。
そしてその討伐者は非公開ときた。それなら国の上層部で情報を捻じ曲げて騎士団の功績にしたってところかな。
うん、私としては助かる。私の我儘に国のお偉いさんに迷惑を掛けてしまったかもしれないが。
私の仮説が正しければ、セレナの話に合わせた方がいいだろう。
「……そうなんだよ。鉱山に行ったんだけど結局、騎士団が既に討伐した後だったの」
「やっぱり入れ違いになっていたんですね……。ヒナタさんにはご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「気にしないで。私としても危険な魔物と戦わずに済んで少し安心したから」
「本当に申し訳ありません」
セレナが深々と頭を下げた。
明らかにセレナは悪くないし、どちらかというと私の方に非がありそうな気もする。
なんか罪悪感が……。
それにカレンもシャルもセレナから目を背けている。
2人は事実を知っているから、黙ってくれている。
でもその反応はちょっと怪しいよ……。
「本当に気にしないで。これからもセレナさんとは仲良くしたいし」
「ヒナタさん……。ありがとうございます! そういえば気になったんですけど、その子はヒナタさんのお子さんですか?」
「うん。コハクっていうの。ほらコハク挨拶して」
「初めまして、コハクです!」
しっかり挨拶できて偉いねコハク。よしよし。
そして私達は本来の目的であるオーク討伐の依頼書をセレナに渡す。
「オーク討伐ですね。では、ギルドカードをお願いします」
カレン、シャル、私の順でセレナにギルドカードを渡した。
いつも通りの光景だが、不意にセレナの手が止まった。
「あれ? ヒナタさんいつの間にAランクになったんですか?」
は?
そんなの私も知らないんだけど……。
最近依頼も受けていないし、ギルドカードも子育てには不要だったので、机の引き出しにしまっていたから確認していなかった。
最後にギルドカードを出したのは……。
「……あ、あの時かぁぁぁ~!」
そうだ。最後にギルドカードを渡した相手は王様だ。
あの時に王様権限でAランクに勝手に昇格させていたのか!
だからあの時にニヤッと笑っていたのか!
てっきり報酬をたんまり振り込んだのかと思っていた……。
やってくれたな、あの王様……。
「え、え~と。ヒナタさんが不正をするとは思えないですけど、少し調べてみてもいいですか?」
「……どうぞ」
なにやってくれてんだよ。
いや、確認しなかった私にも責任はあるか。
普段、ギルドカードのランクの欄って確認していないからな。
しばらく待っていると、セレナが私を呼んだ。
「あの、ギルマスが呼んでいるので来てもらってもいいですか?」
なんでここでギルマスが?
もしかして本当に不正だと思われていないよね。
王様の悪ふざけで冒険者から除名されるとか勘弁だよ?
「ヒナタなにしたんだよ……」
「本当になにもしていないよ。とりあえず行ってくるから待ってて」
セレナに案内されてギルマスの部屋に入る。
「久しぶりだね。ヒナタさん」
久しぶりに会ったがウルレインの街のギルドマスターであるガレオだ。
最後にあったのがワイバーン討伐からだから、結構前になるな。
「それで、ヒナタさんのAランクの昇格については国王陛下によって変更されていた」
やっぱりね。
ならネメアー討伐の達成でランクアップさせたんだ。
「国王陛下が自らランクを昇格させるとは異例だが、よっぽど気に入られたんだろう……」
なにその全く嬉しくない情報は。
確かに知らない間に色々手助けをしたけど、私の意志ではありませんよ。
「それに厄介なことに、ヒナタさんのギルドカードは少々特殊な扱いになっているようだ」
はい? どういうこと?
カレンたちと同じカードだよね。
デザインも全く同じだったよ。
「説明すると、ヒナタさんが討伐したケートス、ネメアーはギルドマスター権限でしか確認できないようになっている。通常は今までの討伐履歴はギルドの受付で確認できるのだが、ヒナタさんの場合は一部を履歴に残さず、見えないようにしてあった」
ってことは何か。
私が討伐したことを秘密にしてって言ったものはそういう扱いになっているってことか。
みんな気が利くじゃないか。
「そういうわけで、セレナも私に相談してきたんじゃろう。なにせAランクに昇格させた者が誰かの履歴もセレナの権限じゃ見られないからな」
なるほどね。
だから、セレナが私を呼ぶときに深刻な顔をしていたんだ。
ギルマスなら把握できたけど、セレナの権限では昇格させた人が誰か分からなかったから、不正をしていると勘違いをしたってことか。
こういう時に不都合が出るんだな。
でも、Aランクだと嫌でも目立つよね。
これからどうしようか……。
「そういうことだったんですね。すみません、国王陛下が昇格させたという話を聞かなかったので把握していませんでした」
今後のことも考えて、Aランクの昇格はガレオが手続きをしたことにする。
とは言っても本当は王様がやったことなので、ガレオの承認は一般の受付用ということになる。
その後は、セレナをギルマスの部屋に呼んで、事情を説明する。
討伐履歴の話はしなかったけど、正式にAランクの昇格が認められていることを教える。
今日はただ冒険者ギルドで依頼を受けに来ただけなのに、いろんなことがあるな。
この先が思いやられるよ。
コハクも待っていることだし、さっさとオークを狩りに行こう。
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