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第2章
第30話 美癒と菜都
しおりを挟む(ん~。なんだかふわふわしてるなぁー・・・。)
「お姉ちゃん。お姉ちゃん。…美癒!」
「ひゃれ!?(あれ?)」
「もうー、何をボケっとしてるの?早くしないと遅刻するよ。」
美癒の目の前には菜都がいて、お洒落な洋服を着て立っていた。
「あれ…菜都?何でここにいるの?」
「何を言ってるの。これから一緒に海へ行くんでしょう?」
「うみ?でもいま秋…。」
「変なこと言ってないで早く準備して。」
「は、はぁい。」
「ほらモタモタしないで。」
「はい!」
美癒は自分の部屋に懐かしさを感じ、慌てて準備をする。
「私と違って菜都は女の子らしいし、しっかり者だね~。」
「そう思うならもうちょっと女の子らしくしたら?」
「うっ…。」
「・・・ねぇ。まだ思い出せないかな?自分の事。」
「はい?」
「私は今までも楽しかったよ。辛くなかったし、全く恨んでない。別にあのままで良いと思ってた。お姉ちゃんはどうしたいの?」
-----ドテーン!
ベッドから転げ落ちる美癒。
(あぁ。また夢か…。こんなタイミングで落ちるなんて。)
美癒と菜都が夢で顔を合わせるのは初めてだった。
正確に言うと、目が覚めると忘れている事も多く、覚えている中では初めてだった。
(そういえば生まれる前に、菜都と海に行きたいって話してたような気がする。)
そして美癒は何かを決意したように、自分の部屋を後にした。
まだ真夜中で外は暗い。
美癒は街灯で明るく照らされたベンチを見つけ、腰をかける。
「琉緒…元に戻さなきゃダメだよね…。」
ボソっと呟くと背後から琉緒の声がした。
「だから、俺はこのままで良いんだって。」
「わっ!!琉緒!?いつの間に?!」
「ずっと後ろ歩いてたけど。」
「こんな時間に起きてたの?」
「んー、眠い…。」
「部屋に戻りなよ。」
「美癒も戻るぞ。」
「…ちょっと外にいたいんだ。」
「脳みそ空っぽなんだから、何も悩むな。」
「分けてあげたいほど詰まってるわよ!真剣に考えてるのに!琉緒のバカ!」
「バ…!?余計なお世話なんだよ。ほら、戻るぞ。」
結局琉緒に引きずられて美癒は部屋に戻った。
そして琉緒は美癒をベッドに入れた後、見張るように寝るのを待った。
眠そうにしている琉緒に美癒は話し続ける。
「最近菜都の日常がよく浮かぶんだ。看視実習で見た事がないような事まで。
夢と混乱してるのかもって思ってたけど、何だか懐かしい気分になるの。」
「菜都がうらやましいのか?」
「どうだろ?菜都が1人で泣いてる姿を見て、姉として側にいたかったとは思った。
さっきはね、菜都が夢に出てきたんだ。姉妹で生まれてたらこんな感じなんだろうなって思った。」
「美癒は特別な力を持っている。お前が望めば好きなように出来るぜ。」
「好きなように?」
「魂を操れるんだから。好きな身体にだって入れるんじゃねーの?
勿論【この世】の人間になった瞬間、魔法は使えなくなるけどな。」
「自分の魂を入れようだなんて、考えてもみなかった…。」
「お前だって、元々は美癒じゃなかったのかも知れないぜ?」
「ぷっ。私が美癒じゃなかったら、琉緒は本物の美癒に会いたい?」
「俺はーーー
手がかかる今のお前が放っておけない。」
ジンにも同じ質問をされた事を思い出しながら琉緒は答える。
「それって答えになってる?あと私は琉緒に手をかけてもらった覚えはありません~。」
「眠くて頭が回らねぇんだよ、俺も寝るわ。ソファ借りる。」
美癒が寝るのを待つつもりだったが、琉緒はこれ以上話す気分にならず眠りについた。
美癒もそっと瞼を閉じた。
(目を瞑ると鮮明に思い浮かぶ…。私の部屋じゃない。菜都の住む所だ。
看視実習を始めて数年なのに、何年も前の、菜都の幼い頃の記憶。
私に…菜都に何が起きてるの?)
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