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第2章
第29話 美癒と菜都
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爽やかで可愛い表情の近藤君しかしらない菜都は、初めて見る冷たい表情と口調に背筋が凍った。
「急にどうしたの?」
「土田先輩じゃないだろ?」
「・・・え?何でそんなこと言われないといけないの?」
菜都はベンチから立ち、近藤君に近付く。
「じゃあ近藤君が教えてよ。私が何で菜都じゃないと思うのか!」
そこに、香織が絆創膏を持って戻ってきた。
「…ただいまぁ。喧嘩してる?」
「・・・。」
菜都も近藤君も黙り込む。
「なになにー?2人が喧嘩してるところなんて初めて見るよぉ。近藤君もあんなに菜都に懐いてたのに。」
「・・・ごめん、やっぱりまだ調子が良くないみたいだから先に帰るね。」
気まずい空気になり、菜都は香織に謝って先に帰った。
(私は菜都じゃない!そんなの自分が一番よく分かってる!気付きたくなかった!!
本当の私はーーーーーーーーー)
頭に血が上り再び気分が悪くなったが、久しぶりに夜道を一人で歩いていたら少しだけ気分が落ち着いた。
家に着いて自分の部屋に入ると、大翔が椅子に座ってノートを見ていた。
菜都が、記憶を整理するために書き込んだノートだった。
(さっき呼びに来た時からここにいるのかな?)
「ただいま。何してるの?」
「おかえりー。お姉ちゃんこれ何を書いてるの?」
「ふふっ、恥ずかしいなぁ~。書いた私が言うのも変だけどよく分からないの。夢の話かなぁ~?」
「美癒って書いてるのも夢のこと?」
「そうだよ。私が美癒って呼ばれてた。」
「美癒お姉ちゃんのことだよね。」
「へ?どこのお姉ちゃん?」
「僕達のお姉ちゃんの事じゃないの?」
「あ…はは。何言ってるの?」
「なんだ、違うのか。じゃあ僕寝るね。おやすみ。」
菜都は鳥肌が立った。
部屋から出て行こうとする大翔を呼び止める。
「待って!その、大翔が言う『美癒お姉ちゃん』について教えて!」
「僕も会ったことないよ。むかし、お姉ちゃ…菜都お姉ちゃんから話を聞いたことがあるだけ。」
「私が…?」
「ううん、違う菜都お姉ちゃん。母さんに聞いてみたら?」
「・・・???」
大翔は自分の部屋に戻って行った。
気になって仕方がなかった菜都は、母親のいるリビングへ行った。
「ねぇお母さん。私ってお姉ちゃんいる?」
急な質問にキョトンとする母。
(そうだよね。急にこんな事聞かれたら驚くに決まってる。)
「ごめん、なんでもないの。大翔が私達に姉がいるって言うから聞いてみただけ。」
「あ…あぁ、ビックリしちゃって。そうね、今まで言った事はないけど…いるわ、お姉ちゃん。正確には過去形だけど。」
そう言いながら引き出しの中からゴソゴソと、母子手帳を取り出した。
「名前が書いてある…美癒?」
「そう。流産して産んであげられなかったんだけどね…あなたのお姉ちゃんよ。流産した後も、母子手帳は持ってて良いって言われたから、せめてと思って…決めていた名前を書いたの。」
母は話しながら当時を思い出したのか、涙を流す。
震える声で
「産んで抱きしめたかったなー。」と呟く母を、菜都は無意識のうちに抱きしめた。
「きっと美癒もお母さんと同じ気持ちだよ。お母さん、大好き。ずっとずっと、大好きだよ。」
「あらあら、私が泣いちゃったからごめんね。」
「ううん、そうじゃないの。産まれる事が出来ても出来なくても、私はお母さんで嬉しい。私のお母さんが、お母さんで良かった。」
菜都の言葉に、母は溢れ出す涙を止めることが出来なかった。
お腹の中で死んでしまった赤ちゃんを思い、自分を責め続けてきた。
人殺しのように思えて救われる事のなかった心。
菜都の言葉は、そんな母の心に沁み渡ったのだ。
少しでも母の罪悪感が薄れる事を願った。
「まるで美癒が抱きしめてくれているみたいね。ありがとう。
でも、菜都と大翔が産まれてくれて、私は本当に幸せよ。
美癒が天国で、私達を見守ってくれてたら嬉しいわね。」
「見てるよ、絶対。」
母と菜都は、しばらく沈黙の時間を過ごした。
「…ところで、大翔も美癒の事を知ってたんだけど?」
「美癒のことは、菜都にも大翔にも言った事ないわよ。
でも、大翔は産まれる前の胎内記憶があったり、昔から不思議な子だったわ。」
「へぇ~・・・。辛い思いでなのに話してくれてありがとう。」
「大丈夫よ、お母さんこそ隠しててごめんね。」
母が泣き止んでから、菜都は自分の部屋に戻った。
(やっぱり私の記憶は正しいんだと思う。私は美癒。
まだボンヤリとしか思い出せないけど、最近の記憶から徐々に…確実に記憶は戻ってきてる。菜都を引き止めに異界の山へ行ったあの日、あの眩しい光で私達は入れ替わったんだ。)
美癒と菜都が入れ替わったあと、大翔が言った”お姉ちゃん、お帰り”という言葉。
大翔は最初から気付いていたのだった。
本来の美癒の記憶に、菜都の記憶も混じって混線する中
最近の記憶から、始まりとなる【空の世界】の記憶までの全てを思い出すのには時間がかからなかった。
しかし、後日全てを思い出しても自分に何も出来ない無力さに絶望するしかなかった。
*-*菜都 side story end*-*
「急にどうしたの?」
「土田先輩じゃないだろ?」
「・・・え?何でそんなこと言われないといけないの?」
菜都はベンチから立ち、近藤君に近付く。
「じゃあ近藤君が教えてよ。私が何で菜都じゃないと思うのか!」
そこに、香織が絆創膏を持って戻ってきた。
「…ただいまぁ。喧嘩してる?」
「・・・。」
菜都も近藤君も黙り込む。
「なになにー?2人が喧嘩してるところなんて初めて見るよぉ。近藤君もあんなに菜都に懐いてたのに。」
「・・・ごめん、やっぱりまだ調子が良くないみたいだから先に帰るね。」
気まずい空気になり、菜都は香織に謝って先に帰った。
(私は菜都じゃない!そんなの自分が一番よく分かってる!気付きたくなかった!!
本当の私はーーーーーーーーー)
頭に血が上り再び気分が悪くなったが、久しぶりに夜道を一人で歩いていたら少しだけ気分が落ち着いた。
家に着いて自分の部屋に入ると、大翔が椅子に座ってノートを見ていた。
菜都が、記憶を整理するために書き込んだノートだった。
(さっき呼びに来た時からここにいるのかな?)
「ただいま。何してるの?」
「おかえりー。お姉ちゃんこれ何を書いてるの?」
「ふふっ、恥ずかしいなぁ~。書いた私が言うのも変だけどよく分からないの。夢の話かなぁ~?」
「美癒って書いてるのも夢のこと?」
「そうだよ。私が美癒って呼ばれてた。」
「美癒お姉ちゃんのことだよね。」
「へ?どこのお姉ちゃん?」
「僕達のお姉ちゃんの事じゃないの?」
「あ…はは。何言ってるの?」
「なんだ、違うのか。じゃあ僕寝るね。おやすみ。」
菜都は鳥肌が立った。
部屋から出て行こうとする大翔を呼び止める。
「待って!その、大翔が言う『美癒お姉ちゃん』について教えて!」
「僕も会ったことないよ。むかし、お姉ちゃ…菜都お姉ちゃんから話を聞いたことがあるだけ。」
「私が…?」
「ううん、違う菜都お姉ちゃん。母さんに聞いてみたら?」
「・・・???」
大翔は自分の部屋に戻って行った。
気になって仕方がなかった菜都は、母親のいるリビングへ行った。
「ねぇお母さん。私ってお姉ちゃんいる?」
急な質問にキョトンとする母。
(そうだよね。急にこんな事聞かれたら驚くに決まってる。)
「ごめん、なんでもないの。大翔が私達に姉がいるって言うから聞いてみただけ。」
「あ…あぁ、ビックリしちゃって。そうね、今まで言った事はないけど…いるわ、お姉ちゃん。正確には過去形だけど。」
そう言いながら引き出しの中からゴソゴソと、母子手帳を取り出した。
「名前が書いてある…美癒?」
「そう。流産して産んであげられなかったんだけどね…あなたのお姉ちゃんよ。流産した後も、母子手帳は持ってて良いって言われたから、せめてと思って…決めていた名前を書いたの。」
母は話しながら当時を思い出したのか、涙を流す。
震える声で
「産んで抱きしめたかったなー。」と呟く母を、菜都は無意識のうちに抱きしめた。
「きっと美癒もお母さんと同じ気持ちだよ。お母さん、大好き。ずっとずっと、大好きだよ。」
「あらあら、私が泣いちゃったからごめんね。」
「ううん、そうじゃないの。産まれる事が出来ても出来なくても、私はお母さんで嬉しい。私のお母さんが、お母さんで良かった。」
菜都の言葉に、母は溢れ出す涙を止めることが出来なかった。
お腹の中で死んでしまった赤ちゃんを思い、自分を責め続けてきた。
人殺しのように思えて救われる事のなかった心。
菜都の言葉は、そんな母の心に沁み渡ったのだ。
少しでも母の罪悪感が薄れる事を願った。
「まるで美癒が抱きしめてくれているみたいね。ありがとう。
でも、菜都と大翔が産まれてくれて、私は本当に幸せよ。
美癒が天国で、私達を見守ってくれてたら嬉しいわね。」
「見てるよ、絶対。」
母と菜都は、しばらく沈黙の時間を過ごした。
「…ところで、大翔も美癒の事を知ってたんだけど?」
「美癒のことは、菜都にも大翔にも言った事ないわよ。
でも、大翔は産まれる前の胎内記憶があったり、昔から不思議な子だったわ。」
「へぇ~・・・。辛い思いでなのに話してくれてありがとう。」
「大丈夫よ、お母さんこそ隠しててごめんね。」
母が泣き止んでから、菜都は自分の部屋に戻った。
(やっぱり私の記憶は正しいんだと思う。私は美癒。
まだボンヤリとしか思い出せないけど、最近の記憶から徐々に…確実に記憶は戻ってきてる。菜都を引き止めに異界の山へ行ったあの日、あの眩しい光で私達は入れ替わったんだ。)
美癒と菜都が入れ替わったあと、大翔が言った”お姉ちゃん、お帰り”という言葉。
大翔は最初から気付いていたのだった。
本来の美癒の記憶に、菜都の記憶も混じって混線する中
最近の記憶から、始まりとなる【空の世界】の記憶までの全てを思い出すのには時間がかからなかった。
しかし、後日全てを思い出しても自分に何も出来ない無力さに絶望するしかなかった。
*-*菜都 side story end*-*
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