神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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107 ウルレインを出発する

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 え……?
 ベルフェスト王国に帰る?
 私とのパーティも解散ってこと?
 どうしよう。そんなの嫌だよ。

「ちょっとあたしの家で問題があって、お金を届けに行きたいんだ……」
「……え、ということはパーティを解散するわけじゃないってこと?」
「は!? 何言ってんだよ! ヒナタと解散するわけがないだろ!」

 よかったぁ~。
 急に解散通告かと思っちゃったよ。
 驚かせないでよね。

「ならよかった。でもなんでお金を?」

 2人が言いにくそうにしている。
 あ、この内容が2人がさっき俯いた理由なんだね。
 故郷に帰るよりもカレンの家で生じた問題を隠したいわけだ。

「実は母さんから手紙が届いたんだ……」

 カレンは私に一通の手紙を差出す。
 私は手紙を読み始めた。

「……これは帰った方が良さそうだね」
「そうだろ?」

 それにしても悲しい話だな。
 カレンの妹のことを考えてお金を借りたはいいけど、どうやら騙されていたみたいだ。
 それに借金奴隷なんて……。

「あれ、ベルフェストでは奴隷制度があるの?」
「あー、借金奴隷とか犯罪奴隷とかは禁止されていないよ」

 なるほど。
 サンドラス王国では奴隷制度が禁止されているから、あまり身近に感じないな。
 でも自分の家族が奴隷になるとか最悪だ。

「まぁ公には借金奴隷とか犯罪奴隷だけだけど実際は微妙なところだな……」

 つまり人攫いで奴隷にしていることもあるってことか。
 あ、でも私も一度奴隷にされそうになったっけ。
 忘れていたけど、ウルレインでも奴隷売買組織があったもんね。
 あれで連れ去られた人がベルフェスト王国とかで奴隷になったのか。
 そう考えると怒りが出てくる。
 なんの罪もない民を奴隷にするなんて。
 本当にあの組織を殲滅できてよかった。

 ……あれ?
 でもお金を渡すだけなら帰る必要ないような……。

「お金を渡すだけなら、わざわざベルフェストに行かなくても振込みとかってできないの?」

 前世でのATMならできるよね。
 カレンの両親が口座みたいなものがあればだけど。

「振込み? なんだそりゃ?」

 おっと、振込みを知らないということはそんなものは存在しないのか。
 冒険者ギルドにある謎の魔道具をATMと思っていたから、勝手に振込みとかもできると思い込んでいた。

「いや、なんでもないよ……。なら妹さんを助けるためにすぐに行った方がいいよね?」
「……あぁ。でもヒナタは関係ないからあたし達だけで行こうかと思ってな……」

 関係ないとか酷いな。
 仲間なんだから一緒に行くのは当たり前だ。

「何言ってんの! カレンの問題は私の問題でもあるよ! だから私も着いて行くよ!」

 私は頬を膨らませながらカレンに言った。

「……そ、そうか。ありがとうな」

 ベルフェストに行くことになるのだから、しばらくは家を空けることになる。
 サーシャにも挨拶をしておいた方が良さそうだな。
 私がいないときに家に来る可能性もあるからね。

 そしてカレンから話を聞いてみると、なんでもベルフェストの国境まではウルレインから3日程度で着くのだが、目的地のスリープシ村までは片道で3週間程掛かるそうだ。
 飛行魔法フライならすぐだけど……。

「出発はいつにする?」
「できれば明日にでも出ていきたい」

 なら今すぐにでもサーシャのところに行こうかな。
 私はカレン達にサーシャの家に行くことを伝えて、コハクと一緒にブルガルド家へと向かった。

「ヒナタお姉ちゃん、ベルフェストに行くんですか……」

 長期間、家を空けることを伝えるとサーシャが悲しい顔をする。

「うん、ごめんね。用事が終わったらすぐに帰ってくるから……」
「サーシャお姉ちゃん、すぐに帰ってくるからね!」

 コハクがサーシャに抱き付いた。
 微笑ましい光景ですね。
 サーシャもコハクの頭を撫でている。

「仕方ありませんよね……。すぐに帰ってきてくださいね」
「勿論だよ!」
「待っててね!」

 名残惜しいがサーシャと別れて屋敷から出る。
 コハクはサーシャを元気付けるように振る舞っていたけど、いつもより私の手を握る力が強い。
 コハクもサーシャと離れるのが寂しいんだね。
 でもサーシャに寂しい顔を見せずに挨拶できて偉い。
 コハクの成長を感じられて私も嬉しいよ。

「……ママ、すぐに帰ってくるよね?」
「うん。すぐにまたサーシャちゃんと遊べるよ」



 翌朝になって私たちは荷馬車を借りてから冒険者ギルドに向かった。
 一応この街で一番の高ランク冒険者だから、不在になるなら報告した方がいいとカレンが言ったからだ。

「セレナさん、少しいい?」
「あ、ヒナタさん! どうされました?」
「私達しばらくウルレインを離れることになっちゃって……」
「えぇ!」

 私の言葉にセレナが驚愕する。
 ウルレインは平和な街だけど、以前はワイバーンの襲撃の可能性もあった。
 私達がいなくなると街の緊急事態に対応できない可能性もある。
 そう考えると不安に思う人も多いと思う。

「ちょっとベルフェストに行くことになってな……」
「あ、カレンさん達の故郷に帰られるんですか……。でもすぐに帰ってきますよね?」
「用事が終わったらすぐに帰ってくるよ」
「それならよかったです」

 カレンの言葉にセレナも安堵する。
 この会話だけだとカレン達がベルフェストに帰って戻ってこないという考えにもなるかもしれない。
 でもセレナは知らないと思うけど、カレン達はベルフェストでは冒険者稼業ができない。
 だから自然とサンドラスに帰ってくるしかないのだ。

 私達は冒険者ギルドを出て馬車に乗り込んだ。
 御者ができるのは私とシャルだけだから、交代でやることになった。
 その代わり野営の際の夜の見張り番はカレンにやってもらうことにした。
 基本はマイホームを召喚するつもりだけど、念には念をいれてカレンにお願いするつもりだ。

 それにしても他国に行くのは初めてだからすごい楽しみだ。
 カレン達の話を聞くと、ベルフェストには他種族がいるらしい。
 まだドワーフにしか会ったことがないからぜひ見てみたい。
 王都には獣人族がいるみたいで、さらにはエルフ族だけが住んでいるエルフ大森林というのもあるらしい。
 ぜひ両種族を見てみたいものだ。

「みんなで旅行楽しみ~!」

 コハクが御者をしている私の隣で言う。
 旅行ではないが、コハクは旅行気分だ。
 コハクが生まれた時は一緒に馬車に乗ることになるなんて想像もしていなかった。
 そもそも人間の姿になるなんて思ってもいなかったから、こうして堂々と外出することになるなんてもっと先のことだと思っていた。
 コハクもずっとマイホームにいるのは窮屈だと思うから、こうして旅をするのも自主性を養えるいい機会かもしれない。
 コハクの成長速度は人間よりは遅いと思うけど、私よりも確実に長生きなのは分かる。
 私が寿命で死んだときにコハクがどの程度成長しているか分からないけど、その時までは立派な大人のレディになっていて欲しいものだ。
 そしてできれば最期までコハクの傍にいたい。

「コハク、旅行中はママの言うことをしっかり聞いてね」
「うん!」

 自主性を養いたいところだが、やっぱりコハクは何をするか分からないから私がしっかり見ていないと。
 それにベルフェストは奴隷制度があるから、万が一にもコハクが攫われるという可能性もある。
 見た目は5歳の少女だからね。それにすごく可愛い。
 多分世界一可愛いんじゃないかな? ……はい、私も立派な親バカですね。
 そのためコハクが勝手に単独行動しないように目を光らせないといけない。

「ヒナタさん、御者代わりますよ」
「うん、ありがとう」

 ウルレインを出発して半日が経ち、シャルが御者を交代してくれる。
 カレンはどうやら夜の見張り番に備えて仮眠をとっているようだ。

「カレン、普段通りにしていますけど、家族のことすごく心配していると思うんです……」
「そうだね。私達に気を遣っているんだと思うよ」

 父親が騙されて多額の借金を背負わされて、妹が奴隷にされそうになっているのに平然としていられる訳がない。
 カレンは私達のことを考えて普段通りにしているのだろう。
 私が同じ立場だったら平然を装うなんて難しいと思う。

「早くお金を返してカレンを安心させないとね」
「はい!」



 日も落ちたので街道から外れた場所で野営をすることにした。
 森の中に更地があったため、マイホームを召喚して一晩過ごすことにした。
 そしてカレンは念の為、見張り番をすることになった。

 私は夕食の準備をしてリビングで4人で食べ始める。
 今日の夕食は卵とご飯があるからオムライスにした。
 タラサの街で大量にお米を仕入れていてよかった。

「ママ! コハク甘いお菓子が食べたい!」

 ここにきてコハクがわがままを言ってくる。
 確かに作れないこともないけど、すぐにはできない。
 作れるとしてもパンケーキとかアイスクリームとかクッキーくらいかな。
 でもどれも時間がかかる。
 今から作るのも大変なんだよな。
 頑張ればパンケーキは作れそうだけど正直面倒だ。
 でもコハクが食べたいと言うなら作ってあげるのもお母さんの役目だよね。

「なら明日でもいい? すぐにはできないから今のうちに準備して明日食べよ?」
「そうなの? ……分かった、コハク明日まで待つ!」

 私はすぐにキッチンに向かい、アイスクリームの準備をする。
 せっかくだからミレイに作ってあげたアイスクリームを乗せたパンケーキを作りたい。
 それなら今日のうちにアイスを冷やしておかないといけない。
 お母さんは大変だね。

 生地を作っているとコハクが興味深そうに見ている。
 ボウルを覗き込んでいる姿がとても可愛い。

「コハク先にお風呂に入ってきて」
「はーい!」
「ヒナタさん、私が付き添いますね」
「あ、あたしも!」

 コハクに続いてシャルとカレンもお風呂に向かう。
 そんな……。
 私を差し置いて3人でお風呂を楽しむとは……。
 でもこのマイホームのお風呂には4人は入れない。
 私が諦めるしかないのか。
 明日からは2人ペアで入らないと不公平だ。

 アイスクリームの準備も終えて、私も1人で寂しくお風呂に入った後は寝室に向かった。
 2人が寝られるベッドではあるけど、コハクが竜の姿になっているから川の字で寝られそうだ。

「おやすみコハク……」
「キュイ……」
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