夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

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第2章

第42話 暁闇

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美癒はユースケを呼び止める。

「ジン様に相談してみよう!慎先生に連絡してもらうから一緒に職員室へ行こ!」

「は!?ジンだと!?」
「ジン様直々に!?」

琉緒とユースケの声が被った。

美癒は琉緒のことは無視して、ユースケの腕を掴み職員室へ向かう。

琉緒は慌てて2人の後を追う。

「おい待てって!」

「なによ!協力してくれないんでしょ!?」

「・・・分かった!分かったから、俺が連れて行く!!」

「もう琉緒にはお願いしない・・・もしジン様が駄目だったら声かけてあげるからお座りして待ってなさい!」

「お、おすわりだと!?いいから行くぞ!」

美癒とユースケの身体がフワリと浮いた。

慣れていないユースケは、高所恐怖症なのか下を見て「ヒィッ」と小さな叫び声をあげていた。

このまま琉緒が2人を連れて異界の山に向かおうとしたら、背後からフワッと風が吹く。

「ははは、なにごと?」

「ジン様!!」

「ジ・・・ジン様!?本物!?」

感動して喜ぶユースケに向かって、ジンは手を振る。

「美癒ちゃんに呼ばれた気がして飛んできたよ。気のせいだったかな?」

「すご~い!呼んでました!!異界の山に連れて行ってくれませんか?」

「おい、考えてみろよ。ジンに言っても反対されるだけだ・・・。」

琉緒はジンを見ながらすごく嫌な顔をしている。

美癒はジンに事情を説明した。

「うん、面白そうだね。行ってみよう。」

琉緒にとっての誤算・・・ジンは乗り気だった。


***


異界の山に到着すると、ジンが誘導任務の人に話をつけにいってくれた。

「今日はトオルさんが担当らしい。きっともう崖を登っている頃だ・・・急ぐよ。」

そう言ってジンは美癒とユースケと共に物凄い速さで飛んでいく。

琉緒もそのあとを続く。

「あ!見えた!!もう崖の上だ!!」

トンッと崖の上に足をつけると、トオルの隣には可愛い女の子が立って美癒達を見ていた。

「だれ?空を飛んで・・・?」

透き通るようなとても綺麗な声だった。

(ユースケの担当って女の子だったの!?え?家族とか?)

「サヤ・・・。」

ユースケが女の子の名前を呟く。

「はい。」

「俺は兄ちゃんだ・・・。」

サヤと呼ばれる女の子と兄妹である事を初めて口にした。

「お・・・お兄ちゃん?ははっまさか、そんな・・・
そっか、聞いてるよ・・・お母さんがあなたの命を奪ったってこと。私も毎日のように言われたもん『お前なんか産むんじゃなかった』って・・・。」

悲しそうに話し出すサヤを見ながらユースケは頭を下げる。

「今まで何もしてやれなくてごめん。勝手かもしれないけど・・・サヤには生きていて欲しい。・・・戻ろう【この世】へ。」

ユースケがサヤの手を取る。

その瞬間、儚げに見えたサヤの表情が急に青くなり身体を小刻みにに揺らしながら震え出した。

「い、いや・・・戻りたくない・・・こわい、こわい・・・。」

立っていられなくなりその場にしゃがみ込む。

「母ちゃんは必ず罰を受ける。大丈夫だから、自分から未来を捨てないでくれ・・・。」

「嫌だよいやいや!!!絶対に戻りたくない、殺されるくらいなら自分から死んだ方がマシ!!」

異常なほどに怖がるサヤを見て美癒はどうしたらいいのか分からなくなった。

(この子・・・もしかして・・・。)

「頼む!お前は絶対幸せになる!!でもこっちに来たら全て終わりなんだ、負けるな!!美癒、頼む!!!」

ユースケはサヤの手を握ったまま、叫んで美癒の方を見た。

「あ、はい・・・!」

美癒も慌てて2人に近付く。

座り込んだサヤの頭に向かって右手をかざした。

「・・・。」

辺りがシーンと静まり返った・・・だが何も起こらない。

「・・・あ、あれ?できない?」

慌てて、左手をかざしてみたり両手をかざしてみたりと試みる。

「なんで・・・ーーー?」

背後からジンが近付いてきて、美癒の手をそっとおろした。

「美癒ちゃん、迷ってるよね?この子を戻してもいいのかどうか。」

「あ・・・確かに迷ってるけど・・・でもちゃんと『戻れ』って思いながら手をかざしました。」

「そっか。・・・ユースケ君、残念だよ。美癒ちゃんは魔法を使うことは出来ない。」

「な・・・んで・・・?」

絶望に満ち溢れたユースケと、自分の力不足に申し訳なく顔を上げられない美癒。

落ち着いたサヤがユースケの手を振り払う。

「良かった。本当に戻りたくないの、死んだ方がマシ。」

「ちなみに自殺は簡単に生まれ変わることが出来ないからね?」

サヤに向かってジンが助言をする。

「いいわ。こんな世界、私だっていらない。・・・お兄ちゃん?私の兄だなんて実感ないけどさ、お別れだね。でも気持ちはよく分かったよ、ありがとう。またいつか、どこかで会えたらいいね。」

サヤは立ち上がり、黙っているユースケに向かって笑顔を向けた。

「じゃあね。」
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