夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

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第3章

第75話 気概

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「ところでさ、ここってどこなの?」

【あの世】につながる扉の中に入ってしまった。

絶望的な表情をする美癒とは正反対に、彼は落ち着いていた。

誰からも状況を教えてもらっていないのだから当然といえば当然だ。

そんないつも通りな琉偉のおかげで、美癒も少し力を抜くことが出来た。

美癒は「ふぅーっ」と大きく息をはきだした。

「ほんと今更だねぇ・・・。」

「今までは聞ける雰囲気でも無かったし。」

異界の山に来た時からずっと疑問は持っていた。

美癒は、ここが【あの世】に通じる扉の中であることを琉偉に言うべきか悩んだ。

「そうだったね。でも私もここに入るのは初めてなの。」

扉の中に吸い込まれた美癒と琉偉は真っ暗な空間・・・でもただの暗闇ではない、至る所に光があり、まるで宇宙にいるようだった。

ゼロだけは地獄へ堕ちて行き、同じ空間には見当たらない。

意外と呆気なく地獄へ行ったが、琉偉を巻き込むとは・・・最後まで最低で狡猾な奴だ。

「キレイだなー、ここ。歩き続けてたらどこにいくんだ?」

「え?怖く・・・ないの?」

「んー、別に?だって菜都がいるじゃんか。」

琉偉の声が響いて2人の視線が重なる。

「・・・」

「・・・」

「・・・え!?」

長い沈黙を破った美癒は、突拍子もない声を出す。

全身に鳥肌が立った。

(私のことを『菜都』って言った・・・?そんなまさか・・・。)

”有り得ないーーー”

”単なる呼び間違いーーー?”

そう思いつつもどこか期待してしまい、琉偉から目が離せないでいた。

「何をそんなに驚いてるんだよ・・・菜都だろ?なんか見た目は違うけど。」

その通り、見た目は琉偉の知っている菜都とは違い、美癒の姿である。

だが、そこにいる彼女が菜都であることを当たり前のように言った。

(呼び間違えじゃなかったんだ・・・。)

目を大きく見開き、何度も瞬きをする。

「ほん・・・とに、私が・・・分かるの?」

「え?うん。それで、何でそんな恰好なんだ?」

琉偉は不思議そうに首を傾げながら、美癒を見つめる。

「・・・」

「・・・」

「・・・ふふふっ。」

琉偉を見つめたまま、美癒は目をパチパチさせたあと思わず吹き出した。

なんだか胸の奥がくすぐったくて、笑いが堪えられなかったのだ。

それにつられて琉偉も笑いはじめる。

(相変わらずだなぁ・・・私が笑ったら、琉偉はいつも笑い返してくれてた。)

昔と同じ笑顔が返って来る感覚に懐かしさを感じながら、大きく深呼吸をした。

このまま不意と話していたら・・・まるで、菜都に戻ったと錯覚してしまいそうだった。

そんな自分を落ち着かせて冷静さを取り戻す。

「最初の質問に答えてあげる。いま琉偉は死後の世界・・・【あの世】に向かってる。さっきの大きな扉が【あの世】につながってて、私達はその扉に入ってしまったの。それなのに怖くないなんて・・・ふふっ、笑っちゃう。」

美癒は”笑い”の本当の意味を琉偉には伝えなかった。

敢えて、”琉偉が怖がらなかったから”笑ったことにした。

「えー?やっぱ俺死んでんのかぁ・・・。でもさっき言ってた兄貴が無事だっていうのは本当?」

自分が命を落としたというのに深刻にする様子もなく、他人事のように吞気な言い草だった。

「本当だよ、さっきまでは一緒にいたんだけど”本物のお兄さん”は無事。
そして琉偉・・・あなたもきっと大丈夫・・・私が何とかするから・・・。」

美癒は琉偉を【この世】に帰すため、魔法が使えるか何度も試みたのだが
扉の中だと魔法が使える気配が全くしないのだった。

「何とかするって・・・?」

「琉偉はまだ死んでない。【この世】で身体は生きてる・・・でも身体がいつまで持つか分からないから急がないと・・・。」

「俺は何をすれば良いんだ?」

「もー、さっきから質問ばっかりね!とりあえず入ってきた扉から出たいんだけど・・・。」

美癒の言葉に、琉偉は周囲を見渡す。

「扉なんて何処にも見えねぇぞ?」

「そう・・・でも探し回る以外に今できることは思いつかなくて・・・。」

「・・・なぁ・・・ここが【あの世】なら、何で菜都もここにいるんだ?」



ーーー美癒は質問に答えなかった。

視線を遠くにうつして引き続き進みはじめた。

扉を探して歩きまわるが、ちゃんと扉に向かって戻れているのか、それとも【あの世】に向かって進み続けてしまっているのか・・・全く見当がつかなかった。

以前ジンが
”扉の中に入ってしまうと、どうすることも出来ない”と言っていたことを思い出して余計に不安を感じた。

(琉緒・・・お願い!力を貸して・・・。)

美癒は無意識のうちに、祈るようにして胸の前で両手を握りしめる。

困ったときに琉緒を頼ろうとしてしまうのは美癒の悪いクセだ。

(・・・ん?)

すると胸元にあるペンダントの感触に気付く。

「こ、これ・・・・・・ッ!!」
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