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第2章
第34話 美癒と菜都
しおりを挟む光が消えて辺りを見渡すと、近藤君の姿はなくなっていた。
(【あの世】への扉はくぐってないはず。カンナのお父さんの時と同じ状況だ!)
「ふぅ、成功…したんだよね…?」
美癒は目を瞑って大きく深呼吸をした。
そして両手を万歳しながら、そのまま後ろに倒れ込むと、地面に倒れる直前に琉緒が美癒の身体を支えた。
魔法を使えば済むのに、慌てて近付いてきたようだ。
「おぉ琉緒クン、見た?私ちゃんとできたかな・・・?」
「・・・よくやった。無事【この世】に戻ってる。」
優しい顔をしながら教えてくれると、美癒は瞳いっぱいに涙を浮かべた。
「良かった・・・ふぇ・・・う・・・わあぁぁ・・・ヒック。折角堪えてたのに、涙が止まらないや・・・。」
「成功したんだから泣くなよ。」
「・・・だって!・・・だって・・・成功して本当に良か・・・よか・・・グーグースースーZZZ」
「・・・は?(笑)」
この状況で美癒は眠ってしまった。
「信ッッッじらんねェ!!!」
呆れた琉緒の背後にジンが近寄る。
「ははは、美癒ちゃんは面白いねぇ。」
「力抜けるわー・・・。」
「結果としては彼が助かって良かった。琉緒も・・・口出し・手出しせずによく我慢したね。」
ジンの瞳も微かに潤っているように見える。
「は?言っとくけど、俺はお前が何を考えてるのか意味が分からねぇ。」
「もちろん、僕が琉緒にした事を考えると信用を失って当然。だけど琉緒に身体を返したい気持ちは本心だ。僕が琉緒の身体に入るつもりもない。ここですべきことがあるからね。」
「はいはい、お偉いさんは任務で大変ですねぇ。」
「ははは…。」
ジンの言葉を、琉緒は相変わらず信じる事ができずにいた。
そして今、ジンが悲しそうに笑ったことにも気付かないフリをした。
パチンッ・・・
ジンが指を鳴らすとミチルがやって来た。
「あれ?まだ扉を通ってませんよね??対象者はどこへ行ったのですか?」
ミチルが辺りを見渡しながら不思議そうに聞く。
「対象者は【この世】に戻ったよ。」
「・・・最近も対象者が【この世】に戻ったことがありましたよね?それもジン様が関わっていたと聞いています。そのような勝手な事をされてはーー」
「僕が判断した事だ。報告書にはありのままを書けば良い。だが、この事は口外するな。口出しもするな。・・・分かったか?」
ミチルの話を遮って強い口調で警告する。
表情も今までに見たことがないくらい恐ろしかった。
「は・・・はい!!」
ミチルは自分が正しい事を言っていると思いつつも、それ以上問うことができなかった。
「以上をもって終了、だ。それじゃあお疲れ様。」
ジンがミチルの肩をポンポンッと軽く叩くと、ミチルは一礼して去って行った。
「僕が美癒ちゃんを抱っこしようか?」
琉緒の方を向いたジンは、いつもの笑顔に戻っていた。
「だまれ、この鬼。」
「ははは、疲れてるだろうから早く連れて帰ろう。」
2人は美癒を起こすことなくそのまま部屋まで運び布団に寝かせる。
琉緒は当たり前のように美癒の部屋に居座るが、ジンも同じく美癒の部屋で寛いでいた。
「美癒が失敗してたら、どうしてたんだ?」
「失敗しないよ。」
「すげぇ自信だな。」
「琉緒は美癒ちゃんを信じてなかったの?」
「信じるも何も…すげぇプレッシャー背負ってたからな。普段できることだって失敗することはある。」
「バカ言うなよ。僕はそんなにギャンブラーじゃない。僕にとっても彼には助かって欲しいと思っていたからね。」
「そーかよ。」
「それに彼に会えば美癒ちゃんの記憶が戻ると思ったけど、さすがだ。」
「いや違う。美癒は近藤に会う前から記憶が戻ってた。」
「そんなまさか・・・!?いつ思い出したんだ?」
「お前になんか教えてやらねー!それより美癒と2人で話したい事って何だったんだ?」
「・・・『美癒ちゃんと2人で話したい』って言った事を、琉緒に教えるわけがないだろ。」
「チッ。」
「僕も疲れたから、このまま寝させてもらうよ。」
「はー?なに当たり前のように居座ってんだよ。」
「琉緒に追い出す権利は無いだろ。」
「大いにある!」
「・・・ZZZ」
「くっそ。」
ジンが勝手に居座って眠りについた事に腹を立てながら、琉緒は美癒に近付いた。
美癒は深い眠りについて、夢の中だ。
懐かしく感じる、【この世】の思い出が溢れる幸せな夢をーーー・・・。
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