59 / 121
第3章
第59話 境界線
しおりを挟む紅藤色の魂は、近付いてくる美癒と琉緒に気付くと一礼したように見えた。
「こんにちは、何してるんですか?」
「どうも。俺は母親のことを見てたんだ・・・ほら、あなたたちにも見せてあげる。」
(男の人なんだ・・・!)
紅藤色の魂は、美癒と琉緒の目の前にも映像を浮かべた。
「うっわぁ~・・・すごく綺麗な人だね。」
「だろ?でも交際相手が最低で、母親は俺を妊娠してることを告げたら捨てられてシングルマザーになる予定なんだ・・・だから俺が早く大きくなって母親を助けてやる!そう思いながら見てると、早く生まれたくてウズウズするよ。」
紅藤色の魂は「自慢の母親だ」と語り続ける。
美癒は自然と微笑みながら話を聞いていた。
「あなたは優しいね。お母さんは幸せ者だ。」
「そ、そうか!?俺は男だし、母親を守ろうとするのは普通のことなんじゃないのか!?」
「うん、素敵だよ。そしてあなたの心は綺麗だね・・・だからあなたの周りも心の綺麗な人が集まるわ。必ず幸せになるのよ。」
「あぁ、約束する。母親を守れるのは俺だけだからな!」
(なんて良い子なの!ゴ●ブリになる魂達も見習ってほしいわ!!)
「いつお母さんのお腹へ行くの?」
「3日後に行くんだ。ここに来てからも結構経つしね、本当に待ち遠しいよ。お腹の中から直接母親の声を聞けるのがすごく楽しみなんだ。」
「ふふっ3日なんてあっという間だよ。だから今のうちにお母さんをしっかり見て、大きくなったら何をしたいか色々と想像してみて。残り3日間が100倍楽しくなるから。」
美癒は、自分で言いながらハッと昔の事を思い出す。
(”したいこと”と言えば、お父さんはよく『菜都が大きくなったら一緒にお酒を飲みたい。楽しみだな。』って言ってたなぁ。お酒を飲んだことのない私には分からないけど、何回も言ってたくらいだし楽しいのかな?・・・どちらにしてもお父さんの夢を叶える相手になれなくて残念だわ。)
紅藤色の魂は美癒に元気よく返事をして、再び母親のことを眺め続けた。
邪魔しないでおこうと思った美癒は、「じゃあね」と小さく声をかけてその場を離れる。
すると、今まで黙っていた琉緒が美癒に話しかけた。
「どうせ生まれたら、ここでの記憶はなくなるんだ。なのに将来したいことなんか考えて何になる?」
「冷めてるねぇ~。例え忘れたって生まれた後も同じことを考えてるのよ。さ、琉緒が担当した子にも会いに行こう!」
(私の担当は全員ゴ●ブリだし。)
そう思いながら琉緒に案内を頼むが、琉緒は歩くのを止めた。
「特に誰かと話すようなことも思いつかねぇし・・・。」
本当に困った顔をする琉緒を見て、美癒は余った時間をどう過ごそうか考えた。
「どこかに悩んでたり困ってたりする魂がいたらなぁ・・・。」
ボソッと呟くと、琉緒が目を見開いた。
「おい、ちょっと待て。何で”悩んでる魂”と”困ってる魂”を探してるんだ!?また余計な事をしようとしてねぇか?」
琉緒の顔が一気に青ざめる一方で、美癒はごまかすように笑った。
「え・・・えへっ?別にそんなつもりはないけど、することないから何か自分に出来ることがないかなー・・・な~んて・・・?」
ヤバいと思いながら、ひきつった笑顔を向けたがすぐにいつもの表情を取り戻した。
「ジンから『あくまで交流だけ』って言われてるだろ?それを忘れるなよ!全く・・・俺がお世話役につけられるわけだ・・・。」
「ん-もう、まだ何もしてないのに勝手に言いがかりつけないでよ!」
「いーや、放っておくと何するか分からねぇ!」
「あのー・・・。」
美癒と琉緒が言い合いになっていると、深紅色の魂が話しかけてきた。
(全然気付かなかった!びっくりしたぁ。)
「さっき『悩んでたり困ってたりする魂がいないか?』って聞こえたんですけど・・・。」
琉緒は嫌な予感がした。
「いや、言ってねぇ。他を当たってくれ。」
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる