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第2章
第31話 美癒と菜都
しおりを挟むそれから暫く看視実習の無い日が続いた。
自分の部屋で何をするでもなくゆっくりと過ごしていると、チャイムが鳴った。
琉緒も当たり前のように、美癒の部屋を自分の部屋であるかのようにソファでくつろいでいた。
「琉緒、誰か来たから出てよ。」
「何で俺が?」
「私は勉強中なの。」
ピンポーン
「ほーん。『魔力の基礎知識』・・・ねぇ。それはただの基礎しか載ってない小学生で習う教科書じゃねぇか。」
「うっ・・・うるさいなぁ!」
ピンポーンピンポーン
「はいはいーお待た・・・ってジンかよ。」
「ジン様!?」
美癒が慌ててドアに向かうと、笑顔のジンが立っていた。
「やぁ、琉緒もいるなら丁度いい。時間あるかな?」
「はい、あります。」
「ありがとう。それにしても、いつも2人一緒だね。」
「俺の部屋は散らかってんだよ。」
「え!そうなの!?片付けなさいよ!」
「ははは、分かった分かった。そういうことにしとくよ。」
ジンが部屋に入り、3人はソファに腰を掛けた。
「側近第3位の正式発表が来週に決まった。同時に補佐役の発表も行わないといけない。考える時間は充分あったよね?答えを聞かせてくれるかな?」
「・・・・・私は、ジン様のお力にはなれません。」
美癒は無表情で答えた。
琉緒は珍しく真剣な表情で、口を開かずに様子を伺う。
「補佐役には簡単にはなれない。この機会を逃したら、キミは・・・。」
「今までジン様に憧れていたのに。琉緒の人生を狂わせた事がどうしても許せないんです。狂わせただけじゃない・・・作り物の魂で琉緒の人生を手に入れてる。」
「補佐役になって欲しくて・・・琉緒の魂を戻して欲しくて本当の事を話したんだけどなぁ。」
「そもそも私は、カンナのお父さんの魂を戻して以来、何も魔法が使えていません。
そんな私が補佐役だなんて、力不足です。今も魔力の基礎について勉強していますが、魂を操る魔力について全然説明書きされていないので納得も出来ません。」
「・・・それはそうだよ。魂を操る魔力については詳細が載せられていない。
それは、魂を操る持つ者は早い段階で”いなくなる”から詳細が書かれない!」
「おいジン!!その事は話すな!!!!」
琉緒は焦って止めに入ろうとする。
「美癒ちゃんのような魔法を使える存在はそうそう現れない。・・・でも時が来たら神様に取り込まれるだけだ。自分の寿命より早い段階で神様に魔力を渡して、魂は【あの世】へ行く。美癒ちゃんはそれで良いの?」
琉緒は、途中で何度も話を止めようとしたが、珍しく声を荒げて話すジン。
初めて聞く話に美癒は驚きと戸惑いを隠せなかった。
(この魂が尽きるまで、私は自分の任務を全うできないの?・・・ちょっと待って。その話が本当なら、ジン様の補佐役になったとしても私の未来は同じはず。なのに何故、補佐役になった方が良いような話し方をするの?)
「わ・・・私が神様の為に力になれるのなら・・・それで良い・・・です。」
美癒にとって本音と嘘が混ざった答えだったが、それが運命なら仕方ないとも思った。
ジンはため息をつく。
「美癒ちゃんの決断に、琉緒を巻き込むとしても?」
「え?」
「琉緒は必ず美癒ちゃんに付き添って、自分の魔力を神様に献上して一緒に消滅しようとする。」
美癒は琉緒の顔を見る。
「んなワケねぇだろ。ジンの言う事なんか気にするな。美癒は自分のしたいようにしろ。」
「・・・とにかく私に補佐役は務まりません。」
「そうか。・・・それなら強行突破しかないな。ごめんね、美癒ちゃん。」
ジンが美癒に向かって笑顔を向けた。
今にも涙が出てきそうな、悲しい笑顔だった。
同時に、美癒の身体はジンに引き寄せられる。
「きゃっ!?」
「今から着いてきてほしい所がある。」
美癒の耳元でジンが囁く。
ジンの誘いを断ったため、神様の元へ魂を持っていかれるのだと悟った美癒は、一瞬にして全身に鳥肌が立ったが、深呼吸をして自分の運命を受け入れる決意をした。
美癒はジンに連れられ、外に飛んで行く。
「待て!!美癒!!!」
琉緒はジンと美癒を追いかけて飛んで行く。
「琉緒。付いて来るな。」
「うるせぇ!勝手な事をするな!!」
上空を物凄いスピードで飛んで行く3人。
琉緒が、美癒に向かって人差し指を向けて自分の元へ引き寄せる。
「美癒!アイツの言われるがままにするんじゃねぇ!!」
「・・・琉緒は知ってたんだね。私が消えてしまうこと。」
「今はそんな事を言ってる場合じゃねぇだろうが!!」
そこで、ジンも人差し指を動かして美癒を引き寄せる。
「美癒!手を放すんじゃねぇ!!」
そして琉緒も再び美癒を引き寄せる。
(どうなっても良いんだよ、わたし。)
そう諦めかけていた瞬間、周りの景色を見て驚く。
「こ、これ・・・。これは・・・!」
(周りのビル、この上空の景色。間違いない。私は何度もこの状況を見てきた。
・・・いつ見た?夢だったよね。初めて見たのは、子供の頃におじいちゃん家で…!)
美癒は離れた所にいるジンに向かって叫ぶ。
「ジン様!私、付いていく事はできません!!まだ魂を消滅させるわけにはいかないんです!」
ジンの動きが止まったため、琉緒も動きを止める。
「・・・何か勘違いしてるのかな?僕は、美癒ちゃんを神様の所へ
今すぐ連れて行くつもりはなかったんだけど。」
「え?そうなんですか?」
(じゃあ何処に・・・?)
「異界の山へ。もうすぐ君のお友達がやって来るよ。」
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