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108 国境を越える
しおりを挟むみなさんおはようございます。ヒナタです。
今日もベルフェスト王国に向けて移動中です。
ちなみにカレンは一晩見張り番をしていたので馬車で寝ています。
何事もなければ明日にはサンドラス王国とベルフェスト王国の国境に辿り着くみたい。
私達はギルドカードで、コハクは身分証明書で入国できるそうなので安心だね。
他国に入国するのにパスポートみたいなものが必要ないのはありがたいね。
「ママ、お菓子まだ?」
コハクは昨日のうちに事前準備して作ったアイスが楽しみなようだ。
一晩冷やしたからもう食べられるけど、コハクには我慢というものを教えてあげたい。
「今日の夜にみんなで食べよう?」
「えぇー。コハク今食べたいのに……」
頬を膨れさせて不貞腐れる。
この顔が可愛いからアイスを与えてもいいかな……、っていかんいかん!
お母さんの私が率先して甘やかしてはいけない。
これもコハクのためだ。
「なら、夜まで待ったらもっとおいしいお菓子を作ってあげる!」
「本当に! やった!」
あれ? 結局甘やかした感じになったかな?
でも夜まで我慢するという目的は達成した。
それに元々パンケーキを焼くつもりだったし。
うん。問題ない。
「ヒナタさん」
突然馬車からシャルが声を掛けてきた。
まだ御者の交代には早い気がするけど……。
「どうしたの?」
「今回、カレンのために一緒に付いて来てくれてありがとうございます」
「何言ってんの。当たり前でしょ?」
仲間のために行動するのは当然だもんね。
それにせっかく異世界に来ているんだから他国に行ってみたかったし。
でもまさかカレンの家庭の事情で行くことになるとは思わなかったけど……。
「ヒナタさんも知っていると思いますけど、私って臆病じゃないですか。だから昔からいつもカレンに迷惑ばかり掛けてて……」
シャルが深刻そうな顔で話し始める。
「臆病かな? 臆病なら冒険者になってBランクにはなれないんじゃない?」
正直な気持ちだ。
私にとってシャルは臆病というより謙虚だと思っている。
たぶん根が優しいから他人のことを優先して自分のことを蔑ろにしてしまうタイプだ。
「でも冒険者になったのもカレンから誘われたからで、私1人ならBランクなんて絶対無理ですよ」
「それでもカレンと2人で頑張ってきたんでしょ? カレンもシャルがいるから安心して戦えるって言ってたじゃん」
以前オークジェネラルのリベンジ戦でシャルが威圧スキルで気を失ってしまった時に、泣いていたシャルにカレンが掛けた言葉だ。
実際シャルは後方ではカレンの支援を完璧に出来ている。
本当に臆病ならオークジェネラルに立ち向かうなんて出来ないだろう。
「……そうですね。でも私はカレンにはたくさん助けてもらってきたんです。だからカレンにもしものことがあったら私が助けてあげたいんです」
「うん。そうだね。その時は私も協力するよ」
「ふふ、ヒナタさんありがとうございます」
シャルはカレンに恩返しがしたいのだろう。
私がパーティに入ってからは2人で助け合っているイメージが強いけど、昔はそうじゃないのかもしれない。
2人は幼馴染だからね。子供の頃からずっと一緒に過ごしてきたんだ。
でも子供の頃の2人は想像できそう。
例えるならカレンはジャ◯アン。
シャルは……し◯かちゃん?
お山の大将的な存在だけど、いざという時は優しいカレンに、しっかり者のシャルみたいな感じかな。
私は前世では幼馴染がいなかったから少し羨ましいと思ってしまう。
「そろそろ私が代わりますよ」
シャルに御者を交代する。
もうお昼くらいか。そろそろ昼食でも食べようかな。
私は無限収納から野菜を挟んだサンドイッチを取り出す。
今更だけど無限収納は本当に便利なスキルだ。
どんなに大きなものでも収納できるし、時間停止機能でも付いているのか魔物や食料も腐らない。
このスキルがあれば行商人をやってもかなり稼げそうだ。
それに私は飛行魔法がある。
そう考えれば色んな職業に転職可能だ。
……そういえば前世で転職をしたことがなかったな。
というより、そもそも自分がやりたい職業がなかった。
趣味を職業にするにしても私の趣味は漫画とかアニメ鑑賞だった。
到底自分にはできない仕事だったから、一番最初に内定をもらった銀行の営業職をやっていた。
学生の頃にもう少し勉強をしていれば別の可能性もあったかもしれない。
サーシャの家庭教師をしたこともあるから、学校の先生とか……。
先生か……。
まさか自分が人に教えることが好きなんて、サーシャの家庭教師をするまで知らなかった。
もし自分が先生になっていたら死ぬこともなかったのかな。
今更後悔しても遅いか……。
「ママ、コハクもそれ食べたい」
私が食べているサンドイッチをコハクも求めてくる。
お昼は魔力を与えているが、コハクも食事が好きみたいだ。
それにオーク肉だけじゃなくて、野菜も摂るようになってきた。
サーシャと2人でお出掛けしてからだから、あの時に食べたのだろう。
勝手に魔物の肉を与えなくちゃいけない固定概念があったけど、コハクを見ているとそうじゃないことが分かる。
これなら毎日オーク肉を焼かなくても大丈夫なのかと思う。
「はい、よく噛んで食べてね」
「うん!」
コハクがサンドイッチに齧り付く。
美味しそうに食べているのを見ると私も幸せな気持ちになる。
前世で子供がいたらこんな気持ちになっていたのかな。
その後も順調に進んで夜になったので、マイホームで一晩過ごすことになった。
いつも通り夕食の準備をしてみんなで食べる。
夕食の後は、予定通りアイスを乗せたパンケーキを食べる。
「おいしぃ~!」
コハクが笑顔で食べている。
我慢した分、さらに美味しいはずだ。
このコハクの顔を見ると、また作ってあげてもいいかな。
「明日にはベルフェストに着くから、国境検問所を抜けたら近くの街で休もうか」
「うん、そうだね」
カレンの言葉に私は頷く。
もうすぐ初めての他国への入国か。
結構楽しみだ。
私はお風呂に入った後、ウキウキしながらベッドで眠った。
「ヒナタさんそろそろ出発しましょうか」
翌朝私達は国境に向けて出発する。
昼には着きそうなのでゆっくり出発した。
「見えてきたな……」
進んでいくと目の前に城壁のようなものが見えてきた。
思ったよりも国境がしっかりしている。
あれが国境検問所か。
石で高く積み上げられて造られた城壁で、不法入国を防いでいるみたいだ。
なんでも昔に戦争をしていた時に造られたんだとか。
その時の名残でそのまま残っているようだ。
そして街道に沿って進んでいくと、城壁の入口に数人の騎士がいた。
「止まれ!」
1人の騎士に言われた通りに馬車を止める。
「身分を証明できるものはあるか?」
「はい、どうぞ」
私達3人のギルドカードとコハクの身分証明書を騎士に提出する。
そして騎士は私達が乗ってきた馬車の中を確認した。
次に再度馬車に乗っていた私達の人数と顔を確認した。
「カレンか……」
「え、あたしがどうかしたのか?」
「いや、なんでもない……。カレンにヒナタ、シャーロット、コハク。身分証明も問題ないし、不審な物も入っていないようだ。入ってよし!」
騎士がカレンを気にしていたようだが、特に何もないらしい。
もしかしてカレンの美貌に惚れたか?
でも残念。カレンは私のものだ。
え、自惚れるなって? ごめんなさい。
でも無事に入国できるようで安心した。
「ヒナタ、この先を進んでいくとすぐに街があるから」
「分かったよ。そこで今日は泊まるんだよね」
そのまま30分程度進んでいくと、街が見えてきた。
門にいた騎士に先程と同じようにギルドカードとコハクの身分証明書を提出する。
「入れ」
問題ないようなので、街へと入った。
街並みはウルレインと同じ感じだ。
他国だと文化も違うかなと思ったけど、着ている服とかも同じに見える。
異国人だと違和感が出ると思ったけど問題ないみたいだ。
「どこかいい宿って知ってる?」
「前に来た時に世話になった宿があるからそこに行こうか」
カレンに案内されて、宿へと向かう。
……すると突然雨が降ってきた。
少し雲行きが怪しいとは思っていたけど、突然の大雨だ。
「早く宿に行こう!」
急いで宿へと向かう。
御者をしている私は雨に当たって冷えてきた。
早く温まりたい。
それにしてもベルフェストに入国してすぐに雨とか嫌な感じだな。
無事に宿に着いて、受付へと行く。
私は雨に当たったことで少し服が透けている。
早く着替えたい。
4人部屋を選んで、部屋へと入る。
「ヒナタさん早く着替えましょう!」
「うん、ありがとう……」
無限収納から服を取り出して着替える。
下着も濡れたから気持ち悪い。
そして濡れた服を乾かす。
いきなり雨に濡れるとか、なんか幸先が悪いな……。
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