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第2章
第25話 フラグメント
しおりを挟む美癒の背後から、アイ先生が近付く。
「彼、すごいわね・・・子供達に大人気。」
「・・・ほんとすごい。子供達が楽しそうで良かった。私は・・・体調チェックを始めますね。」
子供相手に右往左往しているのではないかと意地悪な想像していたが、結局何をさせても完璧な琉緒だった。
美癒は子供達の体調チェックを始めるが、子供達は美癒に見向きもせずに楽しそうで少し寂しい気持ちになった。
トモも琉緒に耳打ちしながら内緒話をしている。
子供達の事は琉緒と他の先生に任せて、美癒はアイ先生と雑務をこなした。
トモの父親をモニターで見えるように申請手続きもしたので、近いうちに一度見させてもらえるだろう。
子供達の楽しそうな声が途切れる事なく聞こえて、美癒はとても幸せだった。
そしてあっという間に夕方になり、琉緒が事務室にいる美癒を迎えに来た。
「あー身体中が痛い。疲れたわー。」
「琉緒、お疲れ様。もう終わるから!」
「美癒さんもう良いですよ。2人ともお疲れ様でした。
それから神使任務の件、慎先生から聞きましたよ。将来は保育任務に就いてくれると思ってたから寂しいけど、私も他の先生もみんな応援してるからね。勿論琉緒さんも。何かあったらいつでも遊びに来て下さい。子供達も待ってます。」
(アイ先生・・・最後まで私が話すのを待ってたんだ。ずっと保育任務に就くって言ってたから。なのに私は自分から言い出せなくて・・・。)
アイ先生の優しさが突き刺さり、美癒の目から涙がこぼれだす。
「アイ先生・・・ごめんなさい!!私から話さないといけない事なのに・・・ッ。保育任務に就くって言ってたのに・・・本当にごめんなさいっ。」
「ふふっ、泣かないで。みんな美癒さんの進む道を信じてるわ。」
「ありがとうございますっ!!」
泣きながら挨拶をして琉緒に引っ張られるようにして外へ出た。
すると、子供達が窓から顔を出して
「みゆー!るおー!ありがとう!!!」と大声で叫んでくれていた。
美癒は慌てて涙を拭って、笑顔で手を振った。
琉緒も「またな!」と言って一緒にその場を後にした。
「なぁ、そこの山めちゃくちゃ景色が良いぞ。ちょっと行こう!」
「え?急になに?」
突然琉緒から山へ誘われ、美癒の身体がフワッと飛ぶ。
(琉緒、すごい疲れてるはずなのに大丈夫なのかな?)
琉緒が指さす山の頂上・・・まではいかなかったが上の方まで着いた。
「ほら、こっち!」
子供と遊んでいた時と同じくらい明るい笑顔で、美癒の手を引っ張って行く。
「・・・わぁ、ほんとだ。キレイーーー。」
夕日が照らした幻想的な景色に目を奪われる。
「見たくなったらいつでも言え。俺が連れてきてやる。」
「ふふっ今日の琉緒、優しいね。普段ならそんなこと絶対言わないじゃん。」
素直に御礼を言えなかった美癒だったが、琉緒も我に返ったように顔を真っ赤にする。
「トモが・・・『美癒は【空の世界】の記憶がないから可哀想だ』って言ってた。」
「トモ君は自分の事を『【空の世界】の記憶があるから寂しい』って言ってた。」
「・・・美癒は家族の事は覚えてる。だから無理に【空の世界】の頃を思い出さなくても良いんじゃないか?・・・いや、思い出すな。」
「何で?ひょっとして琉緒、何か知ってるの?」
「あ、いや・・・その・・・。」
「琉緒は嘘が付けないんだよね。で、何を知ってるの?」
「いや、美癒が【空の世界】で何してたかは知らない。嘘じゃない。ただ、トモが心配するから気にするなって意味だ!」
「トモ君に心配かけちゃったんだね。駄目だなぁ私。」
「そうだぞ!それにしても今日の俺も凄すぎてびっくりしただろー。」
「うん、かっこよかった。」
「・・・は!?」
「すごくかっこよかったよ。」
素直な美癒の言葉に驚き、2人は見つめ合う。
「美癒・・・。」
2人は見つめ合ったまま沈黙してしまう。
まるで時が止まったかのようだった。
そして日が沈んで暗くなり出した時、琉緒の真っ直ぐな瞳が美癒に近付く。
ゆっくりと重なる唇。
角度を変えて、何度も、何度も・・・深く、深く・・・。
美癒も琉緒を受け入れるーーー。
(あたたかい・・・。)
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