23 / 121
第2章
第23話 フラグメント
しおりを挟む船から美癒の部屋までは、ジンと琉緒が送ってくれた。
「ジン様。送って下さり有り難うございます。」
「んー・・・っと。少し上がらせてもらってもいいかな?個別で話をしようって終わらせてたからさ。」
「あ、ハイ。」
(琉緒もかな?)
そう思っているうちに琉緒が美癒の部屋の鍵を開ける。
その光景を見て思わずジンが吹き出す。
「ははは、結局鍵を渡したんだね。」
「いやー、あの、別に・・・琉緒に任せた方が楽だと思って・・・。」
「良いんじゃない?でも僕を仲間はずれにしないでね。」
悪戯っ子のように茶化すジン。
「そんなっ恐れ多いですよ!」
「うだうだ言ってねーで、早く入るぞ。」
「お邪魔します。」
「どうぞどうぞ!飲み物準備しますね。」
「気にしないでいいよ。」
「俺はいつものでー。」
「・・・変なマウント取らずに『いつもの』って何か教えなさいよ。」
3人でソファに座ると、当たり前のように話を聞こうとしている琉緒の姿を見てジンは笑う。
気持ちが不安定な美癒にとっては有難い存在だった。
「話って・・・?」
「僕は神使任務に就いて年数はまだ浅いんだけど、神様の側近第3位に昇進が決まったんだ。」
神使任務は、上位5名が神様の側近第1~5位に任命される。
ジンの場合は誰もが次期側近だと予想していただろう。
「思ったより早い任命だな。どこの所属になるんだ?」
「正式発表は後日だけどね。所属は【空の世界】だから最近は出入りも頻繁になっていたんだ。」
「権限が持てて良かったじゃねーか。お前の悪趣味に神様も興味津々だしな。」
(本当に琉緒はジン様を毛嫌いしてるよね~。すごく失礼。)
「その話は取り敢えず置かせてもらうよ。
そこで、丁度いいタイミングだし美癒ちゃんは神使任務に就いたら、僕の傍で補佐役を勤めてみないかい?
前に美癒ちゃんを神使任務に推薦するって言ったのも僕だしさ、僕の傍で学べた方が良いと思って。」
(・・・・・・。んんん?)
「ちょっと待って下さい。全然頭が付いていきません。」
「急で驚くよね。でも前向きに考えて欲しいんだ。」
ジンからの誘いは、またとないチャンスだった。
自分が役に立つならば喜んで受けたい、だがジンの補佐役を希望する者も多いだろう。
自分より実力の有る人が選ばれるべきではないかと考え込む。
「有り難いお話しです。でも、少し・・・考えさせてください。」
美癒なら絶対に引き受けてくれると思っていたジンは少し驚いた。
気付かぬうちに美癒の喜ぶ表情をも期待していたのだ。
「分かった。もし美癒ちゃんが引き受けてくれるなら、琉緒も補佐役にしてもいいと思ってる。」
「何だよそのオマケ扱いは。俺にだって選ぶ権利は有るだろうが。」
「辞めとくか?」
「美癒に先越されるのは癪だから、美癒が引き受けるなら俺もやってやるよ。」
「素直じゃないなぁ。」
ジンと琉緒の会話はあまり美癒の頭に入ってなかった。
今日は色々な事が起きた。
魂を操る事が出来るのだと初めて知って、カンナの父親を生き返らせる事が出来た。
そして予想外のジンからの勧誘。
実際、断る理由もない。
だが素直に喜べるような簡単な話でもない。
「長くは待てない、良い返事を期待してるよ。」
「・・・はい。所でカンナのお父さんの件なんですけどーーー。」
「その件はまた後日にしよう。」
美癒が聞こうとしたら、ジンは言葉を遮って話を避けた。
(改めて個別で話すって言ってたから、そのために来たのかと思ったのに・・・。)
ジンが帰ったあと、美癒は気になっていた事を琉緒に尋ねた。
「ジン様の事をすごく嫌ってるのに補佐役になりたい?」
「昇進したらいつかは就く任務なんだ。それが遅いか早いかってだけじゃねーか。それに実際はジンの方が俺を嫌ってるんだよ。」
(琉緒の実力なら、補佐役を飛ばして側近になりそうな気がするけど・・・。)
「ふふっまさか~。ジン様からしたら琉緒なんて眼中にないよ。」
「あいつには気をつけろ。何を企んでるのか分からねぇ。」
「…具体的に言ってくれないと分からないよ。」
「そのうちな・・・。」
「昔から縁があったとは聞いたよ?」
「ジンからか?縁があったというか、もともと…」
モゴモゴしてきて何を言っているのか分からない。
「ちょっと!だんだん声が小さくなって分からない!」
再びゴニョゴニョと、とても言いにくそうにする琉緒。
話が進まないから聞くのを辞めて風呂に入った。
時間が経って風呂から上がると、琉緒は既に帰ったようだった。
美癒はベッドに横になって、何となく両手を上げて見つめていた。
(魂…。私が操れるのなら、異界の山に来た人たちをドンドン生き返らせてー…って、神様が許さないか。琉緒の魔法と違って魔力の消耗は途轍もないだろうし。きっと私は長く生きられないんだ。)
そう思っているうちに美癒は眠りについていた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる