夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
27 / 121
第2章

第27話 美癒と菜都

しおりを挟む
菜都の反応に琉偉が驚く。
           
「あれ?知り合い?」

「んー?俺は初めましてだけど。」

「兄貴の話をしたことあったっけ?」

「っ・・・!?」

混乱して、琉偉の手を放し頭を押さえながら座り込む菜都。

「ちょっと、大丈夫?」

兄の琉緒が慌てて自転車から降り、菜都の頭をポンポンっと優しく包んだ。

その瞬間、菜都の全身にピリリッとまるで電気が走ったような感覚に陥った。

脳裏には、懐かしい琉緒の笑顔が一瞬だけ浮かんだ・・・気がした。

「気分悪くて保健室で休んでたから家まで送るんだよ。丁度いいから自転車貸して。美癒、後ろ乗れる?」

琉偉は動かない菜都の背中をさする。

「自転車に乗るの無理なんじゃない?おんぶして帰った方が良いと思うけど。」

「・・・うーん。」

そう言うと琉偉は菜都をお姫様抱っこして持ち上げた。

菜都の顔が見えて驚く。

「泣いてるの!?」

涙を流しながら首を横に振る。

「そっか・・・大丈夫だからね。家まで帰ろう。」

「琉偉のカバン持って帰っとくよ。」

「よろしく。」

「じゃあ気を付けて。」

そう言って、琉偉の兄は去って行った。

琉偉はお姫様抱っこのまま、歩き出す。

「兄貴が来てビックリしたよね?そのせいで余計に気分悪くなったならごめん。」

菜都は再び首を横に振る。

「何で琉緒って名前知ってたの?」

「・・・。」

黙る菜都に、琉偉はそれ以上聞かなかった。

家に着く前に落ち着いて、お姫様抱っこから降ろしてもらった。

「送ってくれてありがとう。また明日ね。」

「どういたしまして、ゆっくり休んで。また明日。」

笑顔で手を振ってくれる琉偉。

菜都が家に入るのを確認して帰って行った。


***


「琉緒。今の見た?」

モニターの映像は流れ続けている。

「・・・俺の担当は琉偉だからなぁ。」

「私の見間違いじゃないよね?」

「あー、天気も悪いし調子も悪そうだ。」

「・・・違う。」

「ーーーははっ、だよな。おかしい事が起きたよな。」

観念したように琉緒が答える。

「・・・意味分かんない。何で琉緒があそこにいるの!!?」

黙る琉緒。

琉偉の兄と紹介された人物は、名前だけでなく顔まで瓜二つだった。

「普通に琉緒だったよね?どういうこと?」

琉緒は険しい顔をしたまま目を瞑ってしまい、何も話さない。

美癒は琉緒のモニターを覗き込む。

琉偉は、雨が降り出してしまい、走って帰っている。

そこに、兄が傘を持ってやってくる。


「やっぱり・・・どこからどう見ても琉緒だよ。」

(でも話し方は全然違う。琉緒みたいに口が悪くなくて、どちらかと言うと・・・ジン様のような口調だ。)
 
「琉偉は何を知ってるの?何を隠してるの?説明・・・してくれるよね?」

「・・・ジンと一緒に話す。」

「それっていつ?」と美癒が聞こうとした途端、琉緒の魔法で2人は応接室の前に移動した。

コンコン・・・
「いるんだろ?入るぞ。」

そう言って琉緒は応接室の扉を開けると、ジンが一人で座っていた。

まるで、2人を待っていたかのように。

「よく分かったね。ここにいるって。」

「ふざけるな、わざとだろ?」

「ははは。僕も焦ってるんだよ。」

「看視実習はあと数回で終わる予定だった。実習中は近付けない約束だろ。」

(何のこと?話が読めない。)

「美癒ちゃんに説明してからここに来たのかい?」

「・・・これからだ。」

「そっか、美癒ちゃんも驚いたよね?まさか琉緒が生きているなんて。」

「え!!?確かに琉偉のお兄さんは琉緒に見えたけど・・・生きてる?」

「そうだよ、あれは琉緒本人だ。
まず僕と琉緒の関係だけど、前世よりずっと昔から縁があるって話したよね。
もともと僕達は1つの魂だったんだ。
2つの魂に分かれて別々の人生を歩むはずだったのに・・・。
僕は生まれる事が出来なかった。
悔しくて、琉緒の事も生まれる直前に魂を入れ替えてやったんだ。
僕お手製の作り物の魂とね。」

「つくりもの・・・?」

「そうだよ。だから【この世】にいる琉緒は、僕の操り人形みたいなものなんだ。」

急に色々な情報が入り頭が混乱してしまうが、それでも分かる。

それがひどいという事だけは。


「ひどい・・・。ひどいよ・・・。」

「うん僕も後悔してる。だから美癒ちゃんにお願いしたいんだ。魔法をうまくコントロールできるようになったら・・・琉緒の魂を戻してやって欲しい。」

「ハッ・・・。勝手な事を言うなよ。俺は【この世】の人間になんてなりたくないね。お前が今まで操って生きてきた人生だ、好きに使え。【この世】は魔法が使えないし不便じゃねーか。」

「そうだよね・・・。琉緒は私から離れていかないよね・・・?」

そう言って美癒は応接室から走り去る。

勝手な事を言ってしまった事は自覚していた。

琉緒が生きているなんて良い事だ。

だが、自分の目の前からいなくなるかもしれない少しの可能性に不安を感じた。

琉緒は美癒を追いかけなかった。

「お前は何を企んでる?琉緒の身体を欲しがってるのは、お前だろ。」

「何を言ってるの?僕は琉緒のためにしてるんだよ。それに君も昔の美癒ちゃん…今の菜都ちゃんに会いたいんじゃないの?」

「俺はーーー。」


---


(琉緒も何で今まで黙ってたのよ!それにジン様がそんなひどい人だったなんて!!)

美癒の怒りは収まらない。

教室に戻って、付けっ放しだったモニターに気付き消そうとした時、菜都が一生懸命勉強している姿が目に入った。

(なんだ・・・大丈夫そうだね。)

安心してモニターを消して学校を後にした。

だが、菜都は勉強していたわけではなかった。

記憶を整理するために、ノートに書き込んでいたのだった。

     
     
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...