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第3章
第64話 直面
しおりを挟む美癒は両目を閉じて深呼吸する。
ジンの手から肩へと温もりが伝わる。
「すごく嫌な予感がして・・・それからずっと震えが止まらないんです。そしたらテル先輩が現れてここに連れて来られました・・・。一体何があったんですか?すごく嫌な予感がします・・・。」
耳鳴りまで響いてきた。
理由も分からず一体なにがこんなに不安なのだろう?
でも突然呼ばれたからには必ず何かがある。
それもよくない何かが・・・。
ジンは視線を下げて余裕のない表情をした。
「そうか、美癒ちゃんはすごいね・・・。早速だけど時間がないから移動しながら話すよ。琉緒は・・・寝ててよかった。起こさないようにこのまま連れて行こう。」
そう言ってジンは魔法で煙を出し琉緒を包み込む。
あっという間に琉緒の姿が見えなくなってしまった。
「る・・・琉緒は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。これで起きても出てこれない。まぁ起きる心配はなさそうなほど良く眠ってるけどね。」
琉緒は側にいるのに、姿が見えないだけでこんなに不安になるとは思わなかった。
ジンは美癒と煙(琉緒)とともに飛んで行く。
「どこに向かってるんですか?何があったんですか?」
「・・・異界の山だよ。遂にゼロが姿を現した。」
「ええ!?ゼロが!!?」
いつかこの日が来るとは思っていた・・・が、まだまだ先であって欲しかった。
「でも私、まだ魂の入れ替えの練習ができてません。機会がなくて・・・。」
ジンの表情は引きつっていた。
「誤算だった・・・無理やりにでもこちらで機会を作るべきだった。僕としても美癒ちゃんが練習して経験を積んでから琉緒の入れ替えに挑みたかったんだ・・・。
だがやってきたからには仕方がない。一度きりのチャンスだ。失敗は許されない・・・!万が一の時は、琉緒の魂は身体に戻れず死んでしまう。
美癒ちゃん、やって・・・くれるよね?」
ジンは申し訳ない気持ちを隠して、少し脅迫めいた言い方をした。
美癒により一層の危機感を持ってほしかったのだ。
一方の美癒は自信を持って返事ができずに黙り込んでしまったが、ジンの気持ちは痛いほど伝わっていた。
複雑な気持ちが邪魔をしていたため、ジンと”思いは同じ”・・・とは言い切れないが、成功させるしか琉緒に未来がないと理解している。
つい先ほどまで悠長に構えていた自分が恥ずかしくなり苛立ちすら覚えたが、今は前を見て進しかない。
最大限の力を出さなければいけないのだから。
美癒の身体には自然と力が入っていたが、それはジンも同じだった。
「【この世】は、今どのような状況なんですか?」
「僕の予定通りに事は進んでいる。ゼロさえ見つけれたらこっちのモンだ。」
「予定通り・・・って事は、【この世】の琉緒は既にゼロと居合わせてるんですか?」
ジンの表情にうっすらと笑顔が戻り、美癒は少し安心した。
「うん、ゼロは何故か菜都ちゃんを狙っていた。菜都ちゃんが一人になった所に現れたんだよ。・・・安心して、もちろん僕(琉緒)も駆け付けたし菜都ちゃんは無事だ。
ゼロと琉緒が対峙さえすれば、あとは簡単なことさ。奴の命を奪うと異界の山に来ざるをえない。・・・さて、ちょうど琉緒とゼロが刺し違えた所だ・・・急ごう。」
”刺し違えた”・・・聞くだけで鳥肌が立った。
琉緒の痛みを想像すると辛い。
(ジン様が予定通り進めてくれたんだ・・・だから、あとは私が何とかしないと!)
美癒は唇をギュッと嚙み締めた。
話しているうちにジンと美癒は異界の山の目の前まで来ていた。
遠くにテルが立ち、手を振りながら待ち構えていることが確認できた。
ジンが手を上げて合図をするとそのままテルの元へ進んで行く。
その時、ジンの顔が急に青ざめはじめた。
「まずいな・・・。」
ボソッと呟くジンをみて美癒は再び嫌な予感しかしなかった。
「どうかしましたか!?」
片手で顔を覆い、何かを考えている様子のジン。
美癒には見えなかったが、隠された表情は絶望で満ち溢れていた。
一体何が起こったのか?どのような状況なのか知りたいのに、ジンは何も答えない。
聞くのが怖い・・・だが気になる。
(ジン様の視界は【この世】にもあるんだもんね・・・大変だよね・・・話してくれるのを待とう。)
異界の山の麓に降りると、テルがジンに向かって跪く。
「トオルさんには既に話をつけてあります。お急ぎください。」
「助かった、ありがとうテル。」
美癒はテルに頭を下げた。
テルはとても悲しそうな表情をしていた。
急ぎ再び飛ぼうとすると、ジンは眉をピクッと動かした。
「・・・来たな、ゼロ。」
遂にゼロが異界の山へ導かれたようだ。
ジンがゼロを思いながら、見上げた遠い空を睨みつけていた。
そして、ジンと美癒はテルを置いて再び空高く飛び進めた。
そして・・・
崖の上の扉前に辿り着くと、3つの人影が並んでいた。
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