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第2章
第32話 美癒と菜都
しおりを挟む「私の・・・友達?」
「美癒ちゃんは行くべきだと思う。琉緒は邪魔だから待ってて。」
「お前一人に美癒を任せられるかよ!」
「私も・・・琉緒がいた方が安心なんですけど。」
「うーん、美癒ちゃんと2人で話もしたかったんだけどなぁ。取り敢えず時間も無いから行こう。」
美癒は琉緒に連れて行ってもらいながら、3人は異界の山に向かった。
「ねぇ、色々聞きたい事はあるんだけどさ。私の魂が【あの世】に行くとしたら琉緒はどう思う?」
「美癒の魂が【あの世】に行くとは限らねぇ。」
「ジン様の補佐役になったら、何か違うの?」
「今のままだったら同じだ。でも【あの世】に行かない方法もある。」
「・・・【この世】に行くこと?」
珍しく察しの良い美癒に驚く琉緒。
「私、美癒じゃないよね?本当は菜都なんじゃない?
おかしいとは思ってたの。美癒としての記憶はあるのに自分に実感がない。
菜都の記憶が日に日にどんどん浮かび上がってくる。
さっき琉緒とジン様の引っ張り合いになった風景だって、昔から夢で何度も見たことあるの。」
「思い・・・出したのか?」
「分かんない。さっき気付いたからまだ頭の整理が出来てない。でも本当に入れ替わってるんだとしたら、菜都が水上バイクで事故した日だと思う。でもその日の事が思い出せそうで思い出せない・・・。」
琉緒と話しているうちに異界の山に到着した。
誘導任務の事務所兼待機室の建物に入り、辺りを見渡す。
トオルはいないようだ。
「ジン様、お待ちしておりました。本日担当をさせていただく、ミチルと申します。」
「ミチルさん。大変申し訳ないけど僕達だけで行かせてもらう。しばらくここで待機してもらえるかな。」
「かしこまりました。」
「対象者は?」
「既に、扉の向こうに来ております。」
「分かった、ありがとう。」
建物の奥にある大きな扉を開いて、外に出た。
辺りは真っ白だ。
「美癒ちゃん、遠くに立っているあの人が誰だか分かるかな?」
美癒は遠くに見える人影を見て言葉を失った。
「おい美癒、アイツって・・・。」
「う、うん・・・近藤君ーーー・・・。」
何で?と思いながら美癒が呟く。
「彼の事は思い出してるんだね。もう菜都ちゃんとしての記憶が戻ったと思って良いのかな?それとも看視実習で知ってるだけかな?」
「え!?ジン様がなぜ菜都の記憶だと・・・もしかして私が本当は何者なのかご存知だったのですか?・・・琉緒も?」
琉緒は美癒から目を逸らす。
「・・・記憶が戻ってるって事だね。何より何より。今はあまり時間が無いから簡潔に言うね。」
近藤君が来ている事態を最優先に考え、美癒は色々と問いかけたい気持ちを抑えた。
「彼は通り魔に合って致命傷を負っている。犯人は捕まっていない。一緒にいた菜都ちゃんの友人が救急車を呼んだが一刻を争う状況だ。
美癒ちゃん、君なら今ここで彼に会ってどうする?」
(近藤君・・・何でそんな事に・・・。きっと香織が救急車を呼んだんだ!大丈夫・・・大丈夫だよね。でもケガって、サッカーは大丈夫なの?ジン様が私を近藤君の所に連れて来たって事は・・・私が思うようにしても良いって事なの?)
「魂を【この世】に戻しても良いというお話しですか?」
「もちろん、美癒ちゃんの好きなようにして良い。」
「・・・でも、どうやったら良いか・・・。」
「ジン、お前は何を企んでんだよ?」
「琉緒。付いて来る事は許したが、口出しや手出しする事は許さない。」
「・・・分かったよ。」
「もし、私が失敗したら・・・?」
「美癒ちゃんが失敗したら、彼が【あの世】に行くだけだ。今のままだと助かる見込みはない。もちろん時間も無い。」
「・・・やってみます。近藤君に近付いて・・・会話もして大丈夫ですか?」
「会話は本来禁止されている。が、今回は特別に許可する。出来る限り・・・最低限で頼む。僕と琉緒はここで待っているよ。」
「ありがとうございます。では、行ってきます。」
美癒は琉緒の方を見た後、ジンに向かって一礼し、近藤君の元へ足を進める。
時間が無いから早く行かないといけないのに、不安が美癒を覆う。
一歩一歩、噛み締めるように歩いていると、近藤君との思い出が蘇る。
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