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第2章
第35話 暁闇
しおりを挟む---生まれる直前に菜都の人生を奪って、自分が菜都になった。
再び入れ替わって美癒に戻ったいま、菜都として過ごした記憶が戻りやっと本当の自分を見つけた気がした。
自分自身への違和感が解けた。
だが、そう思う事すらも本物の菜都に対して悪い気がして罪悪感が拭えなかった。
自分には菜都だった頃の思い出を懐かしむ資格がない---
「寝ながら涙流しやがって。」
涙を流す美癒の涙を拭い、切なそうに頭を撫でる。
「ツンデレだねぇ・・・。」
寝ているはずのジンの声がしたため、慌てて手を引っ込めて振り向いたが、ジンは目を閉じていた。
(アイツ、狸寝入りかよ。)
琉緒は恥ずかしくて堪らなくなり、部屋の電気を消して無理やり眠りについた。
ジンも起き上がる事なく本当に眠りにつく。
あっという間に部屋は静かになった。
***
早朝、美癒が目を覚ますとジンが先に起きていた。
(なんで?
琉緒だけじゃなくてジン様までいる。まただ・・・昨日どうやって部屋に戻ってきたかも思い出せない・・・。)
「おはようございます・・・?」
「おはよう、よく眠れた?」
「はい。」
「昨日はお疲れ様。琉緒はまだ起きないと思うけど・・・ちょっと話したいから散歩しない?」
美癒は頷きジンと部屋を出て、まだ少し薄暗い道を歩いて行く。
「昨日の途中から記憶が曖昧で・・・。近藤君は、無事に戻れたんですよね?」
「ははは、突然寝るから驚いたよ。彼は無事に戻れたから安心して。」
美癒は胸を撫で下ろす。
「良かった・・・夢じゃないかと心配した・・・。ところで近藤君は、何で私が菜都だって分かったんだろう?」
そんなの近藤君にしか分からない・・・と思いつつ、つい口に出てしまった。
「・・・彼は美癒ちゃんの見た目が変わっても必ず気付くと思うよ。」
「え?何でですか?」
「ははは、野生のカンって事にしてあげて。」
「野生?ふふっ適当に答えますねぇ~。」
「適当じゃないんだけどなぁ~。」
とぼけたように言うジンだったが、実際には確信を持っていて
美癒が【この世】に戻る可能性を考慮しての答えだった。
「まあ、彼が気付くのは分かっていたから異界の山で会えば記憶が戻る鍵になると思ったんだけど・・・その前に思い出していたみたいだね。」
琉緒がジンに話したのだと理解した。
「そうなんです、最初ジン様に『強行突破だー!』って言われた時の事なんですけど。
ジン様と琉緒に交互に引っ張られるシーンを、子供の頃から何度も夢に見てた事を思い出しました。
それで、最初はおじいちゃん家で見たなーとか、あの時にも見たなーとか考えると次々に菜都だった頃の記憶を思い出してきました。」
「へぇ・・・。じゃあこうなる事は決まってたんだ・・・。」
ジンが足を止めたから、美癒も立ち止まる。
「予知夢って事ですよね。」
「そうだね。そのシーンが起こると決まっていたという事は・・・彼が刺される事も決まってたという事だ・・・。」
ジンがひとり言のように呟く。
「え?」
「ここからが本題だったんだけど。・・・実は、通り魔の犯人は僕が作った魂なんだ。」
ジンは、美癒と視線を合わせる事なく真実を告げる。
「それって・・・琉緒以外にも、ジン様が作った魂があったんですか?でも、なぜ通り魔に?」
「名前は”ゼロ”。琉緒と同じように僕が操っていた。だが自我を持ち、僕の支配から離れてしまったんだ。普通の人間として生活してくれれば、僕の作った魂は成功と言えたんだけどね、今はこのザマだ。ゼロの家庭環境の悪さもあるんだろうけど・・・。」
「自我を持って、支配から離れる?ゼロって私達が知ってる人なんですか?何とか出来ないんですか?・・・まだ捕まってないですよね?」
「・・・看視科にも遂行科にも、神様にも手に負えない。現在の情報も無ければモニター越しで見る事すら出来ない。だから僕が何とか出来るとしたら、その切り札は【この世】の琉緒だ。」
「琉緒!?相手は通り魔ですよ!?例え操っていると言っても危ないんじゃないですか!・・・琉緒は・・・その事を知っているんですか?」
「琉緒に言うつもりはない。そして危ないのも承知だ。何故なら・・・琉緒が通り魔に刺される前提で進める予定だから。」
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