神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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109 山道を抜ける

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 みなさんおはようございます。ヒナタです。

 昨日は突然の雨だったが、結局夜までずっと降っていた。
 それにしてもすごい豪雨だった。
 でも朝起きたら晴天になっていた。
 よかった。これなら問題なく先へ進めそう。

「とりあえず次は王都に向けて出発するか」

 ここから王都までは2週間掛かるみたいだ。
 それなら少しは食料を補充しておきたい。

 私達は食料調達のために商店街に行く。
 サンドラス王国と同じように盛んだ。
 やはり国境近くの街だから人も多いのかな。
 あまり長居も出来ないのですぐに食料を買い込んで街を出る。

「王都に行くには山脈を越えないといけないから少し時間が掛かるぞ」

 ここから王都までの距離は遠くないのだが、途中で山脈を越えなければ王都に辿り着かないそうなので、どうしても時間が掛かってしまうそうだ。
 ネメアー討伐の時も山脈を越えたりしていたけど、あの時は飛行魔法フライだったからな……。
 馬車ごと魔法で浮かせられればいいのだが、私の魔力ではすぐに枯渇するだろう。

 街から出て数時間で山道になった。
 上り坂のため馬車が進むのも遅い。
 結構時間が掛かりそうだ。
 更には先日の豪雨によって道が悪くなっている。
 慎重に進まないと馬車が下っていくかもしれない。

 慎重に進んで行き、分かったことがあった。
 どうやらこの山道には一定区間で森の木を伐採して更地になった場所がある。
 そこには何台かの馬車が停車しており、休憩所となっているみたいだった。
 何人もの行商人や冒険者が厳しい山道で休憩できるよう設置しているのだろう。
 何回か行商人と思われる馬車とすれ違う。

 私達もこの休憩所で野営することになりそうだ。
 マイホームを召喚できないのがちょっと辛い。
 というより、この山道でマイホームを設置できる平地を探すのが難しいだろう。
 王都まではマイホームは諦めよう。

 ……お風呂に入りたかったな。
 流石にこの何の区画もされていない休憩所で水浴びをするわけにもいかないしね。
 男だったらそんなの気にしないで済んだのかな。
 数日は濡れタオルで身体を拭くだけで我慢しよう。

 夜になり休憩所に辿り着いた私達は野営の準備をする。
 私達以外にも1組の行商人がいる。

「ママ! 今日はお肉食べたい!」

 コハクからオーク肉の提案。
 コハクはオーク肉を御所望のようだ。
 やっぱりオーク肉が大好物なんだね。

 私はすぐにオーク肉のステーキを作りコハクに渡す。
 そしてカレン達にも同じようにオークステーキを作る。
 私がステーキ焼いている間はシャルが付け合わせのサラダをお皿にトッピングしてくれている。
 夕食を食べ終えた私達は馬車の中で交代で身体を拭き始める。
 やっぱり物足りない。
 お風呂が恋しい……。

 しかし、ここまで大方順調に来られた。
 できればこのまま何事もなく進んでくれればいいな。
 そう考えながら、馬車の中で眠りについた。



 あれから2日が経ち、普段通り山道を進んでいると馬車が何台か停留しているのが見えた。

「あれ?」
「どうしたんですかヒナタさん?」
「いや、前で馬車が止まっているから……」

 何かあったのかな。
 何人かの人達が馬車から降りて話し込んでいる。

「私ちょっと見に行ってきます」

 シャルが先行して馬車から降り、様子を見に行った。
 行商人らしき人にシャルが話し掛けている。
 少し話した後、シャルが戻ってきた。

「どうやら、この先で土砂崩れがあったみたいです」
「それでみんな停まっていたんだね」

 この前の豪雨の影響か、山道が封鎖されてしまったみたいだ。
 こうなると面倒だな。

「迂回するしかないのかな?」
「ここから迂回するとなると、王都に着くまで凄い時間が掛かってしまいます……」

 まぁそうだよね。
 だから全員ここで待機しているんだから。
 どのくらいの土砂崩れかは分からないけど、飛行魔法フライで行けなくもないとは思う。
 でもかなり目立つ。
 飛行魔法は絶対使えない。
 それなら……。

「ちょっと私見に行ってくるよ。コハクのことをお願い」
「え、はい……」

 私は馬車から降りて、人混みを掻い潜って土砂崩れの現場に向かった。
 そこでは何人かの冒険者らしき男性達が、崩れた土砂を手作業で退かしていた。
 そして土魔法が使える2人の女性が魔法で土砂を退かしている。
 これなら私も協力できるかな。
 人がいなかったら、一気に土砂を移動させて山道を復興出来ただろうけど。

「私も手伝いますね」
「え、はい。ありがとうございます」

 私は魔法使いの女性に話し掛けて復興に参加する。
 この女性達は結構魔法レベルが高いかもしれない。
 いとも簡単に土砂を魔法で払い除けている。
 服装的に冒険者っぽくはないけど、凄腕の魔法使いなのは間違いない。

 私は崩れている土砂に魔力を流して、土魔法でレンガのように固める。
 以前にも地面を窪ませたりしたこともあったから、同じ要領でやってみた。
 意外と出来るもんだね。
 そして固めたレンガ状の土砂を通行の邪魔にならない場所へと持っていく。

「す、凄いですね……」
「え、そうですか?」

 この女性も凄いと思うけど……。
 私にとってはそんなに凄いことをした自覚はないんだけど。

「そうやって土砂を固めることもできるんですね……」
「あ、はい。私と同じ様なイメージで土砂に魔力を流してみたら出来ると思いますよ」

 女性も同じ様に土砂に手を添えて魔力を流し始めた。
 そして土砂を固めるように魔法を行使した。

「あ、出来た……」

 すぐに再現できた。
 そんなに難しくないよね。
 これなら変に目立たなくて済みそう。

「でしたら、お二人が魔法で土砂を固めてください。私は魔法で移動させますから」
「……はい。では、お願いします」

 その後は魔法使いの2人の女性に土砂を固めてもらい、私は大量にできたレンガを風魔法で移動させるという手順で山道を塞いでいた土砂を全て撤去した。
 もちろん手作業で土砂を払い除けていた筋肉質な冒険者も頑張ってくれた。

 それにしても結構時間掛かっちゃったな。
 もう夕方だから予定の到着より1日遅れてしまうことになった。

「手伝っていただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ助かりました。では失礼します」

 女性からお礼を言われたため返事をする。
 私はそのまま立ち去って、馬車へと戻った。
 とはいっても、土砂の影響でかなりの数の馬車が停留してしまっていたため中々進まない。凄く渋滞している。
 こうなると、次の休憩所は人で溢れかえってしまうのではないか。

「ねぇ2人ともどうする? このままだと次の休憩所で休めないと思うよ」
「そうだな……。少し山道から離れて野営でもするか」
「「賛成!」」

 私達は馬車を山道の脇に停めて、野営をすることにした。
 どうやら私達と同じ考えの人もいるらしく、休憩所ではなく山道の脇で野営をしている馬車が何台かある。

 とりあえず焚き火をしながら夕食の準備をする。
 今日は鍋にしよう。
 白菜があるから豚肉のバラ肉と合わせてミルフィーユ鍋にする。
 渦巻き状に鍋に盛り付けるのが面白いんだよね。

「はふはふっ!」
「ん~美味しいです!」

 カレンもシャルも美味しそうに食べている。
 鍋って簡単に作れて美味しいからいいよね。

「ママおかわり!」

 コハクも気に入ってくれたようだ。
 私も前世からミルフィーユ鍋は大好きだから、みんなが気に入ってくれて嬉しい。

 今日は土砂崩れで予定外に進行が遅れたけど、何とかなって良かった。
 まだ王都までは遠いけれど、このまま進めば何とかなるだろう。
 ベルフェストの王都はどんな場所なのかな。
 そういえば、獣人族がいるとも言っていたな。
 ちょっと……いや、かなり楽しみだ。

「そういえばスリープシ村って王都から近いの?」
「そんなに遠くはないよ。大体5日くらいで着くはずだ」

 思ったより近いようで安心だ。
 なら王都に着いたら、もう目的地に到着したのも同然の様なものだ。
 少しだけ王都でお買い物してもいいかな。
 食文化の違いがないか見てみたいよね。

「ちなみに王都の滞在はどのくらい?」
「えっと、冒険者ギルドで金を下ろしたいだけだから、一泊かな……」

 がっくし……。
 私は項垂れる。
 うん。分かってたよ。
 今回の目的はあくまでカレンの家族のために来たんだ。
 私のわがままで妨害するわけにはいかない。

「……用事が済んだら王都を観光しようか?」

 カレンからの提案。
 私が落胆していたのを察してくれたのか。
 ありがたや。

「うん!」

 これで王都観光もできそうだ。楽しみだね。
 そして私は馬車の中でコハクを抱き締めながら眠りについた。
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