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第3章
第65話 直面
しおりを挟む人影は美癒たちに背を向けた状態で微動だにしなかった。
(多くない・・・?何で3人いるの・・・えっまさか!?)
地上に降りると美癒は少しずつ人影に近付き、後ろ姿を見て驚く。
「琉緒と・・・琉偉・・・?」
消え入るような声で名前を呼ぶ。
その声は震えていた。
美癒は振り向き、後ろに立ち止まっているジンを見て・・・ジンの暗い表情を見て”やはり琉偉なのだ”と確信する。
「ジン様・・・?さっき、予定通りって・・・言って・・・ましたよね・・・?」
身体が震え、上手く呼吸が出来ないなかで必死に問う。
(ジン様にとって予想外な”なにか”・・・一体なにが起こったのーーー?)
***
【この世】の季節は春を迎え、もうすぐ夏がやってくる。
菜都達は高校生になっていた。
近くの高校に進学したため顔見知りが多く、もちろん香織と琉偉と陽太も同じだ。
クラスは皆バラバラになってしまったが関係は変わらない。
上級生の3年には兄の琉緒もいる。
菜都は琉偉と2人で話す機会を諦めていなかった。
同じ学校だからという理由もあるが、もう一つ。
高校生になると携帯電話を買ってもらう人が多くなり、菜都もその一人だった。
琉緒とは【水の世界】について話をしないといけない。
もうすぐ買ってもらえる予定なので、携帯電話が手に入れれば誰にも邪魔されずに兄の琉緒と簡単に話す事ができると考えたのだ。
「菜都~!電車で遊びに行ってから帰ろうよ。」
香織が菜都の教室に迎えにきた。
小学生の頃から知っている香織は、最近特に大人びてきた気がする。
ただし見た目に限る。
「何言ってんのよ~。今日は陽太がタ●ンワークを持ってきたから一緒にバイト探しして欲しいって言ってたじゃないの。」
「そうだった!!で、みんなはどこにいるの?」
「陽太のクラスじゃないかな?」
高校の放課後も部活動でとても賑やかだった。
菜都は騒がしい音が苦手だ。
だが香織から「菜都は騒がしい音が落ち着くって言ってたもんね」と言われたため、平気なフリをする。
陽太の教室につくと、琉偉と琉緒、それと琉緒が連れてきたと思われる知らない3年生がいた。
「あ、琉偉のお兄さんもいるー!」
「陽太におすすめのバイドを聞きたいって呼ばれてさ。バイトしてないから英二を連れてきた。」
知らない3年生は英二というらしい。
「女の子が来るなんてラッキー。よろしくね、名前は?彼氏はいる?」
(う・・・なんだかチャラそう・・・。)
苦手なタイプで、菜都は少し嫌な気分になり返事が出来ないでいたが、香織は笑顔で軽くかわす。
「こっちが菜都で、私が香織だよー。言っとくけど菜都はそこにいる琉偉と付き合ってるし、私は絶賛片思い中の・・・いや、彼氏になる予定の人がいるんだからね。」
オーバーな表情をする英二は、あからさまにがっくしと肩を落とす。
「なぁんだ、みんな青春してるなー。うらやましぃぜ。」
「ごめんね菜都ちゃん、香織ちゃん。英二は悪い奴じゃないんだ。長く付き合ってた彼女に最近フラれてさ。」
「おい心の傷をえぐるな(笑)。」
挨拶しそびれた菜都は英二に向かってペコリと頭だけ下げて、手招きしてくれている琉偉の膝の上に座った。
「シャンプー変えた?」
琉偉が菜都の頭を撫でながら訊ねる。
「うん。駅前で配ってた試供品を使ってみたら気に入って、買ってみたの。」
「んー、前のも今のもどっちも良いなぁ。」
そんな菜都と琉偉を、英二が見ていた。
「ひ・・・膝の上・・・。」
うらやましそうに呟く英二のことは無視した。
「陽太、タ●ンワーク見せて。」
「あ、ほら沢山あるぜ。」
陽太が冊子をバサッと取り出して一人ずつ配っていく。
「何冊取ってんだよ・・・。」
琉偉が笑いながらツッコむから、振動が伝わる。
「スーパーに無料でおいてあるんだぜ?感動だわ!」
菜都は琉偉と一緒にページをめくっていく。
(バイトって色々あるんだなぁ・・・、よく見ないと高校生不可とかもある。)
「英二さんは何のバイトしてるの?」
「俺はコンビニと、牛丼屋と、ラーメン屋!」
「えぇ!?そんなに??忙しそう・・・。」
「シフト制だから毎日行くわけじゃないし、今日みたいに暇な日だっていっぱいあるよー。」
「へぇ~、コンビニかぁ・・・。コンビニなら近くにあるし通いやすいかも。」
「近くのコンビニ、ちょうど求人がのってるよ。」
「え、どこどこ?」
菜都は該当箇所を指さす。
「本当だ!・・・でも他と比べて時給が安いんだなぁ。」
「そうなんだよ、一番時給は安いけど覚える事は大量大量。俺の所は基本2人体制だからかなり忙しい。でも常連が多いから毎日楽しいな。常連のタバコ購入時は言われる前に出したら喜んでもらえるし、差し入れをくれる客だっている。」
(英二さん、普通に話してたらかなり頼りになるじゃん・・・。)
チャラチャラした印象の英二も、普通にしていればモテるだろう。
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